七万円彼女

川崎 裕

プロローグ

君は忘れてしまうかもしれない。


共に過ごしたあの頃を。


それでも。


僕は忘れはしない。


君がいた日々を。


かけがえのない、その記憶メモリーを。


……


世界はまた動き出した。


君という歯車はなくても。


きっと明日は普通に来る。


いつも通り、いや、まぁまぁ楽しい明日が、僕にも来るだろう。


それはきっと君が望んだ世界———


………



気がつけば桜の季節が来ていた。


別に特に新しい出会い別れがある訳じゃない。


感傷に浸る気もない、そう、ただ新しい季節が始まるだけ。


……


来るのが早過ぎた。

皆はまだ集まってないか。



そう、今日はサークルの友人らと花見に来たのだ。


なんて平和ボケだろう?


残された、僕ら。


だれも恨みはしないさ。


今年も、桜が満開だ。


きっと君も見てるだろ?


………


一陣の風が吹いて、ピンク色の砂嵐のように花弁が舞い上がる。


その中に一瞬、


一瞬だけ、君が見えたような気がした。


あの日は、冬だったかな。


そろそろ皆が来る。


君のいない、新しい春が来る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る