第9話:一日目終了
少女達が食べてみたいものがあるとのことで、外行きの服に着替える為に部屋に戻って数10分後。
どこかで話がどんどんと広がっていき、気づけば整頓メンバー以外にも寮内に残っていた少女達も参加することになっていた。
午前で学校授業が終わっており、町へと繰り出している少女達もいる為全員とはいかないが、かなりの大所帯となった少女達と共に1時間に数本しかないバスに乗り、約1時間。
バスはほぼ全席寮内の少女達で埋め尽くされ、正直迷惑だなと思いつつも目的地である街中へと降り立つ。
県庁所在地のあるこの街並みで、更に噂を嗅ぎ付け街で遊んでいた少女達も合流し、ぴったり女子寮を利用する少女達が一同に会するという、何が起きたのかと思える女子高生の群れの中に男が1人というのは流石に周りの目が辛い。
そう思いながら、「引率者と考えればいい」という結論に達し、カヤはこの状況を現実逃避することにした。
少女達の言うがままに路面電車へと乗り込む。
路面電車は流石に50人も同時に乗れない為半々に分かれて乗り込む。カヤはこの町に到着した時にみた黄色いボロい路面電車に乗り込んだ。
これだけの人数が乗ると、流石に止まるんじゃないかと思ったが、「任せろ」と言わんばかりにがたんごとんとボロい路面電車は頑張ってくれて、無事目的地へと到着。
桜橋と書かれた駅を下車し、名前から見ても春になると花見で盛り上がりそうな道を歩くこと約2分。
中国風の門構えの料亭『金茶寮』が目の前に見えてきた。
土地が余っているのか、都内であればかなりの規模になるであろう大きさの料亭だった。
金茶寮ほどの豪邸なら都内で見ることもあるが、料亭ともなると珍しい。
明らかに高級料亭である。
「……これはまた、大きいところ、だな……」
「昭和4年に創業された、老舗の料亭らしいです」
「……老舗、ねえ……」
カヤは改めて金茶寮を見上げる。
老舗というくらいだから、美味しいのであろう。
ただ、これは……予約が必要な部類の料亭ではないか?
女子寮の利用者全員が集合することから、何か作為的なものを感じた。
「老舗だよ♪」
「お前等……高そうな店を選んだな」
「高そうじゃなくて、高い」
路面電車で眠ってしまった美冬を背負ったが望がさらっと答える。
「予約とか必要だろ」と聞いてみると、望から予約済みという回答が返ってくる。「何人分?」と聞けば60人程度という回答も返ってくる。
よし……こいつが犯人だな。
後で説教してやろうかと思ったが、望もこの規模だとは流石に思っていなかったようで若干顔が引きつっていた。
まさか……望を扇動してこの料亭を選んだ誰かがいると言うことか……?
「……まあ、俺のおごりだからいいんだが……」
流石に他の少女達もこの規模のお店に入るというのは想定していなかったのか躊躇していたようだが、カヤの一言を聞いて一斉に歓喜の声が上がる。
この人数で叫ぶように声が上がれば、大歓声となる。
周りから不審人物を見るかのように注目を浴びた。
「いやぁ……悪いねぇ永遠名」
気づけば女子寮に置いてきていたはずの水地が合流していた。
まるでカヤがその言葉を周りに伝えるのを待っていたかのように、なぜか手揉みしながらへらへらと笑っている。
……お前かっ!
「お前は自分で払え」
「そんな殺生な!」と叫ぶ水地を無視し、カヤ一行はぞろぞろと金茶寮へと入っていく。
大丈夫だ。安心しろ水地。
……お前にも払わせるから。
「広い広い♪」
「茜、はしゃぐな」
自動ドアが開いたと同時に金茶寮の中を歩き回りそうな茜にそう言うが、すでに茜はいないし、他の女生徒もざわざわと騒いでいる。
保護者の水地も一緒になって騒いでいる時点で混沌だ。
仲のいいバカップルめ……とカヤは2人を見てため息をつく。
「な、何か、高級って感じだな……」
「ん? お前……」
「な、何だよ」
「まさかと思うが、びびってるのか?」
カヤが望の顔を覗き込んで言うと望は一気に赤くなった。
耳まで赤くなるとは、まさにこのようなことを言うのだろうと思いながら、望に抱いていた印象が変わっていくことを感じていた。
荷物整理の時といい、今の姿といい、普段見せていた姿と違って女子高生らしい姿ににやぁっと笑う。
「だ、誰がっ!」
「あんまり大声だすと、注目されるぞ~」
「う……」
カヤのその言葉に、望はきょろきょろと辺りを気にし始める。こんな料亭に入ったことはなかったのであろう。分かるほど固くなっていた。
時間帯のせいか、人はほとんどいないので聞かれているわけではない。聞かれていてもスタッフくらいだろう。
これから一気に混んでくるのであろうが、その前に予約が取れてよかったと思う。
この人数は流石に予約を取るとしても準備も必要だ。
なのに、直前ともいえる時間に予約を取り、それに対応する、できるという所にこの料亭の底力を感じた。
「くくく……まあ、人もいないから緊張することはないだろう?」
そう言いながら望の肩を軽くぽんぽんっと叩き、綺麗に整えられた川を見立てた砂地の上でアーチを描く赤橋を渡り、フロントへと向かう。
カヤがフロントで人数を言うと、『松風』という広めの部屋へと店員は案内する。
目の前を楽しそうにイチャイチャしながら歩くバカップルを見ていると、全然そんな印象はなかったが、ふと
「……何か、ラブホテルを連想する、な」
「カヤちゃん、入ったことあるんですか?」
メイに返された言葉に、無言で返すしかなかった。
・・
・・・
・・・・
「……お前等は遠慮という言葉を知らんのか?」
「あは♪ やっぱり食べ過ぎだったかな♪」
金茶寮での食事を終え、カヤが呆れて口を開くと、満足そうに茜が返事を返してきた。
その横では水地が茜にべたついている。
結局、水地は料金を払っていない。
財布自体持ってきてなかった。
最初から水地はおごってもらう気だったようだ。
どうやらこの為に交通機関を利用せずに走ってきたようだった。
この馬鹿は帰りも走らせようと思う。
「……誰が払ったと思ってんだ……」
「おっさん」
「望。あっさりと答えるな……」
金茶寮で出された食事を一番食べた望が満足そうに答える。
コース料理を食べた後のデザートを、追加で何回も注文するとか、本当にどんな神経しているのかと思った。
「みなさん、静かにしてください。美冬ちゃんが起きちゃいます……」
満腹になって眠りこけた美冬を担いだメイが、周りに静かにするよう促すが、全員帰宅することになって一緒に乗っている少女達が喋りを止めるわけがない。話題は尽きず、がやがやと会話は止まらない。
「……よく寝るよな」
「寝る子は育つ、です」
「それは小さい子の場合だ」
メイの天然の発言に呆れながら、とりあえずツッコミを入れておく。
「あまり金のことは言いたくないが、合計幾らかかったと思ってるんだ?」
「……一人3000円と考えてぇ……あれ? 10万円超えてるねっ♪」
「ウェイターの顔を見てなかったようだな」
「びっくりしてたな」
「……分かってたなら、ちょっとは遠慮してよ。望ちゃんの馬鹿ぁ」
あまりの大金を払ったカヤが悲し気に少しおかしい口調で呟いた。
雪の降る町に、一際寒い風が吹いた気がした。
「……ほぼ80万円、払わされた」
「……あ、あはは……」
金はたんまりとあったが、それでも普通に考えると、払えばたまったものではない金額だった。
現金で払えるわけがない。
この子達にとっていい経験になったのであれば、まあ、よしとしよう。
そう思いながら管理人としての1日目が終了した。
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