―型式―
――××年××月
A級殺人許可証所持者の考察より――
裏世界には『型式』というものがある。
裏世界の殺し合いにおいて、相手をいかに倒すかに特化するために作られた熟練者の技であり、殺人許可証所持者が殺し屋組織や賞金首を相手にする為に覚えなければならない試練の一つがそれである。
人の力だけでは限界がある。
殺人許可証所持者と言えど人であり、裏の法を守る番人のような位置づけと化している許可証においては、相手よりも力が必要である。
特に、殺人許可証と勢力を二分する殺し屋組合との、熾烈を極める勢力の削り合いという殺し合いの中で、絶対数の少ない殺人許可証所持者の生存競争を上げるためにも圧倒的な力が必要だった。
そのために生まれた、人を殺すために自分の力を増幅させる力。
それが型式である。
人を殺さない為に作られた抑止力としての殺人許可証。
人を殺すために作られた型式という力。
どちらも殺人許可証所持者に与えられる力ではあるが、矛盾しているのがなんとも笑える話だ。
型式は、それぞれに役割があり、人によって得意不得意も存在する。
型式は、5つの型から成る。
『焔』の型は主に筋力を強化する。
熟練すれば炎を操ることも可能となる為、『焔』と名がつけられた。
過去の事例として、とある殺人許可証所持者は、辺り一面を焼野原とする『紅蓮浄土』と呼ばれる技まで昇華させたと記憶がある。
発動されたら最後。
電子レンジに入れられた人のように破裂するそうだが、そこまで熟練するにはどれだけの時間が必要だったのであろうかと恐怖を覚えられずにはいられない。
『流』の型は主に治癒力を強化する。熟練することにより水を操ることが可能となる。
つい先日、友人がこの『流』の型を習熟し水を操れるようになっていたことが記憶に新しい。
その結果、『弓鳴り』という、水で弓を作り、それを探知の力と合わせて広範囲の探査能力・ジャミング能力を得ることができていた。
彼は遺跡に関する仕事を好んで行う為、彼にそのような能力が備わったことに、数少ない友人の生存率が上がったと考えると嬉しく思う。
他にも、『流』の型は医療の場で使われることが多い。
前時代のA級殺人許可証所持者『癒しの戦乙女』と呼ばれた女性は、表世界でも有数の医者としても名を知られている。
『疾』の型は主に能力者の速さを強化する。
他とは違い、身体を強化するのではなく、自然の力を操り、自身の力とする型式である。
大気を操ることが前提の能力ではあるが、移動手段としても重宝し、所持者としては必須の能力ではないかと思われる。
もし型式を覚えたいという弟子が現れたのであれば、まずこの型式を覚えさせたいと思っている。
『縛』の型は大地の力を間借りする。
自分の体を堅くすることができ、刃を通さない体にすることができる。
しかしながら、そこに至れた所持者は少なく、唯一極めたと言われる熟練者も、殺人許可証所持者ではなく、S級賞金首だと言うのも、殺人許可証所持者の為の技なのに皮肉な話である。
話が反れたが、『縛』の型は縛り付ける能力を獲得出来るため、捕縛などの相手を生け捕る際に使う所持者が多い。
ただし、習熟することで『疾』の型と同じく、生存率を上げるためには必要な型式ではないかと思われる。
そして、最後の型。
『呪』の型は、特殊な型である。
習得者も少なく、どのような能力が備わるか分からない型式だ。
覚える方法は簡単。『呪』の型を自分にぶつけてもらうだけだ。
それでいつの間にか使えるようになるという特殊なものである。
ただし、生きていられるなら、ということが条件として忘れてはならないことだ。
紅蓮浄土のように、発動されたらそれで終わりという類いのものは、『呪』の型がもっとも多い。
例えば、三院の紫閃光の修羅の『呪』の型は、暗闇の球体の中に閉じ込めるというものだが、ただでさえ最強の修羅が、体感的に通常の3倍の動きをもって襲いかかってくるそうだ。
ただ、時間をかけたり、ある一定の条件を満たすと、本人は球体の中で溶けて死んでしまうというデメリットもあるらしい。
他には、同じく三院の紅閃光の修羅が使う『呪』の型は、発動すると、辺り一体が何も残らなくなる。
見たことはあるが、目の前にあった何かしらが、ぱっと、魔法のように消える。そうとしか言えないほどの一瞬でそれが行われるから、見てても不思議でしょうがない。
本人曰く、超速度の銀糸で切り刻んでおり、『目に写らない速さ』を自身に付与する能力らしいが、流石に食らいたいとは思わない。
やはり、前時代の所持者のことを考察してみて、過去の裏世界が、このような力がなければ生き残れなかったと聞くと、どれだけ混沌としていたのかと思うが、その知識がなければ今を生き残ることはできなかったとも感じている。
前時代にはまだ生まれていなかったこと。
その時代を乗り切り今に伝える高天原『三院』には感謝をしようと思う。
・・
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まだ階級が低いとはいえ、そろそろ型式を覚えるタイミングだろう。
でなければ、学業を優先させようと水地も思わないはずだ。
俺のように守れないくらいであれば。俺や水地がいない時に自分の大切な者を守れないのであれば意味がない。
手を血に染める覚悟も、許可証所持者であればあるはずだ。
どうせ、この襲撃が終われば俺はこの場から去る。
餞別として、このレポートを望に見せてやろう。
流石に何年も前のレポートのレの字も分からない頃のものだから恥ずかしいが。
何も分からない望を見ながらふとそんなことを思い出していた。
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