俺の好きなやつ。
みや
いち。
「風見 章悟さん、ずっと好きでした!私と付き合ってくださいっ!」肌寒い十月の校舎裏。告白されているのは紛れもなく自分なのに、それを他人事のように眺めている自分に我ながら驚く。ていうかこんな少女マンガみたいに校舎裏で告白されることなんてあるんだな。でも、今はちょっと無理。
「ごめん、俺、今好きな人いるんだ。」
風見章悟。16歳。ごく普通の高校生。今から最近の日課についてお話ししよう。時刻はまだ朝7時半。長袖のブレザーを着込んでマフラーを巻いた俺の横を冷たくなった風が吹き抜けていく。もうカイロが手放せない時期である。俺は最近、早めに学校に来て図書室で勉強するようにしている。この前の考査の結果が酷かった…っていうのもあるけど、ここにはいつもあいつがいるから。三階までの階段を駆け上がって急ぎ足で向かった図書室は暖房が効いているから外とは打って変わって暖かい。こういうところが私立高校のいいところなのだ。公立高校に行った奴らが高校の空調の調子が悪いとぼやいていたっけ。
…あ、いた。自習スペースの右端窓側。あいつのいつもの指定席。「谷川、はよ。」「おはよう。」「あのさ、昨日の数Bでわかんないとこあんだけど教えてくんね?」「ああ。いいよ。」
谷川柊也。性別はお察しの通り、男。俺の周りにいる運動部の騒がしいやつらとは違って、17歳とは思えないほど落ち着いていて大人っぽい。そんな谷川に俺が心惹かれ始めたのは高一の時。まだ思春期を抜け切っていなかった俺たちがくだらないことで騒いでいる横で落ち着きはらって読書をしたりする姿がなんだか漠然とカッコよく見えてしまったから。悲しいことに2年になった時に谷川とはクラスが離れてしまったので、こうして毎朝一緒に勉強しているってわけ。谷川の横の席に座って、昨日の授業で出た宿題を教えてもらう。谷川といられるし、成績も上がるし一石二鳥だ。てかみんな気づいてないけど谷川、結構整った顔立ちをしている。暖房の音だけが響く中、数学のワークを解きながらこっそり谷川の顔を盗み見た。綺麗な鼻筋。切れ長の目。薄めの唇。俺より全然イケメンだと思うけどな。女子どもは見る目がないのだ。まあ、狙われても困るんだけどさ。「なんだ?まだ分からないところがあるのか?」「あ、いや、なんでもない。」俺は初めて同性に惹かれることに不思議と抵抗はなかった。でも、谷川はわからない。もし俺の気持ちがバレて、引かれてしまったら…。そう思うと怖くて、動けないのだ。だからいまはこの想いは俺の中だけで留めておく。いまは一緒にいるだけで幸せだから。
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