アイドルに会いたい

青山えむ

第1話 アイドルに会いたい●A案

 私は、アイドルが好き。


 最近は仕事で毎週のように休日出勤が続いていて疲れていたし、それに伴って職場の皆も苛々しているのが解る。

 休憩時間中に出てくる話題は愚痴や上の人間に対する文句ばかりだった。

 そんな話は毎日聞きたくないし自分でも云いたくない。けれども愉しい話題を捻出する気力も出来事も無かった。私は弱いのだ。


 こんな風に仕事や人間関係で疲れていた時に見たテレビの音楽番組。

 その日は珍しく土曜日の公休が守られて、久しぶりに金曜日の夜を自宅でゆっくり過ごそうとしていた。

 その番組に出ていたのはデビュー五周年の若手アイドルグループだった。

 五周年を迎えても未だ若手の印象があるのは、彼らの所属する事務所が昔から日本のトップアイドルを生み出し続けているからだろう。

 どうやら彼らはその事務所では一番の若手組らしい。ちょっと気になっている。

 その日の放送では年末スペシャルと副題が付いていた。

 彼らはクリスマスソングを歌っていた。どうやらこの日だけのパフォーマンスを披露したようだ。

 歌とダンスとあのキャラに、物凄く癒された。


 音楽番組が好きな私は念の為に録画をしていたので、次の日も再生した。

 何度か見た。何度も見た。好きになっている。

 次の日には市内のCD屋へ走り、彼らの最新アルバムとライブDVDを買った。

 彼らの魅力の虜になる、とはこういう事なのか。

 ライブに行きたい、お近づきになりたい。

 近づく為にはどうしたらいい? 考えた。


                 〇

 

 アイドルに近づく為にフロー作成をした。

 アイドルと接点のある業界に入るのが良いのではないかと。

 どの業界に入るか、どうしたら入れるか、幾つか検討してみる。


                ○●○


 A案●出版業界。

 アイドル雑誌他、取材や撮影で出入りする筈。

 私がこの業界に近づく為には……モデルの類は無理だから、詩・漫画・小説等を書く作家はどうだろう。勿論それらを書いた事は一度も無い。

 そこに近づく為には……まず名作を読む事から始めようか。

 アイドルにお会いした時、知的な話が出来ると愉しそう。普段の会話に何気なく名作語録なんかを取り入れてみたりしたら……きっと更に愉しくてアイドルとの会話も弾み尽きない筈。


 名作を読み新作や話題作を読み、次は自分で作品を書いてみる。

 ゆくゆくは私の作品がドラマ化した時に出演して貰ったり、主題歌を担当して貰ったり。

 制作スタッフ・キャストとの顔合わせとやらに原作者として出席……妄想は尽きない。


                 〇


 本は結構高いしかさばるので……まずは図書館へ行ってみよう。

 確か市民は無料で本を借りられる筈だ。良い案だ。

 一月は新しい気持ちで新しい事を始めるのを後押しする月だ。

 その前にネットで名作を検索しないと。

 今まで読んだことのある小説といえば、同じ東北という事で太宰治作品を何冊か読んだ位だ。

 そして一条君(私がお気に入りのアイドルグループのメンバー)が好きな作品も検索かけないと。ここが一番重要だ。

 

 おや? 一条君は読書をしていると云っていたが、好きな作品は特に公開していない様子だ。では彼が出演したドラマや映画の原作をチェックしよう。

 本の紹介はしていないけれど、一条君は昔の曲を聞いているらしい。

 そういえば以前、有名歌手が【昔の曲だから聞いているのではない、良いから聞いているのだ】って云っていたな。そういう事だろう。


 私も感化されたように昔の本も読んでみよう。

 名作っていうのは、十何年経ってから読んでも面白いし話題になる作品じゃないかなって思っている。

 発売されてすぐに名作とは謳われない気がする。十何年経たないと、名作かどうかは解らないのではないかしら。


                 ○


 図書館には色々な本があった。小説の他に絵本や歴史の本や図鑑等。

 個人で買う事は無いであろう仕事絡みでもないとまず買わないであろう分厚い高そうな本も気軽に読める。

 けれども基本的に一冊ずつしか置いていないので、少しでも話題の小説は中々借りられない。仕方ないか。

 しかし単行本で置いてあるのに驚いた。文庫本しか読んだ事のない私は、ちょっとリッチな気分になった。

 

 そして宗教の本や絵画の本等、今までなら見向きもしなかった本を見る機会だった。

 パラパラとページをめくり、このほんの数ページが、このあとの私の人生に少しでも彩りを飾るかもしれないと思ったらわくわくした。

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