#19 南沙諸島海戦、前夜
まずは南沙諸島海戦の前から話そうか。そうだな、では高麗海軍による日本国籍船団襲撃があった9月1日から話すこととしよう。
知っての通り高麗、つまり高麗民主連邦共和国は、統一前の“北”と韓国のときこそアメリカや日本に近かったが、今となっては我々の同盟国で上海条約機構に加盟している。つまり我々の味方であるわけだ。にしてもヤン、驚きじゃないか?南北統一が起きたのがもう22年前だぞ?お互い歳をとったもんだな。やれ一国二制度だの連邦国家が隣でできただの大騒ぎしていたのが昨日のようだな。呼和浩特号事件もあの頃だったか……。
おっと話が逸れてしまったな。戻すとしよう。
高麗海軍の潜水艦が船を沈めた。その船はフィリピンへ何かを輸送中だったそうだ。何かは分からんがね。とにかくS.A.T.Oへ協力しようとしたから沈めたらしい。自らは上海条約機構を名目に中国への協力を表明、S.A.T.Oとそれに協力した日本に宣戦布告。
実に馬鹿だよ高麗は。揺れる船上でそれらの知らせを聞いたとき私はそう思った。
S.A.T.Oだけに宣戦を布告すればいいものを日本にまで手を出した。おかげさまで日米安保がからんでアメリカが参戦したらどうするつもりだ。
そのときの悪い予感は翌2日に的中した。アメリカの対高麗参戦。その頃はS.A.T.Oの連中と小競り合いが続いてた訳だが、それだけならまだ勝機はあったはずだった。だが、日米両海軍が集まったら勝ち目があるわけない。思わず艦橋でそれを叫びそうになり、私はなんとかその言葉を飲み込んだ。もし言っていたらどうなっていたことか。
だがそのとき、反面アメリカ参戦の知らせを聞いて安心してもいた。あくまでもアメリカ等は高麗との戦争。
……そんな安心も数日後に打ち砕かれる訳だが。
さてアメリカ参戦を聞いたその後、空母艦隊の一艦長であるだけの私はわざわざヘリで空母“山東”に向かい、そこに搭乗しているだけのお偉い艦隊司令官殿にとある進言をすることにした。
たかが防空艦の艦長に会ってくれないのではないかと一瞬心配になったが、よく考えれば直接会ってくれずスクリーン越しでという方が“廊坊”を離れずに済むためそちらの良いことに気づいた。しかし残念ながら問題なく会ってくれることになった。
そして数海里離れた“山東”にヘリで向かい、司令官がいる部屋を訪ねた。扉をノックすると、入れと言われたので、ここは素直にそれに従い軽い挨拶の後進言した。
「他の空母艦隊と連携して南シナ海の制海権と制空権を完全に掌握するべきです」
司令官は立ち上がり、ただ面白くもない冗談を聞いたような顔をこちらに向けてただ、ノーとだけ答えた。
「なぜ?」
私は食い下がった。
「逆に問おう。なぜ?」
「は?」
「なぜ我々だけで制圧できないと思う?
「彼らには空母があります」
「近代化改修された“
「そうやって功を焦って何度無策に迎撃して落とされたと思っているんですか」
どうやらこの皮肉が、いや、明確な反抗が司令官の導火線に火をつけたらしく、司令官は話を畳にかかった。
「……とにかくだ。S.A.T.Oに動きがある。次の戦いは大規模なものになるだろう。残存する諸島防衛部隊と協力し敵軍を殲滅する。なに、心配するな、今回の我々の戦力は我が空母艦隊の空母1と艦載機、駆逐艦3、フリゲート3、潜水艦3。そして、防衛部隊のフリゲート3隻とコルベット9隻と航空機からなる大部隊だ。わざわざ他の空母艦隊を出すまでもない。貴官は安心して自分の職務を全うするといい。話は以上だ。こちらも忙しい。退室してくれ」司令官はまくしたてるように言って、椅子に座りデスクワークに取り掛かり始めた。
その防衛部隊をすり減らしたのもあなたですがね。そう心の中で呟き、私は大人しく退散することにした。同じ空間に居たくなかった。早く“廊坊”に戻りたかった。
早足で部屋を出、ヘリに乗り“廊坊”へ戻った。降り立ったとき故郷に帰ったかのような安心感が私を包んだ。
艦橋に行くとたった数十分開けただけにも関わらずとても懐かしい感じがした。そしてしばらく船を預かってもらっていた副長の
「どうやらここ数日のうちに我々第1空母艦隊は壊滅するらしい。だが私はこの船を、この艦隊を沈めるわけにはいかない。司令官は気に食わんが艦隊が嫌いなわけじゃないんでね。手伝ってくれるか?」
「もちろん。私もこの船が好きですから」
チョーはそう言って首から下げた翼飾りのペンダントを握りしめた。
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