#12 空に煌めく殺意の光
ジェイコブは自機に戻ると、各計器を確認し直し、自中隊に無線を入れた。
「101中隊中隊長ジェイコブ・ミラーだ。いつも通り頼むぞ。上からの攻撃に気をつけろよ。あと後ろからもな。識別装置があるとはいえ同士討ちがあるやもしれん。少しでも多くのやつと朝を迎えられることを祈る」
『わかりました』
a小隊小隊長アンシュ少尉がやや上ずった声で答えた。
「あんまりかしこまらなくていい。力を抜いて、息を吸え。お前がどんなに若くても一小隊の隊長だ。お前が緊張すれば他の奴らも緊張する。仮にお前がしくじっても仲間がそれをカバーする。それに、お前の直接上官は、つまり俺なんだが、“悪魔”と呼ばれるやばいやつだ。かしこまるだけ無駄ってもんさ」
『は、はい』
ははは、と中隊の無線に様々な笑い声が流れる。
「いいさ、お前はまだそのままでいい、戦場に出てもなおそのままでうちの中隊にいれたらすごいもんだ。最善を尽くせよ」
ジェイコブはそう言って口を閉じ目を瞑った。かしこまる、か。彼は心の中で呟いた。俺だって最初はそうだったかもな。必死に走って撃って、隣で敵の弾に倒れた味方の最後を看取って……。生と死が仲良く背中を合わせて支配する戦場で、真面目で、正気でいられる訳がない。少なくとも、俺は……
戦いに酔っている。
作戦開始の時が近づき、全部隊にオペレータが告げる。
『総員時計合わせ。
『第204特別飛行隊、アクサイチン南部駐留国境警備隊に対地攻撃。レーダー照射なし攻撃続行。爆弾、投下……4、3、2、着弾、今。敵国境警備隊沈黙を確認。道は開けた』
『了解』
『第103、104飛行隊、戦闘空域の制空権奪取に向かう』
『14軍団、前進。アクサイチン南部400高地制圧に向かう』
『8軍団、前進。レアメタル採掘場を制圧する』
その後も続々と部隊に指示が下される。ジェイコブらが所属している14軍団と15軍団は400高地制圧に向かった。ここは強大な対空陣地であるとともに、坑道が掘られ要塞化されている。制圧しなければ、アクサイチン奪取に影響が及ぶ。
13、14軍団は山岳師団を有している。戦車などの重装甲高火力の兵器がない代わりに、特殊訓練を施された軽歩兵、ヘリコプター、ヒューマーなど機動力に富んだ運用ができるのだ。そのため即応部隊としても機能するし、今回のような高地に作られた陣地に強い。
そして、ヒューマーの真価は、平地ではなく起伏や障害物の多いところで発揮される。特に山岳戦など強力な火力投射がしにくい場所において、兵装の自由度が高く比較的軽量なヒューマーを投入することで無反動砲や大口径ライフルによる火力投射が可能となる。それはヘリコプターでも可能だが、対空兵器がある以上、生存性は陸上兵器ヒューマーの方が高い。
400高地の夜空は濃密な対空砲火で彩られていた。インド空軍の戦闘機から発射される対地ミサイルや航空機を撃墜するため、対空レーザー兵器が照射される。しかし、戦闘機から投下された対レーザー用スモーク弾が炸裂し、空に濃霧の盾を形成する。それに突っ込んだレーザーはブルーミング現象を引き起こして拡散し、無力化された。
ミサイルが400高地の対空陣地の一つに落ち炸裂する。
だが、対地攻撃の第2波は敵対空機関砲に阻まれ、全て撃墜され、戦闘機も何機か落とされた。
撃ち尽くした飛行隊が撤退したことで400高地への先制打撃が終了し、陸戦に移行する。
『攻撃開始、手を緩めるな。砲撃部隊、霧が晴れる前にありったけ撃ち込め!少しでも多くの対空陣地と砲撃陣地を沈黙させるんだ!』
数秒後、敵の対空機関砲と対空レーザーが作動し、砲弾を迎撃した。だが集中的に打ち込まれた砲弾は対空砲火をかいくぐり、対空陣地や砲撃陣地の真上で炸裂した。
『……最終弾着を確認。装甲歩兵、敵部隊を蹂躙せよ』
『敵さんのお出ましだ。第24装甲歩兵連隊第1大隊、攻撃開始』
「101中隊、行くぞ!」
ジェイコブはニヤリと笑い、操縦桿を前に突き出した。
もしそのとき彼の目を見るものがいたとしたら、こう思ったに違いない。彼には人ならざる何かが宿っているようだ、と。
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