#2 初陣─②

 それから30分ほどたったが、もちろん各種センサーに反応はない。リアンはその間、基地に定期連絡を送ったり、他の機体とやり取りをしていた。


「なあ、リアン」


 いつの間にか起きていたロンが声をかけてきた。


「おはよ。どうしたの?」


 リアンはモニターを見ながら答えた。


「そういや聞いたことなかったんだけどさ、リアンはどうして職業軍人になろうと思ったんだ?」


「あれ、そういえば言ってないっけ。僕さ、田舎の生まれだからヒューマーとか見たことなかったんだ。それで、徴兵されて基地にきてヒューマー見たときに、こいつだ、こいつに乗りたいって思ったんだ。それで乗れるように職業軍人になろうって決めたんだ」


「そっか。やっぱりヒューマーに乗ってるってことはそういうことだよな。俺もおんなじ、乗りたかったんだよ。一人で乗りこなして祖国ベトナムのために戦いたいって思ったんだ。それで死ねるんなら本望だ」


「二人乗りで悪かったね」


「なに、俺はお前と仲良くなれて嬉しいぜ!」


「ありがと」


「おう」


「にしても祖国のためとか言ってるわりに任務中に寝るんだね」


「そ、それは……ま、まあ、兵士には休息も大事だということだ、うん」


「へぇ〜」


 リアンはいたずらっぽく言った。


「な、なんだよ」


「なんでもない」


 リアンは笑いながらそう言った。


 祖国のために死ぬ、か……。自分はそんな高潔な意志を持ってやってない。ただ純粋に乗りたいだけ。自分の目的だけでやってる。


 それに『死』なんてのもよくわからない。父も職業軍人だった。強くて大きい父のことが大好きだった。でも、父は6歳の時に紛争に行ったきり帰ってこなかった。たぶんだけど、『死』というのはそういうものなのだろうと彼は思った。


 母の反対を押し切ってまで軍人になったのは、ヒューマーに乗りたかったのももちろんだが、どこかで父に、あるいは『死』というものに近づきたかったというのがあるのかもしれない。


 もしかして。ふと彼は思った。自分は死にたがりなのだろうか。


「……アン?リアン?大丈夫か、調子でも悪いのか?」


 呼ばれる声がして、はっと顔を上げるとなにかに頭をぶつけた。顔を上げ直すと額を押さえたロンのそこまで日に焼けてない顔があった。


「なに?どうしたの?」


「それはこっちのセリフだよ。だから、ずっとうつむいてたけど体調でも悪いのかって」


「え?あ、ああ大丈夫。ちょっと考え事してただけ。ほんと大丈夫」


「……そうか?ならいいんだが」


 そう言って彼は額をさすりつつ座り直した。


 寝てたくせに心配だけは一丁前にできるらしい。ふと、リアンは涙が伝っていることに気づいた。いつの間に……。ロンにも見られただろう。でも、彼はなにも聞かなかった。彼なりの優しさというものなのだろう。有難い。


 さて、と。リアンがモニターを見たと同時に動きがあった。各種センサーにも反応がある。


 まさか。そう思ったが気のせいではないらしい。ロンも「嘘だろ」と思わず呟いていた。


「ロン、覚悟はいいか。敵がくるぞ」

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