短編集 恋の海
とりけら
二重
私、齋藤明日香は1人の男の子に恋をしている。
昔からの縁、つまり幼馴染の彼に恋をしている。
いつから好き、だとかはもう忘れてしまった。
家が近所なのもあり、ずっと昔から一緒にいる。
気づいたらもう、高校生になっていた。
気持ちを伝える気は、ある。
いや、伝えなきゃいけないと思っていた。
彼はかっこいい方だし明るい性格だからクラスみんなに好かれている。
ライバルが多いという話を噂で聞いて焦っていたのだ。
けれどあの日、思いもよらないことが起こった。
その日もいつもと変わらず登校した。
教室に入ろうと思って扉に手をかけた時、彼の姿を見かけた。
友達と一緒にどこかへ行くみたいだったがどこか彼の顔つきが普段あんまり見ない、真面目そうであった。
気になった私はつい出来心で、こっそりついて行くことにした。
彼らは人気のない、階段下で立ち止まった。
始めは何か雑談をしているようだったため聞き流していたが次の会話の内容は耳を疑うものだった。
「あのさ、相談があるんだけどさ……俺さ、あすかのこと、好きなんだよね。やっぱり、告白すべき、だよな……。」
びっくりした。
彼も私のことが好きだなんて思ってもなかったから。
さらに彼は続けた。
「告白するなら、早い方がいいよな。」
心臓がドキドキする。
彼らに聞こえてしまうくらい、ドキドキしているのがわかる。
私は、静かにその場を立ち去った。
その日の夜、俺は女の子を公園に呼び出した。
夜に女の子を呼ぶのはあんまり良くなかったかもしれない。
でも、思い立ったらすぐに行動を起こす性格をしている俺は、気がついたら呼び出していた。
緊張、はしている。
正直こういうことははじめてだからどうすればいいのかよくわからない。
でも、自分の気持ちを真っ直ぐ、全力で伝えようと思っている。
公園には、待ち合わせの時間よりも20分ほど早く着いた。
彼女が来るまで、頭の中で何度も告白の練習をしていた。
「お待たせしちゃって、ごめんね。それで、話したいこと、って?」
「来てくれてありがとう。こんな夜遅くにごめんね。えっと、話したいことっていうのは……。」
「あっ、そういえば私も話したいことあるんだった。まあ、先どうぞ。」
「わ、わかった。」
俺は静かに深呼吸した。
後悔はしたくない。悔いの残らないように。
「俺は……あすかのことが……いや、藤宮明日夏さんのことが好きです。付き合ってください。」
「告白、ありがとう。でも、私は付き合えない。私には好きな人がいるんだ。ごめんね。」
「い、いえ。来てくれて、聞いてくれただけでも嬉しかったですから。ありがとうございます。」
「ん。じゃあ、私は帰るね。ばいばい。」
「はい、さようなら。」
家に帰った俺は、終始ぼーっとしていた。
そして、自然と涙がでてきた。
後悔はしていない。
何分、何時間経ったかわからない。
俺はずっと、ベットに寝ながら、涙を流し続けた。
高校最後の冬に俺は幼馴染である齋藤明日香から告白された。
俺は、明日香のことをただの幼馴染、つまり一人の女の子として見ていなかったため、断った。
明日香は、泣いていた。
明日香の気持ちはわかるとは言わない。
俺のせいでもあるのだから。
でも、声をかけれなかった。
かけてはいけない気がした。
そしてそのまま、幼馴染の関係は疎遠になっていった。
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