まけない

話は10分前にさかのぼる。


[伊藤薫子]

んークリスマスプレゼント、ねぇ……

めんどうだし、この雑貨屋で買っちゃうか。

変に気合い入れても悠とプレゼント出来るわけじゃないし。

悠用のクリスマスプレゼントはもう買ってあるし……

ってもいつ渡すのかわからないけど……

はぁ……

今思えばあの時なんで告白したのかわからない。

ただ、気付いたらって感じで。

もう後には引けないけど、グイグイいきにくい。

あたしも乙女なのかねぇ……

でもグイグイいくのがあたしの性格だし。

開き直るしかないよね。

……あ、悠じゃん。

もうプレゼント買ったし、ちょっかいかけにいくか!


[佐藤悠基&伊藤薫子]

「悠」

「ん、薫子か」

「悪いか」

「……別に」

「あっ、そ」

「プレゼント」

「ん?」

「プレゼント、買った?」

「うん」

「はやい」

「あんまり悩むタイプじゃないの、知ってるでしょ」

「まぁ……昔と変わってなければ」

「変わってないから安心して」

「わかった」

「悠は買ったの?」

「いや、まだ悩み中」

「男なんだからさっさと決めなさいよ」

「悩むよ、みんな女の子だし」

「テキトーでいいのよ、テキトーで」

「僕も雑貨にしようかな」

「……なんであたしが雑貨買ったってわかったの?え、もしかしてストーカー?」

「袋にお店の名前入ってるでしょ……」

「悠、このお店知ってたの?」

「まぁ、ね……」

「あっそ」

『…………』


[佐藤悠基]

僕がなぜ雑貨屋の名前を知ってたのか。

それは実里さんと2人でウィンドウショッピングに行った時、このお店にも寄ったからだ。

雑貨屋さんはいろんな面白いものが売ってるから見ているだけで退屈しない。

だから、覚えていた。

僕はあえてこのことを言わなかった。


薫子から告白された。


その事実が、今のこの微妙な空気を作っている。

ただでさえ、中学生の時から喋ってなかったのだから。

まだ、薫子が隣にいて仲良く話をしている、と言う実感が湧いていなかった。


[伊藤薫子]

らしくない。

あたしらしくない。

2人きりでいるとこの前の告白のことを鮮明に思い出してしまう。

胸が苦しくなって、どうしようもなく、寂しくなる。

申し訳ないって思ってる。

ただでさえ、中学生の時から話してないから。

久々に話す内容が告白なんて……

はぁ……

でも、凹んでたって何も進まないから。

あたしの性格はグイグイいくことだから。

元気出すしかないよね……!


「あ、あのさ、悠……」

「あ!!悠基くんと薫子ちゃんだ!!」


[石川実里]

って、薫子ちゃんが隣に!?

最近色々忙しくてちょっと忘れてたけど、薫子ちゃんって悠基くんに告白……してるんだよね……。

薫子ちゃん……

って、俯いてる場合じゃないでしょ!

私の恋は、絶対成功させるんだから!

負ける訳には、いかないよ!

突撃!!


[佐藤悠基&石川実里&伊藤薫子]

「あ!!悠基くんと薫子ちゃんだ!!」

「あ、実里さん」

「ん、実里か」

「2人とも、何してるの?」

「あたしはプレゼント買い終わって、ふらふら歩いてたら悠を見つけてね」

「僕はプレゼント何にしようかなって悩んでたら薫子がやって来て……って、実里さんはプレゼント買い終わったの?」

「え?私?私は……悩み中……」

「実里も買ってないのか」

「えへへ、なんか悩んじゃってね」

「というか、解散したはずなのに集合してるし……」

「あたしもそれ思った」

「た、確かに……」

「解散、し直す……?」

「そうだな」

「そうね」

「じゃ、じゃあ……また後で……」

「また後で」

「また後でね」


[佐藤悠基]

実里さんが来てくれて、すこしホッとした気持ちがあった。

あの空気、どうすれば良かったのかわからなかったから。

あのままずっと気まずいままな気がしていた。

僕は……

薫子のことが……嫌い、なのだろうか……。

きっとこの前の告白のせいだ。

そう、思うしかなかった。


[伊藤薫子]

実里のタイミングが良すぎる。

いや、少し助かったところもある。

あんまりいい会話の話題もなかったし。

でも、なんか、急いで止めに来たような……

まぁ、いいか。

あと20分くらい、ふらふらしますかね。


[石川実里]

はぁ……

かなり無理矢理だけど、阻止できた……

というか私が悠基くんと2人きりになりたい……

今解散したばっかりだから無理だけど……

大人しくプレゼント選ぶか……



20分後……


[佐藤悠基&石川実里&清水柊&伊藤薫子]

「みんな、集まったね。プレゼント買えた?」

「買えたよ」

「買えたー」

「買えました……」

「時間は……もうそろっとで夕方か。この後どうする?何も無ければ解散だけど……」

「特に行きたいところは……」

「あたしはないかな」

「私も、ないです……」

「そっか、じゃあ早めの解散にしようか。とりあえず、駅に向かう、でいいよね?」

「うん」

「おう」

「はい……」

デパートと駅は地下通路で繋がっているため、駅には直ぐに着いた。

「じゃあ……今日は解散ってことで。楽しかった!ありがとう」

「うん、私も楽しかった。またできたらいいな~」

「あたしも誰かと遊ぶの、久々だったから楽しかったよ、ありがと」

「私、も、楽しかったです……仲良く、なれた気がします……」

「次のクリスマスパーティーも楽しみだね、詳しい予定はLANEで!」

「うん!クリスマスパーティーも楽しみ!お菓子買わなきゃ~」

「一応あたしは生徒会だからね、ハメ外し過ぎないように気をつけて。まぁ、あたしもはしゃぐけど!」

「クリスマスパーティー、私、も、楽しみです……!もっと、皆さんと仲良く、なりたいです……!」

「じゃあ、またね」

「またね~」

「また明日」

「また明日、です」


文芸部がスタートした、と部員みんなが感じていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る