おさそい
[佐藤悠基]
うん。
すごい困った顔してるね、これはやってしまったね……。
でも……後悔はしていない、気がする。
引っ込み思案な僕にとってはとても勇気のいることをしたんだ、きっと大丈夫…………じゃない気がするよ!?
正しい答えがわからなすぎる!!
ただでさえ微妙な距離感で、触ったらすぐ切れそうな糸みたいな関係なのに、僕は自分から触りにいこうとしてるね!!
でも……なんで僕はこんなに一生懸命になっているんだろうか……。
[石川実里]
誘われちゃったぁぁぁぁぁ!!
神様ちょっと今日頑張りすぎですよ!!
やばいやばいやばい早く答えなきゃ!
とりあえず落ち着いて……ふぅ。
よし、期待してたのバレないようにバレないように……。
[佐藤悠基&石川実里]
「ぜ、是非っ!……じゃなくて!あっ、と、こほん。分かりました。一緒に帰りましょう。」
「えっ、あ、はい!」
[石川実里]
はい、アウト。
いやでもっ!
気持ちが先走っちゃうこと!
あるでしょ!
わかって!
ほしい!
……確実に変な子だなって思われたね……。
[佐藤悠基]
やっった!
まさかOKが貰えるなんて!
変な返答になっちゃった!…………ん?やった?どうやら僕は予想以上に嬉しかったらしいぞ?
ここ長らく"やった"なんて感情、感じたこと無かったからこんなに喜んでいるんだろうか……。
まあ家に帰ってから考えればいいや……。
今は目の前のことに集中しよう。
決して失礼のないように……悪い印象を与えないように……。
[佐藤悠基&石川実里]
この時間、学校内にいる生徒の数はかなり少ない。
僕達だけの足音が廊下に響く。
互いに心臓のドキドキが伝わらないか心配で微妙な距離感の中、玄関まで歩いた。
外はまだ、雪が降っている。
『………………』
傘が当たらないように、互いが気をつけているせいで微妙な距離感は少し遠い距離感になってしまった。
それでも……。
2人はこの距離感に満足していた
。隣にいて、その存在を確認できるだけで、満足していた。
[佐藤悠基]
心地がいい……と思った。
あまり人と一緒に帰ったことがないからなのか、それとも隣の人が石川さんだからなのか、分からない。
それでも、わからなくても、どうでもよかった。
ただ、心地が良かった。
安心する、という言葉の方が正しいのかもしれない。
静寂した空気というものは窮屈なものだと思っていた。
けれど、そんなこともなく……。
って、やっぱり何か会話した方がいいよね!?石川さんは窮屈に感じてるかもしれないよね!?隣見ても暗くていまいち顔見えないし、えーっと、うーんっと、何か会話のネタ……っそうだ!石川さんが読んでた本!確か僕が読んだことある本だったはず……!
[石川実里]
幸せってこのことを言う、と心の底から思っていた。
登下校はいつも1人だったから、はじめて人の温かみを感じてそんな感想が出たかもしれない、とは微塵も思わなかった。
ただ、隣に、彼が……佐藤、君がいるから……幸せに感じているんだ。そう、確信を持てた。
雪が降っていてよかった。
傘のおかげでちょっと遠い距離感が保たれている。
これ以上近づいたらおかしくなっちゃいそう……。
全然、窮屈に感じない。
むしろずっといて欲しいくらい……。
佐藤くんはどう思ってるんだろう……って、あっ、なんも見えないや……。
でも何だか悩んでいる風に見えたような……?
何か会話しようとしてくれてるのかな?私のこと考えてくれてたら、うれしいな……。
[佐藤悠基&石川実里]
「あっ、そういえば!石川さんって、あの作家さん好きなんですか?あの作家さんの本沢山読んでるイメージがあって!間違ってたら申し訳ないんですけど……。」
「あっ、いえいえ、えっと、そうですね。私はあの作家さん好きですよ。作風がとっても好みなんですよ。確か、佐藤君も読んでましたよね?」
「はい!僕も好きなんですよ。いいですよね。特にあの時のあの描写なんか最高で!」
〜20分後~
「あっ、駅、着いちゃいましたね。」
「そうですね、なんだかあっという間に感じちゃいました。」
「僕もですよ。」
「すいません、なんか沢山語っちゃって。」
「いえいえ、僕の方こそ。まだ全然話し足りないですけどね。」
「ーーっ。な、なら!あ、あの、佐藤、君って、LANEやってます、か?」
「えっ、と、はい、やってますよ。」
「よ、よかったら、連絡、先……交換しません、か?」
「ぜ、是非お願いします……。ど、どうせなら、部活のグループでも作りますか。」
「そ、それはいい考えですね!っと、友達承認しました!」
「あっ、こちらも、OKですね。」
「えっ、と、あっ、電車の時間が……。」
「あっ、自分はまだ、なんで、ここでさよならですか、ね。」
「そ、そうですね。」
「では、また、明日、部活で。」
「ーっ、はい。また、部活で。」
2人の別れ際の笑顔は、微妙な関係から一歩前進したとはっきり分かるくらい、明るい笑顔だった。
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