第7話


警察とマンションの住人からの反撃にあい、マスコミはすごすごと引き下がりました。


まあそれまでの数日間は、画面の中でも画面の外でも、大騒ぎになっていましたが。


その後の展開は、その大学生が何故サバイバルナイフを持っていたのか、ということで少し話題になりました。


本人が「俺は山でキャンプをするのが趣味で、ナイフはたまたま持っていた」と言い張り、実際に年に数回、山でキャンプをしていたと言う事実が認められましたが、それに対して「いくらキャンプが好きだからと言って、女子高生をストーカーするときにサバイバルナイフを持っているのはおかしい」と言うもっともな意見が出たりもしました。


しかしそれも日々の生活や内外のその他の事件に埋もれて、いつのまにか報道されなくなりました。


とにかく事件は一応の収束をむかえました。


大学生の裁判はまだ続いているようなのですが、マスコミは全く取り上げず、下柳家は沈黙を守り、誰も根掘り葉掘り聞いたりしないので、私には現在どうなっているのかは、さっぱりわかりませんでした。


と言いますより、長々とことの経過を述べている私ですが、このときの私は下柳夫婦も娘のまゆちゃんも、そこまでの深い関心はなかったのです。


ストーカーとか警察とかマスコミとかは、どうにも面倒くさいとは思っておりましたが、当事者の下柳一家は、それらに比べるとあまり私の頭の中になかったというのが、正直なところでした。


とにかくストーカーの一人が実際に逮捕され、これでもかと言うくらいに世間のさらし者になったことで、彼女をストーカーしようと言うつわものは、ぱったりといなくなりました。


これでもう何事もない平凡な日常が続くと思っていましたが、平穏は長くなく突然に崩れ去りました。


サバイバルナイフの学生が捕まってから一ヶ月も経たないうちに、下柳の娘が言い出したのです。


「また誰かに見張られている」と。


彼女が見張られていると言えば、常に見張っている輩がいました。


これまでのところ、それが外れたことはありません。


警察も前回のところを踏まえて、今度はベテランの刑事を二人もよこして来ました。


なにがあったとしても日本中が注目するであろうこの件に関して、警察としては失敗なんて絶対に許されないからです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る