第4話

安くて古いマンションですのでオートロックなどという気の効いたものは当然なく、誰でも自由に出入りができたのです。


マンションの住人からすれば、見知らぬ男がマンションの周りを徘徊する。


その上時々マンションの中まで入ってきて、人目もはばからずにまゆちゃんを待ち伏せする。


たまったものではありません。


公然とストーカーまがい、と言うよりもストーカーそのものの行為に及ぶ輩もいて、何度か警察沙汰にまでなりました。


そのため彼女一人のために、警官がマンションを見回っていたことさえあるのですから。


それにしても見事と言うか腐っても国家権力は素晴らしいものだと思いました。


一人の若い警官がマンション内外をしばらくうろうろしただけで、怪しげな人影がぴたりと姿を見せなくなったのですから。


しかしそれで万事解決というわけではありませんでした。


ある日突然、少なくともこのマンションに住み、当の下柳家の隣に住んでいる私たちになんの説明も報告もなしに、警官は女子高生の警護を放棄して、もとの交通課かどこかへと帰ってしまいました。


私どころか当事者である下柳家もその件はまったく知らず、蚊帳の外でした。


「大丈夫なのかしら?」


と言ったご婦人がいましたが、不幸にも彼女の悪い予感は当りました。


そうするとまた現れたのです。


ストーカーが。


最初にそれに気付いた人が現れたのは、警官が姿を見せなくなってからたった数日しか経っていませんでした。


田所さんちの娘が「変なおにいちゃんがいる」と母親に告げたのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る