第2話

夫の収入が特別低かったわけではありませんが、将来に備えて貯蓄を増やすためにそうしたのです。


住む前は、その広さではなにかと不自由だろうなあと考えてはいましたが、我慢できないほどではないとたかをくくっていました。


ところがいざ住んでみると、狭い空間で生活することに対する人間の許容範囲と言うものが、けっして大きくはないことを思い知らされました。


まさに想像以上、というやつです。


これはどうしたものかと悩んでいる折、夫の会社の業績が急に上がり、仕事量が格段に増えました。


夫の残業時間は労働基準局に知られるとまずいくらいになり、当然収入も増加。


ですから思い切って夫婦で普通に暮らせるところへ引っ越すことに決めたのです。


そこで見つけたのが、郊外にある古いマンションでした。


築何十年かは忘れましたが、古いだけあって家賃が相場よりも安く、それで決めたのです。


部屋も夫婦二人どころか、四人家族で住んだとしても充分な空間のある物件でした。


実際にこのマンションに住んでいる人たちは、ほとんどが子連れの夫婦です。


二人だけなのは私たち以外では一組だけしかいません。


ニ十ニ部屋あるマンションで空き部屋が二つで子供なしが二組。


つまり十八部屋に子供がいることになります。


しかし古くて安いマンションにすむだけあって、若い夫婦が圧倒的に多く、子供のほとんどが赤ん坊、幼児、もしくは小学生でした。


ただ一家族だけ例外がありました。私の西隣に住んでいる下柳夫婦です。


年齢を聞くのは失礼なことなので、下柳夫婦の実際の年齢は知りませんが、私には二人とも三十代前半に見えました。


ところが彼らの一人娘はもう高校二年生だったのです。

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