阻む風(4)
後ろ蹴りが飛んできた。ただの見当だから当たりはしないが、風圧だけで吹き飛ばされちまった。
なんて膂力だ。こいつも身体強化が掛かってるぞ。それも常時発動型。当たり前といえば当たり前か。そうじゃないとこんな巨体を動かせるわけがない。とんでもない体重を四肢で支えるだけでも常識ではあり得ないだろう。
「
確かにな。これは牽制程度にしか使えないだろう。身体強化状態を維持するなら、目潰しを仕掛けてもあまり効果はない。
じゃあ、これならどうだ?
「足掻いてみろ。我には貴様の攻撃など通用しない」
魔力や匂いは目で捉えるほど早く反応はできない。幻惑の霧を纏ったまま、駆け抜け様に四肢に斬りつける。
毛が散り、血も流れるがそれほど痛みを与えられている感じじゃない。平然と爪を振り回してきやがる。
痛っ!
「隠れようが攻撃しようが、我に一撃受けるごとに貴様の命は縮んでいくぞ」
闇雲に振り回しているだけの爪でも近くにいれば触れることもある。その一撃が与えるダメージで動けなくなっていくのは事実。
吹き飛ばされた俺は痛みで呼吸もままならない。あまりに分が悪いぜ。こいつの攻撃を受け止める手段が無い以上、このままってわけにはいかない。
幻惑を解除したら、えぐられた傷は塞がる。相棒の
「ほう。回復手段があるか。ならば侮れぬが、我の目に捉えられぬならあの人間にも見えていまい。消えたままでは回復できないのだろう?」
お前の言う通りだ。仕方ない。ここからは真っ向勝負といこうぜ。
「望むところだ」
そこからは一進一退の攻防戦になる。
俺の遠隔攻撃は迎撃されるほうが多い。届いたところで毛皮と筋肉に阻まれて大きなダメージは見込めない。そうやって牽制しつつ、時折り踏み込んでは足に斬りつけていく。出血量は少ないけど、消耗を強いていくのが基本戦術になっちまう。
逆に
互いに決め手に欠ける泥沼の戦いになりそうな様相だった。
「諦めたらどうだ。時間の問題だぞ?」
お前こそじわじわと効いてきてるからそんなことを言ってるんだろうが。
「何とでも言え!」
思う存分付き合ってやるぜ!
射出した二対四本のの
残り一本だけが前脚の肉球へ深めに刺さった。さすがに痛みが大きかったのか、掻きむしって引き抜く。
「貴様ー!」
再び二本脚で立ち上がる暴風熊。でも、その体勢は前脚が俺に届かない。後ろ脚ががら空きじゃん。
素早く駆け回る俺は後ろ脚に何度も斬りつける。少しづつ毛皮が赤く染まってきているぜ。
「キグノ!」
もう一撃食らわせてやろうとしたところで相棒の悲鳴が届く。見上げると、暴風熊の野郎、大口を開けていやがる。
そこから発生した強烈な
やってくれるな。
「貴様がここまでさせたのだ。往生するがいい」
来てくれ、ラウディ。
「何でやんすか?」
勝負を掛ける。悪いが付き合え。
「もちろんでやす」
そこから暴風熊は旋風を鞭のようにしならせて打ち据えてくる。しかし、後ろに控えたリーエがレジストリングを使っている。魔法の風は侵入してこない。
行くぜ、相棒。
「いいよ。行って!」
駆け出した俺にラウディが続く。旋風は
距離を詰めたところで最大の四対の堅刃を発現させた。展開角度を変えて翼のように広げる。そして上向きに角度を付けると同時に、
暴風圏の中、ジャンプする。堅刃で風を受けて空高く俺は飛翔した。
「何ぃ!」
堅刃の生みだす揚力で旋風に乗って暴風熊の頭より高い位置まで飛び上がった俺は、刃を順番に撃ち出していく。最初は後頭部に、次は側頭部、そして前頭部へと三対を突き立てる。頭皮と頭蓋に阻まれて深くは突き刺さっていない。最後の一対で姿勢を変えて滑空したら、奴の目に向けて撃ち出した。
「ぎゃあああ!」
両目に堅刃を突き立てた暴風熊の鼻面に降り立った俺は、足元へ食らい付く。これだけは絶対に放さないからな? 覚悟しやがれ。
「痛い痛い痛い!」
どの攻撃も致命傷にはなっていない。勝負はここからなんだ。
鼻に食らい付いて振り落とされない限りは、いずれこいつに致命傷を与えることができる。牙と爪に力を込めて踏ん張る。
さあ、勝負だぜ。絶対に振り落とさせないからながるるるるる。
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