魔獣の敵(3)

 冒険者ギルドに持ち込んだ検体は歓迎されるも、よろしくない情報を代わりに受け取ることになっちまった。やはり類似事案がこのデメテル地方で点々と発生してるらしい。

 範囲が拡大傾向なら感染性の病気の可能性が第一に挙がるんだけど、点在しているのがギルドを困らせているんだろう。全体的に魔獣の活性が上がっているのは事実らしい。でも、狂乱状態の報告事例は十件足らずに過ぎないんだとさ。


「どう対応するつもりですか?」

 気になるよな、ノイン。

「調査は続行しますが、現在は公館の置かれているボゴス・カルに冒険者を集めています。都市周辺でかなりの規模の群れが確認されています。それどころか混在群体の報告まであるのです。これは魔獣暴走の兆候とギルドは捉えています」

 混在群体って異種の魔獣が交じり合った群れのことだな。

「それは尋常ではありませんね?」

「はい。ご協力いただけますか、ノインさん? ハイスレイヤーの方の参加は心強いのですけど?」

「分かりました。移動しましょう」


 ノインは仲間に目配せしてから快く引き受ける。もちろん俺も受付の姉ちゃんをぺろぺろしてたぜ。


 撫でていた姉ちゃんの手が名残惜しそうに伸びるのを後にして、俺たちはギルドから通りに出る。そこで鉢合わせしたのは当然同じ冒険者パーティー。


「な、にぃ!?」

 どうした、兄ちゃん。顔が引き攣ってるぞ。

「どうして汚らわしい魔獣なんぞがギルドに出入りしている?」

「どういう意味ですか?」

「なんで獲物を狩らないかって意味だぜ。そいつは俺たちの敵だろう?」

 あー、そういうタイプか。

「違います。彼はわたしの家族です」

「よしてくれないかな? 彼女は『魔犬使い』。彼はただの魔獣じゃないし、敵でもない」

「敵かどうかを決めるのはお前なんかじゃねえ。俺だ」


 ノインが窘めに掛かるが聞く耳を持たないみたいだな。そりゃいいが、お前さんの仲間は魔犬だって聞いて引いているぞ。


「ずいぶんと乱暴な論調だよ。少し自制したほうがいい。冒険者ギルドが認めているのだから、それに逆行するのは利口じゃない」

「利口? 女の前だからって格好つけるんじゃねえ。本当はそいつを潰せば何ポイントになるか考えてんだろ?」

「そこまで不調法なんじゃ付き合っていられないよ」

 勝手に言わせとけ。

「偉そうに。この銀色のメダルはそいつら魔獣の血と肉と魔石でできてるんだぜ? お前のだってそうだろうが?」


 喧嘩腰の雄はスレイヤーだって言ってる。なるほど、冒険者ランクってのには人格が反映されないらしいな。薄々は気付いてたけど。


「ランクを誇って主張を通そうっていうならお門違いだね。僕のメダルにはハイスレイヤーって刻んであるよ。そして、この銀色のメダルは僕の誇りでできている」

 臆面もなく言うよな。

「じゃあ、何か? お前は掃除や失せ物探しでそこまで行ったってのか? そんな馬鹿な事は言わねえだろ?」

「否定はしない。でも剣を向ける相手くらい知っている」

「何だと? 俺がもの知らずだから悪いっていうのか? 魔獣にやられて歩けなくなったヤシルが無知だったってのか? 食い殺されたカルバンが馬鹿だったのか?」


 仲間がやられた恨みか。だがよ、そんなのはここに居る連中は少なからず胸に隠し持ってる傷なんじゃないか?


「君の仲間を貶めたりはしないさ。でも、それをやったのは少なくとも彼じゃない。魔獣を一括りにするのが間違っているんだよ」

 それで納得できるなら噛み付いてこないだろうな。

「ご立派なことだ。そう思ってるがいいぜ。いつかその魔獣は背中からお前の首に食らい付く。その時、俺に斬らせとけば良かったって後悔するぞ」

「後悔する機会なんてないさ。そもそも不可能だしね。彼が君より強いのは確実」

 余計なこと言うなよ。

「このっ……!」

「トラブルは起こさないでくれ!」

「うるせえよ!」

 今度は仲間ともめるのかよ。

「付き合い切れないよ、ファーマン。あんたには脱退してもらう。単独ソロでは不便だろうと声を掛けたけど、ギルドの意思まで無視するようではパーティーなんて組めないぞ」

「あー、そうかい。勝手にしろ。ボゴス・カルで冒険者を集めてるって聞いたろ? それなら単独ソロで稼ぎに行くぜ」


 臍を曲げた雄は行っちまった。まったく短気な奴だったな。仲間のほうはノインに頭を下げてる。厄介なのを拾ったもんじゃん。

 おっと、ノインが矢面に立ってくれたから黙っていたみたいだが、相棒が悔し涙をいっぱいに溜めてるじゃないか? 泣くなってぺろぺろ。気にしてないからさ。


「ひどい奴もいたもんなのよ。フェルが抜きそうになっちゃったのよ」

「そうですね。こっちを見る目も胡乱でしたから、おそらく獣人差別も抱いていそうでしたね」

 小物ほどよく吠える。放っとけ放っとけ。

「ごめんね、二人とも。ノインもありがとう」

「そんな気遣い要らないのよ。リーエは間違ってないのよ」

「不運だったと諦めましょう。あのような輩は気に掛けるだけ無駄です。こんな場所、得るものなど有りませんからさっさと立ち去るべきです」

 おいおい、お前も怒ってるのか、ティム。

「いや、面白い話も聞けたから、今後の方針は立ったね」

「どうする気なのよ?」


 あとで聞かせろ。今は忙しい、相棒ぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る