魔獣の敵(2)
「森が騒がしいでやんすね?」
それだけじゃないぜ。妙な感じだろ?
「気配が薄い。集団で戦っているのとは違うようだ」
「でも物騒でいけないわ」
ラウディだけじゃなくてオドムスやフィッピも感じてるな。車輛のティムとフェルもちらちらと見交わしている。その空気はノインや相棒にも伝わって緊張感は増してきてる。
「魔法は待機させておこう。カッチは荷台に隠れていなさい」
「わかったの」
放してもらうか、フィッピ?
「いいえ、あなたみたいに幻惑の霧は使えないから、あまり戦闘の役には立たないわ。
それでいい。
フィッピはそう言っているが、闇セネルの怖ろしさはそこにある。
俺は尻尾を高く掲げてゆっくりと揺らす。警戒の合図だ。
相棒はロッドリングを填め直して使える状態にし、他の皆は降りて剣の柄に手を掛けて戦闘準備をする。
一瞬の静けさが訪れたかと思えば、森林帯から一気に影があふれ出てきた。こいつは何だ? 猿か? どうして猿系の魔獣がわざわざ平地まで飛び出してくる?
勘違いするな! 狩りにきたんじゃない! 通り掛かっただけだ!
「ギャッ! ギャッ!」
「ガー!」
な……、に?
「言葉になっていないわ。キグノ、様子が変よ」
確かにな、フィッピ。
「あれは
参ったな、そいつは。
猿系の魔獣が平地に出てくる時点でおかしいとは思ったんだ。自分たちが有利な樹上からの攻撃を捨ててまで何をする気か分からなかった。
でも、オドムスが言ったように狂っているなら話は分かる。連中、何をしているのか理解してないぞ。
「リーエ、
何が来るのか解っているみたいだな、ノイン。
「はい!」
「分かったのよ!」
相棒がレジストリングを起動すると、不可視の膜が発生する。猿たちが一斉に何かを吐きかけてくるけど膜の表面で蒸散してる。そんな現象が生まれるってことは、あれは魔法。おそらく毒なんだろう。
「
それで
「好都合なのよ! 平地の猿なんて怖くないのよ!」
「フェル、リーエからあまり離れては駄目です!」
「了解なのよ」
いかんせん数の多い群れだ。次の攻撃まで時間がない。一気に行くか。
俺は
「旦那に任せるでやす。散乱膜の内側じゃ魔法が使えないでやんす」
侵入されないように警戒するだけでいい。
「私の
「下がってなさい。接近してきた個体は何とかしよう」
ノインたち三人が跳ねる毒猿を斬り刻んでいる間に、集団に向けてオドムスが面攻撃の魔法を放った。特性魔法の
こいつ、案外やるじゃないか。隠してやがったな?
毒猿が動きを止めて口を開いたから、他の皆はラウディの後ろに退避して毒の雨をしのぐ。正気なら、たぶんこれを時間差でやってくる。そうなると相当厄介だ。
だが、今は対応が簡単。俺は単独で幻惑の霧を纏って攻撃範囲外へ飛び出してる。毒を吐き終わった猿の後ろ側に回り込んだ。
「あれ! 猿が血を噴いて倒れてるのよ!」
「キグノだよ。僕たちは目の前の相手を倒していればいいのさ」
そうしてくれ。残りは俺が
「もう少しです!」
普通は数が減ったら逃げていくもんだが、こいつらは理性が飛んでやがる。全滅させないといけないのが結構大変だけど、百以上いた群れを怪我も無く平らげることができた。
「こいつら、何なのよ?」
「分からない。キグノなら知ってるかもしれないけど……、駄目みたい。尻尾垂れちゃったもん」
俺やオドムスだって現状しか分からないぜ。
「ひどく無秩序に見えましたから、まともな状態ではなかったんでしょうけど」
「気になるね。調査に向かいたいところだけど、無闇に森林帯に侵入するのはあまりに危険な感じがする。冒険者ギルドに報告しよう。類似事案が上がっているかもしれない」
それが無難じゃん。
「このままにするのよ?」
「とりあえず討伐証明部位の尻尾を切り取って魔石を回収して終わりにするほうが良さそうだ。リーエ、悪いけど損傷が少ない個体を検査用に二~三体、リングに格納してもらえないかな?」
「うん」
単体でなく集団であるのは病気とかによる異常行動ではなさそうじゃん。病気だとしたら感染性が疑われる。
動物を狂乱状態にする毒性食物の影響とも考えにくい。毒猿なら多少は耐性があるからだ。それ以外の原因を究明するために、検査する必要性をノインは説いてるのさ。
そうそう、手に付いた血は洗い流しとけ、相棒。何があるか分からないからな。
ついでに水くれ。喉渇いたぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。
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