牧場の生活(13)
ルドウ基金本部職員の勧めにお姫様は難しい顔のままだぜ。何をそんなに拘ってるんだか。
「王姉セイナ様が王国運営に良いお返事をくださらないのです。カイお兄様に義理立てするお気持ちは察しますけど、聡明なるあのお方が立ち上げた事業だからこそわたくしはより大きくしたいと願っているのに」
心情的な部分もあるのか。
「国益も考えているのは事実です。なのに、あの敏い大伯母様が動かれないのが不思議でなりません。だからこうして呼び水になろうと働き掛けているのです」
「まずは王家の方々の意思を統一なさってはいかがですか?」
「道理ですね」
熱っぽく語っていたルテヴィだけど、筋の通った意見をぶつけられて少し冷めたようじゃん。
「あの……」
お? どうした、相棒?
「なにかしら、フュリーエンヌ?」
「セイナ殿下はお分かりになっているのではありませんか?」
「わたくしの案に気付いていない欠陥があるとおっしゃるの?」
ポレットが慌ててるぞ落ち着けぺろぺろ。忙しいなぺろぺろ。
「お話、聞いてくださいますか?」
「ええ、教えていただけて?」
怒ってなさそうだぺろぺろ。
「わたし、しばらくアリスタ牧場にご厄介になっていました。それで多くのことに気付かされたのです」
ここの三つの
「わたしにとって魔獸は賢い隣人です。だからこそ互いの利益のために対立することも多々あります。その関係は今後も続いていくと思われます」
こればかりは解消できないだろ。
「でも賢い相手であるのならば、互いに理解を重ねて思いを一つにするのも可能なのです。わたしとキグノを見てください。思いを汲んで行動してくれていますし、今も友人を思いやってくれています。会話はできなくとも思いは通じているのです」
「ええ、そうね。そんな関係になるには多くの時間を要すると思うけれど」
「はい。それと同じ関係がこの牧場にあると感じているのです」
あー、言いたいことが分かったぜ。
「子供と牛の深い信頼関係は互いに穏やかな心理状態を生み出します。専門家の大人の方々ならばより少人数で多くの牛の世話ができ、比較にならない収量を上げてくださることでしょう。ですが、そこに三家の牧場のような信頼関係は有るでしょうか?」
「そこまで期待するのは難しいかしら?」
「言い方が悪いかもしれませんが、そんな世話のされ方をした
そこだよな。求めているもんによるもんな。
お姫様は目を瞑って相棒の主張に聞き入っていたけど、それが終わるとともに大きく長い息を漏らして柵にもたれ掛かる。呆れてるのか? それとも感じるもんがあったのか?
「ふぅ……、わたくしの完敗です。あなたはきっと大伯母様と同じものが見えていらっしゃるのですね?」
納得してくれるか。
「いえ、それほどでは……。あくまで予想ですけど」
「謙遜は不要です。心情としては反論の余地がありません。商業的には一家言ありましてよ」
「それでも売れることに変わりないとおっしゃられるのでしょう?」
僅かに品質が落ちたとしても、量産が叶えば顧客の満足度は上がる。商業的には成功といえるだろう。だが、そこに品位を求めるなら話は変わる。
製品がホルツレインという王国の品格を左右するのならば、そこに目を瞑るのは本意ではないのではないかとリーエはルテヴィの意を読み取ってる。
「ええ、その通り。そこはわたくしも大伯母様と意を同じくしています。商に関する見識も持っているのね?」
商人の娘だからな。
「交易商人だった父の真似事です」
「これはとんでもない掘り出し物でしたわね」
そこでお姫様の後ろで控えてた秘書官が進み出てきて囁いてる。俺の耳なら聞き取れるんだぜ?
「お近くに置かれますか? お望みでしたら条件を提示いたしますが」
「およしなさい。彼女は一族の方が目を掛けていらっしゃるの。わたくしが横槍を入れるわけにはいかなくてよ?」
「御意」
なるほど、人材発掘に熱心だってのは本当らしいぞ。よく分からん絡みもあるみたいだから相棒が優秀な治癒魔法士だと知っても、今のところは大丈夫そうじゃん。
「牧場拡張の話は無かったことで。無理を言って悪かったわね、コールマン」
本部の案内役がコールマンか。
「ウッドも迷惑を掛けました。これからも今まで通りの成果を期待しています」
「どうぞお任せください。殿下がお望みの品質の牛乳を提供できますよう努力してまいります」
「ええ、信じているわ」
やれやれ。難しい王族っていうからどんな雌かと思ったら、話の分かるお姫様だったじゃんか。ホッとしたぜ。
おっと視線が痛いぜ。知らんぷり。尻尾ぶんぶんぶぶんぶーんぶんぶん。
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