ジリエト商隊護衛(8)

 相棒が魔法士の才能に目覚めたのは八歳の頃。魔法講師に師事してもいたが、ほとんどは旅暮らしの中で独学で得た魔法の知識だ。

 当然その隣には俺もいた。リーエの開く魔法の教本をずっと一緒に眺めてたんだ。その頃には俺も文字は読めているし、一緒に魔法文字も習得していけるわけだ。


 普通の魔獣は親の使う特性魔法から感覚的なイメージを掴んで同じ魔法を習得していく。代々受け継がれていく寸法だ。

 幻惑の霧に関しては俺もお袋から学んでる。だが、それ以外に関しては相棒と一緒に人間の使う魔法体系を学んできてるのさ。

 だから他の魔獣が使うような曖昧なイメージじゃなく、人間みたいに魔法構成を編んで魔法を発現させてるんだ。俺の脳は最初からそういうことができるように成長してる。人間風にいえば、魔法演算領域が発達してるってやつ?


 それを使うと色んなことができる。地狼ランドウルフなら特性魔法は岩弾ロックバレットだけど、土投槍ランドジャベリンみたいに土魔法で槍を作るなんて小手先さ。

 そこから更に考えを推し進めていく。遠隔魔法があれば圧倒的に有利だけど、それだけじゃ限界もあるだろう。牙や爪だけでも足りない気がするから、でき得るなら人間みたいに近接戦闘でも間合いの長い武器が欲しい。親父さんの使ってた剣を参考にさせてもらった。


 土を硬く締めるだけではもの足りない。陶器のように焼き固めるでは脆すぎる。圧縮して焼き固めるように成形していく。そうして作り出した柄のない刃は、金属に比べて欠けたり砕けたりしやすくなってしまうが斬れ味では劣らない。使い捨てにすると考えれば十分な代物。それが俺の固有魔法『堅刃ロブストブレード』だ。

 刃渡り100メック1.2mの剣身を浮遊させ、身体から300メック3.6m以内なら位置、角度など全て制御・固定化できるように構成を編んだ。バランスの問題なのか、対にするほうが制御しやすかったので一対を基本にしている。そのため、翼みたいになったのは単なる偶然。


「それ、格好良いね、キグノ」

「一緒にやっちゃおう、キグノ」

 おう、双子か? よし、行くぜ!


 ペセネとセドネを両脇に従えるように駆けた俺は、真正面から傭兵集団に挑みかかる。右刃で相手の構える剣を横へ弾き、通り抜けざまに左刃を縦にして腹部に叩き付ける。悶絶してるから、あばら骨くらいは折れてるだろうが死にはしないはず。

 俺は傭兵どもの剣を弾き、堅刃で殴り付けて昏倒させながら斬り込んでいく。注意が集中するのを見て、双子も小剣を両手に構えて相手の剣を受け、こちらは遠慮無く斬り裂いていってる。

 そのほうがありがたい。俺がやった奴は一時的に戦闘不能にできているが、そのうち目覚めちまうからな。確実に潰していってくれ。


「くそっ! 一方的にやられてどうする!? 押し包んで動けなくしろ!」

 そう簡単にはやらせないぜ、傭兵団長オリファさんよ。


 俺の脇辺りから二対目の刃が立ち上がってくる。

 悪いが、今の状態でも四本までは制御できるんだぜ? 人間は腕が二本しかないが、俺は四本の堅刃ロブストブレードを振れる。さあ、どうするよ?


「なんだよ? なんだよ、これ! どうして魔獣が剣の間合いで戦いやがる! どうすりゃいいってんだ!」

 痛い目見たくなかったら大人しく殴られとけ。

「あーははは! そいつは愉快な戦い方だね、キグノ! 俺も混ぜなよ」

 好きにしろ、フィン。今の俺にあんまり近づくなよ。四本ともなるとそれほど細かくは制御できないからな。


 スフィンウィーもハルバードを振り回しながら参戦してきた。これは俺の堅刃と変わらないくらい間合いが長い。斧みたいな刃が血の尾を引きつつ弧を描くさまはなかなかに凄まじい。


「ニルガーン!」

「行くぞ!」

 魔法攻撃か?


 及び腰になった傭兵団に魔法が撃ち込まれ、爆炎で焦げた男たちが転げまわる。討ち漏らした傭兵も、ラウディの爆泡バブルボムが地味に炸裂して吹き飛ばされて昏倒していた。

 五十近くいた敵も残り少ないじゃん。街道脇の戦場は、戦闘不能の傭兵が累々と横たわる光景へと変わっていってるぜ。


「お前らー!」

 うるさいぞ。

「ぶった切ってやる!」

 そいつは無理だ、オリファ。


 振り下ろされた剛剣も、前の一対の堅刃で受け止める。後ろの一対で両側から脇を痛打してやった。


「げふあっ!」

 あばらは砕けたろ?

「おおおっ!」

 頑張るな。


 横薙ぎの剣を受け止めたら前の一対で横っ面を殴り付け、反対からも殴ってやった。頭を強かに揺らされた傭兵団長はぐるりと白目をむくと、その場に崩れて落ちる。

 やれやれだ。これに懲りたら喧嘩を売る相手は選べよ?


「あははは! すごいすごい。全部やっつけちゃったよ、キグノ」

「最高に格好良いわんちゃんだね!」

 そんなにキスするなよ、双子。

「馬鹿どもは成敗してやったし、被害も出てない。上出来だ!」

 ハルバードを突いて大股開きで大笑するのは、さすがに雌っぽさが足りないぞ、フィン。


 駆け寄ってきたラウディから相棒が降りてきて、俺の首に抱き付く。

 なんだ? そんなに不安だったか? それほど劣勢でもなかったろ?


「キグノ、ごめんね」

 気にすんな。お前と居るための制約だ。どうってことないぜ。


 押し付けてくる柔らかな唇を押し返すように舐めるぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

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