ジリエト商隊護衛(6)
街道をまっすぐ進むと魔境山脈にぶち当たる。昔は中隔地方と西方を隔てていた魔境山脈には
ここからは見えない南海洋は荒れている時が多くて海路を難しくしてる。凶暴で大型の魔獣の多い魔境山脈は、二つの地方の人と物の行き来を長きに渡り妨げていたが、今は自由自在に出入りできる。山脈は境ではなくなったのさ。
距離っていう境界は厳然としてあるものの、人間も物も文化も境い目を失いつつあるのが今の大陸だ。
街道を行く者の速さはそれぞれで、急ぐ者あり、ゆるりと行く者ありといった感じで、追い越したり追い越されたりも珍しいことじゃない。どちらかといえばゆったりとした速さに属するジリエト商隊は、追い抜かれるほうが多い。
だから、その時も急ぎの便に追い抜かれるのだと思ってた。ところが、とばしてきた馬車列は商隊を追い抜いたところで減速し、行く手を遮ってきたんだ。
「金目のもんは全部置いていってもらおうか。誤魔化そうとしたって、大体の取引量は掴んでるんだからな?」
この匂い、ザウバでフィンの姉ちゃんに絡んできた男か?
「オリファ、これは何の真似だい?」
「見ての通り、軍資金の寄付をお願いに来たのさ。ちょっと乱暴だがな」
「傭兵団が盗賊団に成り下がったっていうのかい?」
言い得て妙じゃん。
「何とでも言え。この辺りじゃそうそう邪魔は入らねえぜ?」
四台の馬車からぞろぞろと降りてきた男たちが、他の道行く者を牽制してる。中には護衛が付いている者もいるが、まずは雇い主の安全確保が優先だ。手出しはしてこないで警戒してる。
そのうちに傭兵団を自称する連中は、一斉に剣を突き付けて街道から押し出すように動いてきた。
「俺たちキャブリの牙が護衛に付いていると分かっててジリエト商隊を襲うっていうのは嘗められたものだね?」
「嘗めてねえさ。だからこの通り、全員で相手してやろう」
五十人近くは居やがるか。ちょっと厄介だな。
「怪我するのが嫌なら出すもんを出せ、キエル。どうせ今回の上りが無くたって潰れないくらいの運転資金は貯め込んでんだろ? だったら命より安いんじゃないか?」
「簡単に言うな。こっちにゃ金では買えない信用っていう売り物があるんだ。黙って差し出してやるもんか」
おお、おっさん。足元から剣を引っ張り出すとはやる気だな?
だが、その頃には商隊全体は街道から押し出されてしまってる。隊商主のキエルは武闘派でも、従業員たちは普通の商人見習いだ。剣を突き付けられりゃ馬車を下げるしかない。
「やらないんでやんすか、キグノの旦那」
これは仕事だ。雇い主の指示じゃなけりゃ勝手に仕掛けられないじゃん。相棒に危害が及ばない限りはまだ動くなよ?
「解りやした。旦那が動くまで待ちやす」
そうしてくれ。
「了解でやんす」
街道でも騒ぎになってる。近場の町に連絡が行くだろう。衛士か誰かが駆け付けてくるだろうが、こいつらはそれまでに片を付ける気なんじゃないかな? こんな目立つ場所で仕掛けるってことは時間との戦いだって解ってるだろ。
「キグノ、ちょっと待ってね」
囁くように言わなくても解ってるぜ、相棒。
「キエル、分は悪いができるだけのことはやるよ?」
「ああ、頼もう、フィン。フュリーエンヌさんもお願いできるかな?」
「分かりました。フィンさんたちに合わせてね、キグノ」
合点だ。でも、やるなら先制攻撃かけるぜ?
「なんだ、この多勢に無勢でやる気か? 大人しくしてれば損するだけで済んだものを。ああ、あと女もいただくがな。上物が揃ってんじゃないか」
「こいつら! ペセネもセドネも全力でいきな。キャブリの牙の本気を見せてやれ。リーエちゃんもやれるかい?」
「大丈夫です。回復も任せてください」
緊張感が高まったところで、気を逸らすようにオリファが俺に剣を向けてきた。
「おっと、そっちに魔犬使いがいるのも調べが付いているんだからな? その魔犬が
そうかい。
「何をやっても無駄だぜ。こっちには光系の使える魔法士だっている」
なるほど。じゃあ食らっとけ。
頭領の威を借りてにやけ顔の傭兵二人が続けざまに
これを食らえば命は無いぜ。分かるな? 警告だ。
「なんだと? あの魔法士、魔法を使ったか?」
騒いでやがる。馬鹿どもめ。
「リーエ、今のは?」
「安心してください。キグノの魔法です。彼のお父さんは
「そうだったのかい。それは強いわけだ。これまでの実績も伊達じゃないんだね」
そういうこった、フィン。攪乱してやるから仕留めてくれ。
とにももかくにも数を減らさなきゃ、あれの相手は面倒だ。正面戦力は姉ちゃんたちに任せるぜ。俺は攪乱に徹する。
さて、出番だ。俺は身体を震わせて幻惑の霧を纏うぜぶるぶるり。
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