ジリエト商隊護衛(2)
ジリエト隊商は馬車二台だけの商隊だった。キエル本人と五人の従業員がザウバとメレスティを行き来しているだけらしい。今は反転リングのお陰で個人商も当たり前の時代。従業員も皆が『倉庫持ち』なのはそれなりに取引量がある証拠だろう。
何を運んでいるのかも聞いておきたいところだな。それによって危険度も違ってくるじゃん。
「警護はわたしたちだけでしょうか?」
それならたいしたもんは運んでないよな。
「いや、もう一組頼んである。今回は『キャブリの牙』も受けてくれたぞ」
「他の冒険者さんも同行するんですね」
ほっとしてるな、相棒。
筋肉親父の言葉の後半は従業員に向けたものだ。それに応じて喝采が起きる。馴染みの冒険者パーティーか?
「よし、フィンさんと会えるぞ!」
「お姉様、来るんだ」
なんだ、この反応は?
「でかしたぜ、親分!」
「親分って呼ぶな、馬鹿野郎。お前らがごねるから都合してもらったんだぜ」
従業員が囃し立てキエルが怒鳴るのはこの商隊の習いみたいなものらしい。相棒が苦笑いしつつ眺めていると、件の冒険者パーティーらしき人物がやってくる。
続いてでかい盾を担いだ雄と、細身で小柄な雌が二人。それとおっとりとした感じの雄が一人の総勢五名だ。
隊商主のキエルと挨拶を交わし、従業員の歓声に手を挙げて応じた雌は、説明に耳を傾けた後にリーエのとこにやってくる。
「ふーん、君が『イーサルの魔犬使い』ね」
「フュリーエンヌと申します。よろしくお願いします」
不躾なのも、なぜか様になってるな。
「俺はスフィンウィー。皆、フィンって呼んでる」
「では、わたしはリーエで」
「ああ、よろしく、リーエ」
自分を「俺」と呼ぶのも空気に合ってて不自然さがないな。一風変わった雌だぜ。
「それで、お前が魔犬なわけだ」
よろしくな。
「魔獣だっていわれりゃそうなんだろうね。どうもピンと来ないけど」
俺もあんたが放つ雌の匂いにピンと来ない。お互い様だろ?
「まあ、いいか。相当人慣れしてそうだし、なにより格好良い」
そう言うと、俺の額にキスしてくる。従業員たちが何か言ってきてるぞ? 「フィンさんの唇を!」とか。
友好的なのは悪くないから、まあ挨拶は返しとくか。頬っぺたぺろぺろ。なんだ普通に雌の味がするじゃないか。
「あー、いいなー。あたしたちも仲良ししたい!」
「わんちゃん、お名前はー?」
キグノだぜ?
「この子はキグノっていうの」
「キグノ君かー。あたし、ペセネ」
「あたしはセドネ」
そっくりだな。俺じゃ全く見分けがつかないぜ。
「あなたたちは双子なのですか?」
「そう。似てるでしょ?」
「ええ、髪の長さが違うけど、顔はそっくりですね」
そういや確かに。なるほど髪の長いほうがペセネか。
「わざとー。だってそうしないと間違えられるんだもん」
「ねー、失礼しちゃう。もっとくだけた口調でいいよ。同じくらいの歳でしょ?」
「わたし、十七です」
「じゃあ、お姉さんだった。あたしたち、十八」
やってきた二人の雌はちょっと幼げだけど相棒より歳上らしい。フィンが冒険者らしい金属製の軽鎧を着けているのに対して二人は軽装だ。局部を覆うだけの皮鎧くらいなもんで、肌の露出も多い。ただ、両の腰に短めの剣を佩いているから戦闘系なのは間違いないな。
「もふもふいいなー」
「うちも何か飼おうよー、フィン」
「そんなんじゃないよ。見れば分かる。この子は近接戦闘系じゃない。なら護衛が要るだろう?」
いや、セネル鳥飼ってるだろ? 可愛がってやれよ。
「わたしでしたら治癒魔法士なので、戦闘系の皆さんのお役に立てるかと」
「君も治癒魔法士だったか。私もだ。ヴィックルという」
そんなでかい図体に大盾まで持ってて治癒魔法士なのかよ!
大柄の雄が声を掛けてきたうえ、
「今回のメンバーは固いね。守りと回復には困りそうにないや」
もう一人の雄もやってきたな。こいつは分かりやすい。見たまんま魔法士だ。
「僕はニルガーン。魔法士だよ。火系と水系が使える。ちなみに
いや、偏り過ぎだろ?
「あはは、みたいです」
相棒も戸惑ってんじゃないか。
「そうはいっても、いつも街道に迷い込んでくるはぐれ魔獣を片付けるくらいの簡単なお仕事さ。そんなに気張らなくたっていいよ」
スフィンウィーはからからと笑ってる。そこまで呑気で良いのかよ? 商隊警護なんて向いてないから、俺も相棒も初めてだ。勝手が分からん。
「もしもの時はおいらに任せるでやんす」
一部張り切ってる奴がいるな。
「確かに旦那は
俺の心配かよ!
あっちの連中は通常セネルばかりだから怯えてたのか。やれやれだ。
とりあえず双子ぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。
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