ステインガルドの危機(3)
「
太腿から流血している俺を、相棒が慌てて回復する。そんな顔すんな。大した傷じゃない。
しかし、どうにもいけないな。さっきの一団だけで六十くらいはいたろ? その上でこんなに村中に散ってやがるってことは、全部で百くらいはいそうだな。
冒険者五人やそこらで相手できる数なのか? 戦ってるとこ見たことないから勝手が分からないじゃん。
魔力感知されると俺が魔獣だってばれるから、とにかく魔法士だの冒険者だのには近寄らないようにしてたんだよ。
「院が焼けちゃうよー」
「住むとこ無くなっちゃう」
「今は命のほうが優先よ。我慢してね」
ずっと暮らしてたとこが目の前で焼け落ちるのを窓から眺めるのは切ないだろうな。だがレイデが言う通り、命があってこそだから耐えろよ。
うちは他と軒が近くないから燃やされたりしないはずだ。ここに籠っている限り安全なんだぜ。
「まだいるのか?」
散ってた連中だけだぜ、モリック。
「でもぽつりぽつりとしか来なくなったから、そんなに残ってなさそうです。ほとんど村長さんのところに集まっているのでは?」
たぶんそうだ、相棒。外じゃ戦ってる音が聞こえてた。
「こっちには見向きもしないから何とかなりそう」
仲間の死体の匂いを嗅いで通り過ぎてるからそう思ったんだろ、レイデ? でもな、あれは俺の匂いを嗅ぎ取ってボスに報告に向かってるだけの話だ。厄介そうなのがいるってな。
最悪はこっちにも何匹か寄越すかもしれないが、それは片付けてもいいし籠ってやり過ごしてもいい。朝までは持ち堪えられると思うぜ。
「美味しいね」
美味いな。
「頑張りましょうね?」
ルッキやパントスはまだ鼻をすすってるが、リーエが差し出したクッキーに嚙り付いて顔色は戻ってる。他の家族の子供達はなかなか喉を通らないようだな。コストー達のほうが肝が据わってる。
俺の前にも生肉と水が差し出されてる。血を流しちまったからな。補給補給。
「え? どうして?」
「なぜだ? クローグさんところはやられたのか?」
通りの向こうからシェルミーと母親のシンディ、犬のジークが駆けて来るのに、窓から覗いていた相棒が気付いた。クローグのところで何かあったのか?
「入れてあげないと!」
ぎゅうぎゅう詰めになるが仕方ないな。
「君は良い。僕が出よう」
俺も行くぜ。
モリックが手招きしたらシェルミーたちも気付いて急いでやってくる。うちを指差して入るように促した。
「託児院はどうしたんですの?」
「あの通り隣家から燃え移って危険なので、リーエのところへ避難しているんです! クローグさんのところは?」
「うちも飛び火で危険だから村長のところへ避難するところよ。うちの人が消火しようとしているからその間だけだけど」
どこも似たようなもんか。
「おばさま、早く中へ!」
なんだ、その嫌そうな顔は。命が惜しくないのか?
「あなたなんかのお世話にはなりません。あとで何言われるか分からないじゃない。託児院がダメならこのまま村長のところへ行くわ」
「無茶です! あそこは今、魔獣が集まって冒険者さんが戦っているところです!」
「ジークが追い払ってくれるから問題無いわ」
おい、あんなこと言ってるぞ?
「え、何?」
お前が魔獣を追い払ってくれるとさ。
「無理無理無理無理……」
何だよ、ご主人の期待に応えろよ。
「無理なものは無理ー」
だろうな。だったらあそこへ押し込め。
俺が鼻で示すがクローグの嫁はその前に動き出し始めちまった。ジークは仰天しつつも後を追う。少しは義理を感じてるのか。
「シンディさん、無茶です! 戻りなさい!」
「おばさま、ダメ!」
聞く耳持ってないじゃん。
「くそっ! レイデ、子供達を頼む! そこに籠っているんだ!」
「モリック、危険よ!」
「放っておけない!」
こりゃどうにも参ったぞ。モリックを見殺しにはできない。でも相棒の傍を離れるのは絶対に無理だ。ヤバすぎる。
「行きましょ!」
おい、お前まで出てきてどうすんだ、リーエ!
「私が残ったらキグノは行けないものね」
こういう時ばかり、ばっちり通じるのかよ! ああ、行ってやる!
「リーエ! いけないわ!」
「ごめんなさい! うちをお願いします!」
「リーエ!」
悪いな、レイデ。相棒は覚悟を決めちまってる。
しばらく行くと、モリックがシンディの腕を取って引っ張ろうとしてる。なのに馬鹿嫁は抵抗してきーきーと騒いでやがるな。
参るぜ。そこら中に煙が流れて視界は悪いわ、鼻は利かないわ、どうにもならないじゃん。村長の家までどれくらいだ? 煙の向こうにほのかに見えているのは魔法の灯りか?
追い付いたが、周囲の状況が全く掴めないときてる。迷っているうちに風が強くなってきて煙が晴れてきた。やれやれ……、ってこりゃいけないぞ。村長の家は目の前で、魔獣の一団が間にいるじゃんか!
「魔獣が!」
「こんなに近くに!」
「逃げて!」
だが、煙が晴れたら向こうだって俺たちに気付く。一匹の
「ジーク! そんな奴はどうでもいい! 僕を守れ!」
「
避けるのか、馬鹿野郎が!
モリックに向けて火球が膨れ上がる。俺は回り込んで、そいつの開いた口を上から噛んで塞いでやった。
くぐもった破裂音がすると、眼球が飛び出してそこからも火炎が漏れた。熱ちっ!
「キグノ!」
問題無い。それより取り囲まれちまったぜ。こいつはもう無理だな。
俺は覚悟を決めて、ひりつく口の周りの火傷をを舐めるぺろり。
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