2001年・冬

大雪

第80話「流刑地の景色」

 学芸会の反乱以降、私はクラスメイトから完全に異常者と見なされるようになった。

 もとより、事あるごとに首藤に反発する質の悪い奴としての認識は十分なほど浸透していたに違いないが、その認識がクラスにとっての害悪という度合いにまで上昇したことは、今さらたんずることでもないにしろ、私の学校生活をいっそう息苦しいものとした。


 教室に入って、誰もおはようなどと声をかけてこないことは言うに及ばない。それどころか、私が席につくため教室を進むと、軽薄な女子生徒などは露骨に眉をひそめて逃げるように離れていくことも日常的になった。


 十二月上旬。教室に入り、左端最後尾の自席に向かうと、予想だにしないシチュエーションが用意されていた。

 私の席だけ、他の生徒の席から大幅に離れた教室の隅に移動されていたのである。


 教室は広さがあり、十分な間隔を取って机を配しても、最後列の後方はいくらかの余剰が生じる。しかし、教室の左端、壁にぴたりと合わせて椅子がセットされ――ご丁寧にも、ガムテープが何重にも貼られて固定されていた――、机もそれに合わせて置かれていた。その光景は、遠目に見ると流刑地のような索漠さくばくたる感覚を呼び起こした。

 私がそこまで行くと、高杉やその取り巻き連中がにやついていた。


「学芸会をぶち壊した罰として、お前の席は今日からそこだ! 先生にも許可を取っているからな」

 真ん中最後尾の席の高杉が、立ち上がって首藤のような口調で言った。

「そうだっ、罰としてずっとそこにいろ!」

 有馬が、わざわざ離れた席――右端前から二番目――から追随する。

 椅子を固定しているガムテープは、それなりの努力を費やせば剥がせそうに見えたが、そんな惨めな行為に出るはずはない。


「ここのほうが落ち着きそうだね。ありがとう」

 私の返答を聞いた高杉は鼻を鳴らし、取り巻きたちとのにやつきを再開させた。


 席につくと、思っていた以上に他の生徒たちから距離を感じた。視力はあまり良くないので、裸眼では黒板を見るのが困難な距離だが、幸いにも予備の眼鏡を持参していたので事なきを得た。

 一方で、そこからの眺めや居心地は、どう斟酌しんしゃくしても肯定的に捉えることはできなかった。高杉に返答したように、鬱陶しい生徒や首藤から離れている分落ち着きを得られるのではないかと考えていたが、そう感じられるほどの強靭さを、このときの私はもう有していなかった。寂しさや悲しさや虚しさのような感情が、私の胸中で行き場なく燻っている様を心臓の鼓動に合わせて感知するだけの、まさしく罰と呼ぶに相違ない場所だった。


 別の日には、体育の授業中に――やはり高杉に――突然ズボンを背後から引っ張って下げられ、クラスメイトたちにパンツ姿を晒されることもあった。しかしあまりにも低次元で、それを喰らっても反応に窮したというのが正直なところだった。

 彼がそれを察知したかどうかはわからないが、日を置いてさらに二度、三度と私が忘れた頃に実行され、ついにはズボンだけでなく下着までも下ろされ、陰部を露出させられた。女子生徒たちが悲鳴を上げ、手に持っていたバスケットボールを私の身体や局部に投げつける。ズボンだけならいさ知らず、その次の段階はさすがに冷汗三斗れいかんさんとであった。


 やめろと言ったところで彼らがこうした愚行をやめるわけもなく、私は何をされようが、毎回口をつぐんで隠忍自重いんにんじちょうを貫いた。

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