第12話
「腐ってなんかないぞ。新品ばかりだからな。」
「新品って、一回売ったら、次は新品じゃなくなるじゃない!」
「当たり前だ。一回売ったものを再度売るようなあこぎなことはやってないぞ。」
「ま、まさか、いけないオペとか、それに群がるマッドドクターとかがいるって言うの?」
「作る技術者はいるがドクターと呼ばれたりはしないぞ。もうじれったいな。今からでも枕営業に行って来い。」
「枕営業を強制するの?」
「ああ、そうだ。この高額枕を売って来い。」
「えっ?枕を売る?そうだ。さっきからそう言ってるだろう。枕営業とは、高額枕を金持ちに売りつけることだ。わかってなかったのか?」
「そ、そうよね。始めからそう思ってたわ。クソみたいなオヤジに高級枕を売るってことだわね。」
「そうだ。ソコドルはカネを稼がないといけない。自分の生活費だけでなく、宣伝費、衣装代、地下ステージの賃借費用、CD制作費、バンドへの手当て、イルミネーション光熱費など、スポンサーが付かないんだから、運営費をすべて自分たちで賄わないといけないんだからな。」
まずはソコドルのイベント後に、他のソコドルと一緒に枕即売会に臨んだ千紗季。
一列に並んで枕を売っている。と言ってもソコドル人数は48人である。それは地下ステージに上がることのできるメンバーのみである。
千紗季のように、ステージメンバーでない者にファンが付いているはずもなく、枕即売会をやっても売れない。従って千紗季たちは即売会の雑用を手伝うだけである。ソコドルと言ってもそこにはれっきとしたヒエラルキー、格差社会が存在するのである。
「多少は売れてるわね。でも売れてるのは、顔写真入りの抱き枕ね。用途が限定されているていうか、明らかっていうか、ブキミな感じがするわ。」
売ってるソコドルは購入客、ひとりひとりに両手でしっかりとお礼を言っている。買ってる客は恐らくリピーターで、何個枕を買ってるのかと思うと、胸を痛める千紗季であった。固定客を持たない千紗季たちは個人客を訪問して販売するのが責務であった。
こうして、高額枕を背負って、とある高級住宅街に現れた千紗季。練習着である赤いジャージ姿である。
「枕を月に百万円売るのがノルマって言われたけど、いったいどうすれば買ってもらえるのかしら。金持ちで枕を持ってないなんて家はないんだから。」
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