第11話

そして、夜は明けた。千紗季は横たわったまま、吊り目を開いた。

「あ~。よく眠れたわ。どうやら何事もなかったようね。杞憂に終わったわ。やっぱりこの衆人環視の中では犯罪は行われなかったみたいね。良かった。むぐ。息が苦しいわ。」

「朝チュン、朝チューはいいなあ。」

山田が千紗季の口を自分の口で塞ごうとしていた。

千紗季は慌てて、山田の顔を払って退けた。

「セクハラは止めてよ!」

「ああ、止めた。もういろいろ調べたし。」

「何をしたのよ?」

「ナニをしただけだ。初めてだったんだな。」

千紗季は慌てて布団にもぐってパンツを見た。使用済という印鑑が押してあった。

「ヒドいわ。なんてことするのよ、いやしてくれたのよ!」

「イタくはなかっただろう。優しくしたからな。」

「いったい何をしたのよ?」

「さあな。危険なことはしてないぞ。でもここに来たのはこれからやってもらう仕事の事前チェックだからな。」

山田は手に枕を持って、千紗季にビシッと向けた。

「売れないアイドルが自分を売り込むためにやることって言ったら決まってるだろう。朝食後は会議室に集合だ。」


会議室にやってきた千紗季だったが、集合していたのは、千紗季ひとりだけであった。

「他のソコドルはもう仕事に行ったからな。」

「アタシはこれから何をするの?当然アイドルとしての魔法レッスンよね。」

「レッスンねえ。それよりも先にやることがある。まずはカネを稼がないと。生活するんだから。」

「何をやれって言うのよ。」

「アイドルの底辺に張り付いているソコドルがやることと言えば言うまでもなかろう。」

「まほうよ!」

「まくらだ!」

「ま、ま、枕!?まさか、枕営業!?」

「そのまさかさ。」

「枕営業って、枕を禿げたオヤジと並んでツーショットってヤツ?そんなの、公序良俗に反する行為じゃないの!」

「世の中にはなぁ、必要悪っていうモノがあるんだよ。枕営業はソコドルの基本中の基本だ。社会勉強にも繋がるぞ。」

「そんなの、社会勉強じゃないわ。」

「オトナの階段を三段飛びで上れるぞ。」

「オトナの階段はゆっくりと一段ずつ上がるものよ。ア、アタシはまだ一段目に足を架けることすらできてないのよ。」

「ほほう、まだ一段目未了とは。千紗季は、処」

「それ以上の言葉はダメー!」

「千紗季は処分されるぞ、職務怠慢でな。」

「ガクッ。なあんだ。い、いや!処分は困るわ。莫大な違約金を払うなんてイヤだわ。」

「だったら、枕営業するしかないぞ。」

「本当にやらなきゃいけないの?」

「ああ、すごく大変なミッションだからな。でもソコドルはみんなヤッてる。」

「みんながヤッてるって、ソコドルって、みんな艱難辛苦に耐えてるのね。」

「いや、けっこう楽しんでるヤツもいるぞ、成績のいいソコドルはな。」

「成績って、逆ナンの集合体なのかしら?」

「逆ナンだと?たしかに金持ちのオヤジたちに自分を売り込んで、気に入られたら、高額で買ってもらえることもあるしな。」

「枕営業って、どこまで腐ってるのよ!」

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