翔太と怪異

穴一

第1話 出会い

 僕は、あくびを噛み殺しながら通学路を歩いている。僕の名前は宗祇翔太。何処にでもいる高校生2年生。今日は寝不足だ。

寝不足なのは、夜遅くまでネットサーフィンをしていたからなんだけど。

「うす、翔太」

「あぁ、おはよう。博通、今日朝錬は?」

 僕の背中を勢いよく叩き、声をかけてきたこの少年は同級生の菅野博通。幼稚園からの幼馴染。髪型はスポーツ狩りで細身の筋肉質。もちろん、運動部。しかもバスケット部、女子からは黄色い声援絶えないくらい人気者。しかも本人の知らないところでファンクラブがあるらしい。

「今日は自主練だから、ゆっくり登校」

 そう答えると、博通も盛大な欠伸をした。ファンの子にこんな姿見せられないなと。他の人には見せない仕草を僕には見せてくれることが少し嬉しかった。

「へぇ。珍しいね」

「なんだよ、気持ち悪いな」

 僕の仕草に疑問を抱いた博通は細目でこちらを見てきた。別に同性に意識しているわけではないんだけど。

「いや、別に」

特に代わり映えのしない日常を過ごしていた。

しかし、一週間ほどたったある日のことだ。思わぬ噂が学年中に流れた。

 僕もその日の放課後に博通から聞くことになる。


 僕は、放課後になり、自分の机を片付け帰り支度をしていた。

その時、後ろから声が聞こえた。

「おい、翔太」

「ん?何だよ、博通」

 博通は珍しく慌てた姿で迫ってきた。

「ちょっと、来てくれないか」

 周囲の空気が一変するのがわかった。というのも、クラスの女子たちがあちらこちらで耳打ちをしながら頬を赤らめてキャーキャー騒いでいる。僕は、その姿を見てこれはよからぬ噂が流れてしまうと思い「場所を変えよう」と提案する。

「あぁ」

 博通は僕の手を取り、足早に教室を出る。それを見た数人の女子がより一層囃し立てる。

 博通は、僕の手を取ると屋上に出る階段に向かった。

屋上に出る扉の前はちょっとした広場になっている。うちの高校は屋上には出れないように扉は鍵がかけられている。聞くところによると昔、ある生徒が屋上でふざけていて転落しかけたらしい。それを知った学校側は、屋上に出る扉に施錠したというわけらしい。あくまで噂なんだが。

「あのさぁ」

「どうしたんだよ。急に」

「最近の妙な噂耳にしたんだ。お前、人魚って知ってるか?」

 博通は神妙な面持ちで聞いてくる。

「いや、知らないな。人魚ってあのおとぎ話?」

 僕は、博通とは違い交友関係は博通以外はほとんど無い。というか皆無だ。だから、昼食も博通がいなければ独りご飯。放課はほとんど読書している。だから、クラスの人と会話することはほとんど無い。寂しいとは思わない。

「そうか」

 博通の表情は何処と無く硬い。

「実は・・・・」

 博通は、僕にその人魚について細かく説明してくれた。事の発端は最近、夜中にある道を一人で自転車で走っていると、ある橋の上からから足が魚の怪物が岸に座りこちらに手招きしてくるという噂だった。最初は、誰かが流したデマだということで流されていた。しかし、その噂の真実知ろうとした生徒がいたのだが、その生徒が確認したという連絡があった次の日、その生徒は学校に来なかったそうだ。その生徒の親から連絡があったそうでしばらく休むということだった。そんなことがあって、噂に尾びれ背びれがつき、その生徒は足が魚の怪物を確認しようとして呪われたとか神隠しにあった等々と噂されていると教えてくれた。

「へぇ、そんなことがあったんだ」

「本当に知らないのか?」

 博通は呆れた声を上げるが、僕は首を左右に振る。

「うん、ごめん」

「そうか。だけど、この話には続きがあるんだ。これを見てくれ」

 博通は落胆の表情を浮かべるが、いきなり上着を脱ぎだした。

おいおいこんな場面見られたら、勘違いされる。

「いきなり服脱ぐなんて・・・・・!?」

 僕は言葉を失い、博通のある部分を凝視する。それは、博通の下腹部あるものが浮かび上がっていたからだ。なんだこれ。

「人面?」

 僕は、その言葉を発するのが精一杯だった。どういったらわからないが、博通の下腹部には五センチ位の人の顔のような痣が出来ていた。その顔は気持ちの悪いほど歪んだ表情で怖かった。今にも変な声で叫びそうな顔だ。

「どうしたんだよ、その痣」

「実はよ、あの場所、俺も通ったんだ。特に気にもしなかったんだけど通行止めだったんだけどよぉ。あそこの橋、近道なんだよ。コンビニの」

「はぁ?」

 僕は博通の言葉に返事を返す。だから何なのかと思ってしまう。

「俺は深夜、無性に夜食が食べたくなってさ。家の冷蔵庫あさっても食い物なくてな。自転車でひとっ走りコンビ二まで走ったんだよ。まぁ、工事自体が橋の補強しててよぉ。橋の上は通れそうな状態だったからこっそり通っちゃったんだよ」

「危ないなぁ」

「でよぉ、橋の真ん中ぐらいまで来たら橋の下から歌が聞こえてよ。見たら足が魚の女の子と人のようなものが岸に座ってんのよ。月明りで女の子かわいくてよ。ちょっと見てたら俺と目が合ってすぐに水の中入って居なくなっただよ」

「ホント?」

 僕は博通の話を聞き疑い目で見る。

「なんだよ。その目は。勝手に入ったのは悪かったよ。仕方ないだろ早く食べたかったんだから」

「開き直らないでよ」

「で、まだ続きがあってさ。その女の子が座ってたところが月明りで光ったから、川辺に下りたのよ。下りたらさ、こんなのが落ちてたのよ。ほら」

 博通は話し終えるとズボンのポケットからボソッと取り出し僕に見せてきた。そこには七色に輝く鱗の輝きが目に入ってきた。

「鱗?」

「どうだ。信じてくれたか?」

「いや、信じるも何も」

 博通は少し鼻ならす。嫌、そんな自信ありげに言われても僕はどういう藩のすればいいのか困惑してしまう。

「てか、さっきの人面は痛みないの?」

「ああ、今のところな」

 博通は「まぁ、こんなところだ」と、その部分をさすりながら話し会談を去って行く。痣をかわいがるようにさすっている。怖いよ。

「気を付けなよ」

 僕は博通の後姿を心配そうに見送った。

 その後、博通が学校を休んだのは3日後だった。


 僕は博通が休んでいることを聞いた。その日の授業後、先生からの頼まれた配布物の渡しに博通の自宅に向かうことにした。博通の自宅は僕の家からそんなに遠くはない。歩いて5分ぐらいのところにある。同じ町内で小学校の通学団、校区の行事も一緒だった。大体何をやるにも博通は僕のそばにいた。大体、ここの住宅街は新興住宅地あまり昔からの町内会ではないので周りとの住民とは関係は希薄である。だから、子供たちの学校での行事などで初めて親同士が仲良くなるようなことがざらにある。

「あっ、ここだ」

 住宅街の一角に博通の家はあった。家の前にはインターホンが僕はそれを押した。

「は~い。どちら様?」

 インターホン越しに聞こえてきたのはおっとりと喋る女性の声が聞こえてきた。

「こんにちは。宗祇翔太です。学校の配布物持ってきました」

「あら、翔ちゃんなの?ちょっと待っててね」

 そう言い終えると会話は途切れ、ドアが開くとそのおっとりとした声が聞こえてきた。

「やだー、翔ちゃんじゃない。上がってちょうだい」

「お久しぶりです」

「そんなにかしこまらないで。入って、入って」

 僕は博通のお母さんに背中を押される形で家の中に入って行った。僕は居間に通されるとソファに座ると博通のお母さんは紅茶とお菓子のセットを持ってきた。そこには、僕の好きなお菓子ぼんとらやのピレーネが乗っていた。

「翔ちゃんありがとね。博通呼んでくるわね」

「あっ、どうも」

 僕は博通呼んでくるって大丈夫なのか?頭の中に疑問を抱きながらも、目の前の置かれてピレーネを頬張りながら待つことにした。あぁ、おいしい。

「よお」

 僕がピレーネを頬張っている後ろから、声がした。

「あっ、博通。はいじょうふ・・・」

「お前ってやつは・・・食いながら喋るなよ」

 博通は呆れた顔で僕を見ていた。僕はピレーネを紅茶で飲み込む。

「うまかったか?」

「うん」

 博通は笑いながらそういうと目の前のソファに座る。

「大丈夫なの?」

「朝、起きた時腹が痛くてさ。今は大丈夫なんだ。これ見ろよ。ほれ」

 博通はそう言うと自分のTシャツをたくし上げる。

「前のより大きくなってんだよなぁ」

 博通に前学校で見せてもらった人面より肥大していた。

「お母さんには見せたの?」

 僕は小声で博通でささやくようにきいた。台所の方では博通のお母さんは鼻歌交じりに何か料理を作っている。

「バカ、見せれるわけないだろ。こんなの見せたら失神する」

 博通も小声で返してきた。

「だろうね」

 博通のお母さんのことだ発狂して失神してしまうのが目に浮かんでしまう。しかし・・。

「どうやって誤魔化したのさ」

「そりゃ、俺の演技派の動きを見れば母さんも納得するよ」

 博通は何だか分からないが妙な自信で鼻を啜る。しかし、僕は知っていた。博通は昔から、小学校の学芸会で先生から大役を任されていたが余りにもセリフが棒で演技という演技がロボットかよと言われるぐらい下手なのだ。最後には余りにも演技が不自然すぎるからセリフなしで最初から最後まで一人で踊っていたのは伝説になっている。流石に中学校では文化祭で演劇をやる場合でも容姿がいいから、他の学校出身者、先生が推薦するものの、その事件を知っているものは反対し、さりげなく役から外されており、イメージを下げずにここまで来ている。だから、黄色い声援を送っているのは他の学校出身者ほとんどだ。偶に旧友でも黄色い声援を送っている者もいるがそれはまた次にでも話すこととしよう。

 まぁ、母親も似たようなちょっと変わったところがあるから似たもの同士だからこそ騙すことができるのかもしれない。ポンコツオブポンコツとでもしておこう。

本当に抜けてるんだよなぁ、この二人。

「そうなんだぁ」

と肩を落とす。僕は話題を変えるように話をする。

「そういえばさぁ、先生からの配布物と連絡事項ね」

と書類もろもろをカバンから出すと博通に渡す。博通もそれをもらうと「ありがとう」と言う、博通は自分の座っているソファに配布物を置くと、また小声話しかけてくる。

「あのさぁ、流石にこれ怖いからよ。何とかしてくれよ」

「嫌、嫌。僕一般人だよ。無茶苦茶なこと言わないでよ。出来っこないよ」

 何を言い出すんだ、博通は。

「お前本読むの好きじゃん。調べてさ、直す方法調べれるんじゃない」

「そんな無茶な」

「これやるからよ」

 博通はポケットからあるものを出した。

「こ、これはボン虎屋の栗餡入りピレーネ。な、何故これを」

「交渉だよ。お前、これ食べたかっただよなぁ。これは取引だよ」

「何でこのこと知ってたの」

「家の母さんが、お前の母さんに聞いたんだよ。だから、今日の買い物のついでにボン虎でノーマルとこの栗入りのピレーネ買って来てもらったんだよ」

 僕は唾を呑んだ。なんという策士だ。博通は頭が悪そうに見えて策士だし、勉強もできる。

「どうだ」

「ど、どうだと言われても・・・調べるだけならかな」

 僕は指をもじもじさせながら承諾する。こんなことで受ける僕も僕だけど。

「お前・・・ちょろすぎだろ」

 博通は軽蔑のまなざしでこちらを見てきた。

「うるさいな。別にいいだろ・・・・・・」

「まぁ、いいや。これでよろしくな」

 博通から栗入りのピレーネを受け取る。僕は心の中でちょっとガッツポーズをした。

「わかったことがあったら連絡しろよ」

 博通はスマ-トフォンをちらつかせる。僕はそのことを確認すると頷いた。博通のお母さんがリビングに料理をたくさん持ってきた。

「話は終わった?翔ちゃんも夕ご飯食べてくわよね?」

「いえ、これでお暇します」

「あら、そうなの。一緒に食べると思ってたくさん用意しちゃったわ」

 博通のお母さんはすごく残念そうにしていた。

「翔太の家でも飯の準備もしてあるだろ。また今度にしなよ」

「今日はすいません。また今度ご馳走になります。あー、後お菓子ありがとうございます。美味しかったです」

 博通のお母さんは僕のその言葉を聞くとみるみる嬉しそうな顔になった。

「今日はありがとな。また、頼むよ。先生には連絡してあるけど、もう少し休むから、連絡事項またよろしくな」

「あぁ」

 博通が後押ししてくれたおかげで家から出やすくなった。僕はソファから立ち上がると博通のお母さんに頭をさげた。博通のお母さんもあわあわしながら、料理を置き頭を下げた。僕はその後家から出た。外はもう暗くなっていた。道路に設置してある街灯がちらほら点き始めていた。スマートフォンを見るとSNSで家から連絡が来ていた。

 僕は、SNSで家に連絡を入れた。その言葉に返信が返ってきたことを

確認すると帰路に就いた。


 翌土曜日


「学校は休みだ」

 僕はベットから目を覚ますとカーテンを開け朝日を浴びた。時計を見ると

午前八時を少し回っていた。2階の部屋から1階のキッチンに向かうところで

1階の洗面で姉さんと鏡越しに目が合った。

「おはよう」

「あぁ、おはよ」

 挨拶を交わすと僕はキッチンに向かった。キッチンからは美味しそうな匂いは漂ってくる。あぁ、美味しそうだ。

「母さんおはよー」

「おはよう、翔太」

 僕は挨拶を交わすと冷蔵庫の牛乳取り出し、コップへ注ぐ。牛乳を冷蔵庫へ戻すとコップをリビングに持って行った。リビングには新聞で地方ニュースを見ていた父さんがこちらを見た。

「おはよう、翔太」

「おはよう、父さん」

父さんは、笑顔で挨拶してきた。母さんは「出来たわ」と言うと台所の方で喜んでいた。何時ものことながらそこで喜べるのは羨ましい。朝ご飯が出来たようだから、運ぶのを手伝うことにした。リビングのテーブルには朝食が並べられた。美味しそうだ。ごはん、ハムエッグ、サラダ、きんぴら、みそ汁にお漬物。あぁ、みそ汁の出汁と味噌が絶妙な香りがたまらない。家の食事はパン食でなくご飯飯食。父さんが日本人ならご飯を食べろと五月蠅い。だから基本、家ではご飯食だ。

 僕は、食事の支度をした後、父さんと母さんと食事を始めた。みそ汁はミックス味噌じゃなく赤味噌だ。どっちもおいしいんだけど、赤味噌の赤色が食をそそる。

「母さんの料理は最高だね」

「あら。嬉しいわ」

 僕たちはゆっくりと朝の食事を楽しんでいる。

 そこに、ランニングにハーフパンツの姉さんが現れた。さっき洗面で亜会ったけど、だらしないな。姉さんは腹を搔きながら、僕の朝食のお漬物を摘まんできた。

「いただき~」

「あぁ。ちょっとやめてよ、姉さん」

「美味しい」

「ちょっと。蓮花、行儀が悪いわよ。あなたの用意してあるでしょ」

 姉さんは、母さんにたしなめられる。父さんはというと何も言わずに食べている。父さんはよほどのことがない限り叱ることはしない。自分が怒ると怒りすぎるらしい。母さん曰く父さんは怒ると止まらないらしい。だから、叱るのは母さんがやっている。

 姉さんは、床に座り、自分の食事の前で手を合わせる。

「遅いじゃん」

「乙女は朝の準備に時間がかかるのよ」

 姉さんは箸できんぴらをつまみ頬張る。

「そういえばさ、あんたも気を付けなよ」

 姉さんは、唐突に僕に話を切り出した。父さんも母さんも箸を止めた。

「何が?」

「今さ、大学ってわけじゃないけど最近SNSであの橋の下に幽霊やら怪物が出るって噂が流行ってるのよ。興味本位で近づいちゃだめよ。興味本位いったやつがいたみたいで怪物見て襲われたらしいんだけど次の日、体の一部に変なあざが出来たみたいでさ。馬鹿だよね。自業自得よ」

「まぁ、怖いわね」

 母さんはおっとりした口調で喋る。全然怖そうに聞こえないから不思議である。

「それは怖いな。翔太も気をつけなさい。確か塾あの橋の近くだろ遠回りして帰りなさい」

 父さんも心配そうだ。僕は姉さんに聞いた。

「そんな事件なら、警察沙汰にならないの?」

「そいつも通報はしたみたいなんだけど、警察もとりあってくれないらしくてさ。とりあえずパトロールはするってなったみたいだけど。それ以上は知らな~い」

 姉さんは、話をしながらみそ汁をすすり、ほっこりした顔になっている。博通が話していたのと似ている僕は思った。そこでは、平静を装って相づちを打ったが内心ではドキドキだ。博通の言っていたことが他でも被害が出ているなんて。

「気を付けるよ」

「翔太の塾もあの橋の近くだったから、大回りで行きなさい」

 父さんも心配らしい。僕も気を付けないとは思ってみる。まぁ、今日は塾があるから気を付けないと。


土曜PM9:00


「お疲れ様です。ありがとうございます」

「帰りは気を付けなさい、翔太君」

 僕は帰り支度をして、先生に挨拶をする。ほかの生徒も先生に各々挨拶をして教室を出ていく。先生は教本を整理しながらみんなに挨拶してきた。僕はドアを開け、帰路へつく。外へ出ると暗くなって街灯もついている。

「大分、暗くなってきたなぁ」

 僕は、前かごにリュックを乗せ、自転車にまたがる。塾は生徒数十人で教師1人の講義で授業が進んでいくスタイルだ。個別授業の塾もあるが僕は1対1だと緊張してしまうから、多く生徒が学校の教室スタイルが安心する。

 僕は自転車にまたがり他の塾生にお疲れをするとみんな自宅に帰っていく。車で迎えが来る人、自宅が近くて歩いて帰る人、僕みたいに自転車で帰る人とそれぞれだ。

僕は帰り道のあの橋を家族から通るなと言われたのであの橋を通り過ぎようとしていた。あの橋にはこの時間だと工事していないので通行止めは解除していた。その橋は暗く先が見えにくい状況だった。橋の向こうは雑木林が多く暗さが一層増していた。

だけど、今日は妙に月明り明るかった。橋の下の叢が薄明りきれいに見てた。そこに二つ妙な人影が河川敷に見えた。

「あれっ?」

 僕は、博通と姉さんの話を思い出す。危ない橋は渡らない方がいいのに、僕はその姿に吸い寄せられたかのように河川敷に下りていった。恐る恐る近づいていく。それは岩に座っている人の形に見えた。しかし、足元は人ではなく魚の形もう一人は人っぽく見えた。僕はそれに驚き、ひっと声をあげてしまった。

「誰っ」

 人魚と人の形と思われるものは、気配に気付き、こちらに振り向く。

 僕は、目が合ってしまう。月明りにショートカットの赤色に輝き、目の色はブルーの瞳の少女の人魚だった。それはフランス人形かと思えるくらいに可愛かった。もう一人は、体中鱗が付いた魚人だった。魚人は直ぐ水中に隠れた為、すぐに視界から消えた。

その声は威圧感がある引く声でこちらに言い放つ。僕はその声に驚き、体がビクッと震え立ち止まる。というよりもその声に威圧でされ動けなかったという方が正しいかもしれない。魚人も人魚も空想上の生き物だ。まさか、こんなところにいたなんて。しかも、喋った。いろいろな視覚情報が入って驚きに変わった。

「なんだ人間か・・・・何の用だ」

「い・嫌・・河川敷に誰かいるなと思って危ないですよと言おうかと」

「あぁ、そんなことか・・・・」

 人魚と思われる少女は少し寂しい顔をする。そして俯いた。

「だ、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ・・・・探し物してるんだよ」

 僕は小さい声で聴きとれなかった。

「ど、どうしたんですか?・・・・」

「あっ。だから、探し物してるって言ったんだよ」

 人魚は腹に来るような低い声で僕に言い放った。腰が抜けそうになる。

「あぁ、そうなんですか、僕もお手伝いしましょうか?」

 僕は蚊の鳴くような声で聞いてみた。何か、上の学年にパシリされている博通のことが思い出す。博通はヘイヘイとめんどくさそうにこなしていたけど、僕としては初めてなので正直足はガクガクだ。こんなところで博通の凄さが分かった気がした。

「お前、せっかくいい雰囲気だったのに・・・。私、今イライラしてるんだ。殺すよ」

「えっ?」

 僕は言っていることが理解するまで三秒ほどかかった。博通の言っていた人魚とは違うよと思った。近づいただけで逃げたので恥ずかしがりやだとと思ったのに。どうしよう、まさか自分から首を突っ込んでおいて巻き込まれるなんて馬鹿だ。

 僕は額に汗を掻き、首筋を嫌な汗が垂れる。ゆっくりと足を後ずさる。

「くそ!」

 人魚はその場で飛び上がり、尾びれを振りまいて鱗を飛ばしてきた。

 僕は咄嗟に横に飛んだ。自分の足に激痛が走る。

「痛ったぁ」

 僕は激痛の走った足を擦った。手のひらには赤い血がべっとりと付いていた。

「外した?」

 イライラした感じで、人魚は赤い髪をかき上げる。

 僕は初めてだ。死ぬかもしれない恐怖いうものを知った。これ、やばい。こんな形で弱肉強食という自然の摂理を知りたくなかった。殺される。僕は目をつむった。

「死にな」

 人魚はこちらに尾びれを振り、鱗を飛ばしてくる。

 僕は咄嗟に目をつむった。

「待ちなよ」

 その声に目を開ける。僕の目の前に落ちる鱗を見下ろす。目の前には金髪ロングの人魚が僕をかばう様に手を広げて立っていた。

「だ、誰?」

 僕は咄嗟に口に出してしまった。

「わたしは、珊瑚よ。通りすがりの人魚だよ」

「人魚さん?あ、ありがとう」

 僕は彼女の言うあっさり答えてしまう事にも驚いてしまった。頭の中の整理が追い付かなく珊瑚を眺めていた。

 僕は珊瑚に見とれてしまった。

 その少女はまたさっきの人魚とは違ったタイプだった。髪は金髪で月明りでさっきの赤髪とは違った美しさがあった。

「やめなよ、女々。人はあんたに危害与えてにでしょ」

「うるさいよ、珊瑚」

 珊瑚と言った人魚が制止し、二人は見据えていた。女々はあたしとやろうってのかいとさらににらみを利かせる。珊瑚は笑顔で女々を見ている。

「あぁ、もう。邪魔が入っちまった。やめだ、やめだ」

 女々はそう言うと水の中に入ってしまった。

「大丈夫?」

 珊瑚は僕のけがの状態を心配してきた。珊瑚をまじまじと観察してみると金髪、青目の小顔でこれもまたフランス人形みたいでカワイイ。

「女々、最近荒いのよねー、何なのかな」

 珊瑚は周辺を見渡す。

「大丈夫です」

 僕は足を抑えながら、立ち上がる。ちょっと待ってと珊瑚は僕を近くにあった岩に座らさせられた。珊瑚はそのきれいな腕を僕の前で嚙みちぎった。その噛みちぎった場所から血が出てきていた。僕はその行動を見て驚いたがもっと驚くことを珊瑚は言ってきた。

「この血を飲んで」

「えっ!何、怖いこといってるの?」

 珊瑚は僕の口を血の出ている腕に無理やり力づくで血を飲ませようとしてくる。僕はもがいてその腕を振りほどこうと頑張ったが小さい体なのにすごい力で振りほどけなかった。僕はこれは無理だと思い観念する。しぶしぶその腕から出ている血を舐める。自分の血を舐めるのも嫌なのに、ペロッと舐めた。その血の味は自分の血を舐めた鉄分の味とはちょっと違う味がした。その後、体が熱く、僕はうなってしまう。

「うあぁぁぁぁ」

 さっき鱗で切りつけたケガした足のところがずきずきした。僕は足のところを見てみると足の傷がみるみるうちに回復していくのが見えた。

「えっ?」

 僕は足を見ていると元通りになると痛みは消えた。さっきまでは痛みを堪えながら立っていたが痛みはなかった。珊瑚はよかったと胸を撫でおろす。

「どういう事?」

「ごめんね。私の種族がやったことだし、直すのが当たり前だと思ってね。まぁ、人魚の肉は不老不死、血は傷と疲労の回復するの」

「はっ?」

 僕は少し考える。確かに本や漫画で人魚の血の話では読んだことはあって空想上の話であって現実で見るというか体験するとは思わなかった。

「あっ、ありがとう」

「いいよ。で、何でこんなところにいたの?」

「あ。それなんだけど・・・・」

 僕は事のあらかたを珊瑚に話すことにした。ここで人魚か怪物を見たものが体のどこかに人面が浮き上がっていること。僕の友達がその人面が浮き出て困っていることを色々話した。珊瑚は僕の言っていたことをしっかり聞いていた。

「ほ~う、なるほどね・・・・ならさ、手伝ってあげようか?」

 珊瑚の思わぬ言葉に耳を疑った。

「嫌、嬉しいけど。その恰好じゃ無理だよ。まだ僕だって信じられないよ」

「仕方ないのぉ」

 珊瑚はその場で宙返りをすると魚の尾びれになっていた所が人間の足の形になっていた。流石の僕もこれだけ一気に驚きのオンパレードだと驚かなくなった。

「これならどうだ」

 珊瑚は人間の足でくるりと回る。まぎれもなく人間に見える。

「あの~、何で協力してくれるの?確かに人間の僕だけじゃこの事件は限界あるよ。でもさ、君が協力する意味がわからないよ」

 僕は素直に疑問をぶつけた。

「面白そうじゃん。これじゃダメ?」

珊瑚はそう言うと僕に首を傾げる。道理は無茶苦茶だけど僕にとっては心強い。珊瑚がいれば十人力、じゃなくて十匹力?

「分かったよ。じゃあ、手伝ってもらってもいいかな、珊瑚さん?」

「珊瑚でいいよ」

「じゃ、じゃあ。珊瑚、よろしく」

「よろしくね」

 僕と珊瑚は月明りのなか、河川敷でこの事件に協力してもらうことになった。珊瑚はこっそり家に入りこみ僕の部屋でとりあえず暮らすことになるのだが、帰りがあまりにも遅かったので家族に僕が怒られたのは言うまでもなかった。


翌日日曜日


 僕は、家族での朝食を早めに済ませる。昨日の件もあってやや沈み気味の朝食だった。図書館に行くために、僕は自分の部屋に戻って準備をしていた。カバンに宿題のプリントを入れていると上から珊瑚がのぞき込んできた。

「何してるの?」

「えっ、図書館で宿題をするんだよ。それと昨日の件で古い書籍を調べるんだ。ま、こっちが本命だけどね」

「私も付いて行っていいの?」

「家にいたら見つかっちゃうよ」

 珊瑚はワイワイと喜んでいた。

「五月蠅くしないでよ」

「分かった」

先に下で待っているというと部屋の窓から珊瑚が飛び降りた。

「ちょっ」

 僕は飛び降りた窓で下を見た。ここは2階だよと思ってみたが、下の道路でこちらに向けて元気に手を振っていた。

 僕は左右の道路を見渡したが誰も見ていなかったようだ。とりあえず安心だ。ここの住宅街は日曜日の朝、道路は人通りが少なくて助かった。僕は急いでカバンに筆記用具準備をし、階段をおりる。居間でテレビを見ていた父さんを横目に行ってきますといった。キッチンの方からは母さんの行ってらっしゃいの声が聞こえた。

 僕は、玄関で靴を履いていると後ろから、ハーフパンツ姿の姉さんが立っていた。

「どこ行くのよ?」

 姉さんは牛乳を飲みながら、聞いてきた。

「図書館だよ。宿題あるし」

「昨日みたいに、遅くなるんじゃないよ」

「昨日はみんな心配してたんだぞ」

「ちょっと、先生に授業のことで質問してたら長くなっちゃってさ」

「それは昨日聞いた。それと帰る前に携帯で連絡すること。父さん、母さんは

あんまり言わなかったけど、昨日心配してたのよ。いいっ?」

「あ・・・うん」

 僕は昨日のお怒り引き続き、姉さんからのきつい一言いただくと言ってきますと姉さんに言うと外に出た。

今日は流石にあんなことには巻き込まれないよと心にその言葉を刻み込む。

玄関の外で待っていた珊瑚と歩き出した。


 ※


 僕たちは市の中央図書館に着いた。ここにはいろんな書籍が貸し出しできたり読むことができる。後凄いことに音楽も貸し出ししてたいたり、学生にはありがたい。お小遣いだけでは読めない本もたいていは読むことができる。読むだけだったら、本屋でもいいかもだけど流石にマナーが。後、自習室もあるから、一人集中出来る。家でやると誘惑があるから勝てない。

 僕たちは図書館の自動扉をまたぐと中に入った。中に入ると本が並べられた本棚がずらりと並べられており、ところどころにある椅子に利用者が座り本や新聞を読んでいた。僕の横にいた珊瑚は興味津々でそわそわしている。

「ここは何?」

「ここは図書館だよ。いろんな本がたくさん読めるんだ」

「本は?」

「見ればわかるよ」

 僕は誓の棚にあった児童書を取り出した。これ読んでみなよと適当に珊瑚に渡す。

珊瑚はその本を開くとそのページを見ていた。

「これ、嘘だよ」

 日本語読めるのとは僕は驚いた。珊瑚むくれた顔になる、本を閉じると僕につき返してきた。僕はそれを受け取ると表紙の名前を読み上げる。

「人魚姫・・・・」

 ああ、なるほどなと僕は妙に納得した。

「そんな同種の話聞いたことない、大体海で人と関わらず死んでいくのにこんな恋愛あるわけない」

「只の空想の話だよ。人間はこれを見て話を楽しむんだ」

「ふーーん。そうなのか」

 珊瑚は頭の上で腕を組みつまらなさそうに横で歩いていた。

「後、思ったけど会話がふつう過ぎない?」

「人魚の世界では世間話が好きなのよ。それにいろんな世界の地域に人魚はいる。だからいろんな言葉聞くし、覚えるのよ」

「そうなんだ・・・」

 人魚の世界もいろいろあるのだぁと思った。

 僕は席に座るとカバンから宿題を出す。珊瑚は僕の隣で適当にとってきた本をぺらぺらめくっていた。大人しく本を読んでいるので周りに迷惑をかけていないからたすかる。やっぱり宿題は静かな環境だとはかどる。

僕は出されている宿題がある程度終りかけていたので休憩にすることにした。ポケットから携帯を出すと時間を確認した。大体2時間ぐらいか。隣の珊瑚を確認したら、涎を垂らしながら寝息を立てて眠っていた。飽きたのかな。

「ねえ。ねえってば…起きてよ」

 僕は、珊瑚の耳に小声で囁く。ふぇと目を開ける。

「朝か?」

 珊瑚は寝ぼけているようだ。再度囁く。

「今、お昼過ぎたくらいだから、お昼どう。何食べたい?」

「何でもいい・・・・・・」

 珊瑚はそう言い残すとまた寝ようとしていた。僕は、寝よとする珊瑚を背中におぶる形で図書館を後にする。図書館を出ると木陰に囲まれて、日差しがほどよく通り風が吹くと肌にほどよくとおり気持ちよかった。珊瑚も背中で寝息を立ててスヤスヤ眠っている。僕は、近くにあるチェーン展開しているコンビニへと到着する。

「起きてよ。着いたよ、珊瑚」

「おっ、ああ・・・・・・」

 珊瑚は眠い目を擦りながら、コンビニ内を回る。まぁ、この小ささなら迷うこともないなと思うと自分の昼食を選びに行くことにした。

 僕は簡単に食べれるおにぎり2個とお茶を選ぶ。食べ過ぎちゃうと眠くなっちゃうもんなぁ。選んだものをレジに持っていこうとすると珊瑚がお菓子のコーナーで立ち止まっており、ある一つの商品を見つめていた。僕は気になって近づく。

「どうしたんだよ。何かあった?」

 僕はそう質問すると珊瑚の見ている先に目線を合わせる。

「これは、何?」

 珊瑚はある商品を指さした。指の先には、黒い包装紙のお菓子が置かれていた。

「あぁ、これ。ブラックサンダーっていうお菓子だよ」

 珊瑚の指さした先にはブラックサンダーと書かれたお菓子が置いてあった。

他のお菓子とは異彩を放つパッケージ。美味しさイナズマ級のキャッチコピーで全国展開している有楽製菓のヒット商品だ。ここ地元豊橋にも工場があり、豊橋市民なら赤ちゃんから老人まで知っているお菓子だ。チョコの中にサクサクのクッキーが入っているチョコレート菓子。これを食べると空腹が満たされ、腹持ちがいい。

しかも、値段が安いから、学生のお財布にも優しい。最近では、いろいろな種類が出ており飽きさせないメーカーの配慮が心見える。

 あ、僕としたことが恥ずかしい。

「このブラックサンダー欲しいの?」

「何かね。この・・・・まぁ、うん」

 珊瑚は恥ずかしそうにしていた。確かにパッケージが女の子が買いずらいかな?でも一度買ってしまえば、その恥ずかしさも吹き飛ぶと思う。

「じゃあ、これね」

 僕は、自分も欲しくなったので、ブラックサンダーを6個ほど鷲掴みにする。その行動を見ていた珊瑚は目をランランとしていた。

 僕は、レジで精算し商品を購入し、商品をもって店外に珊瑚と出る。

「はい。これ」

 僕は、商品の中からブラックサンダーを珊瑚に渡し、自分は一つおにぎりを封を開けた。ちょっと行儀が悪いが二人で食べながら図書館へと向かった。隣では珊瑚が口の周りを茶色にしてブラックサンダーを食べていた。外見は人でも中身は人魚だから食べ方分からないか。こうやって食べるんだよと僕はブラックサンダーを取り出し袋を開け、袋の端を摘まみ汚れないように口へ運ぶ。珊瑚はこちらを見ながらマネをして食べ始めた。

「基本、海産物かぶりつきだから食べ方が分からない」

 珊瑚はさっきのブラックサンダーの手がチョコまみれだったので指を舐めていた。僕はさっき貰ったおしぼりの中身を出す。ある程度舐めた後、手を拭くために、おしぼりを僕の手から珊瑚はひったくり、指を綺麗に拭きとった。流石におにぎりの後にブラックサンダーは妙にきつい。まぁ、しょうがないか・・・他は勉強終わったら食べよう。

 珊瑚と共に図書館に戻ることにした。



僕は再度机に向かう。あと少しで宿題が終わるというところで、マナーモードの携帯が震える。ポケットに入れてあった携帯を取り出す。

「博通のメッセージだ」

 そこにはこう書かれていた。僕は黙読で文字を追っていた・・・前言った件の進んでるか?とりあえずこっちは痛みはないが前の腫れが若干大きくなってきてるんだわ。何でもいいから情報くれ。よろしく。と書かれていた。

「珊瑚なら詳しいかな・・・とりあえず図書館だし伝承した書籍があるかもしれないから調べてみよう」

 勉強に戻り、宿題を終わらせることにした。それから1時間ほど宿題を頑張るとようやく終えることができた。集中して分からなかったが珊瑚は隣で涎を垂らしながら眠っていた。僕は宿題を片付け、本棚とところに本を取りに行く。妖怪やいろいろな昔話の本を探してみる。

「何かいっぱいあるな」

 本を眺めながら歩いてみる。それらしい本は無いなぁと思い本を眺めていた。そこにある本の背表紙を見つける。その名も「物の怪」と達筆で書かれた書籍だった。気になったので中身の著者名、及び発行年月日を見てみる。どこにも書かれていない。

 僕はスマートフォンでの検索をしてみたがヒットしなかった。それに通常の書籍であれば貸し出し用バーコード貼ってあるがそれがない。ちょっと気になったので座席まで持っていくことにした。

「何を持ってきたの?」

 座席には、今さっき起きたであろう珊瑚がこちらを見ていた。僕はその本を持っていくと隣に座る。

「本だよ」

 僕は座ると本を開いた。珊瑚は何、何?といった感じで顔を覗かせてきた。その中身を見た途端、驚いていた。僕はどうしたんだよと言うと珊瑚はこう返してきた。

「これ、どこにあったの?」

「あそこの本棚だよ」

 僕は本のあったところを指さす。珊瑚は指さす方へ向かうと棚を確認していた。何かを見ていたようで確認し終わると、また珊瑚は戻ってきた。珊瑚は口を開きこう言った。

「その本は300年前に人間が作ったいろいろな妖怪の説明と対処方法書いた陰陽師の本だ。しかも、何故ここに?」

「どうしたんだよ?」

 珊瑚が驚いていた。何に驚いてるんだよと思いながら中を見ている。

「この本は昔の妖怪の戦いの記録。だが普通の人間には読めない」

「えっ、見えてるけど・・・」

「それは、君が能力があると云うこと」

「はっ?」

 僕は少しの間、思考が停止。

「ちょ、ちょっと待ってよ。能力なんてあるかけないよ」

 そんなのあるわけない普通の一般的な高校生で成績、運動神経は一般的の僕があの姉さんの後ろで隠れていた僕がそんな能力があるわけないと断言する。そんな漫画やライトノベルで見たような展開が・・・・

「多分、元々幽霊見える素質があったと思うのよ。そこに私の血を飲んじゃったじゃん?」

「まぁ」

「人魚の血は昔から不老不死、疫病退散に効果があると言われているのよ。本来そんな効果は無いけど体力増強や怪我効く。偶に人魚が人間と出会って助けた噂で過大評価して伝わってるのよ。だから今回の回復した身体に偶然、君の元々の能力が開花したのよ」

 僕は、まじまじとその話を聞いてしまう。

「ちょっと待って・・・・何でそれ、あの血飲ませた時に言わなかったのさ」

 珊瑚に質問をぶつけてみる。珊瑚は頭を掻きながら答える。

「つい、焦って・・・死ぬかと思っちゃって。流石に見捨てることできないし」

「まぁ、あの状態で帰ると両親心配するし、助けてもらったことは感謝してるけど」

 僕も流石に助けてもらったから、怒るに怒れないけど。普通の生活が出来なくなるか不安。

「あの時はありがとう。仕方ないよ。助けてもらったんだし」

「そ、そうなのか」

 珊瑚はそれを聞くと褒められた犬のようにこちらを見てきた。嬉しいんだ。

 僕は開いた本をめくる。そこにはいろいろな妖怪のことが記されていた。

 今回の妖怪は半魚人。人種と魚類の中間的な身体を持つ生物。男性はマーマンで女性はマーメイドと呼称。身体に鱗や鰓を持つなどの特徴があるものは水棲人(すいせいじん)とも呼ばれる。

「上半身が人、下半身が魚のものは人魚と呼ぶか。種族は一緒なのか?」

 僕は珊瑚に問いかける。

「基本はな。世界の海で生息しているから、いろんな伝承があるんじゃない」

 珊瑚は適当に本を見つめながら話す。でも僕は思った。今回の件で、見ただけで各部が呪われているを別物ということか。僕は先日切られた足を確認する。そこには切り傷が完治している足が見えるが呪われている痣は見当たらなかった。

「ねえ。魚人に切りつけられてとか見ただけで人面の痣ってできるものなの?」

「雑菌が入って膿むことはあるかもしれないけど、見ただけで人面の痣できるわけないじゃん。人魚も妖怪ではあるかもしれないけど幽霊は怖いもん」

「だよね」

 事情はふりだしに戻ってしまった。僕は肩を落とす。

「呪いに関しては幽霊の仕業。あそこの場所に何かあるかもしれないね。あの橋の所を調べるしかないね」

 珊瑚は口をへの字にしてこう答えた。僕はある程度、本を漁るとスマホで写真を撮ると宿題をかたずけて僕たちは図書館を後にした。




 僕たちが帰るときには夕方になっており、例の橋に着くころには街灯がちらほらつき始めていた。夜見る風景とはまた違っていた。

今日は、もう作業が終了したみたいで橋は中央のみ通行が出来るようになっていた。そして、僕は気付く。橋の入り口に献花がされていることを。あの時は暗くて気が付かなかった。その花はまだ新しかった。誰か亡くなったんだと僕は思うとその場に手を合わせた。その姿を見ていた珊瑚がこちらを見て言った。

「何してるの?手なんか合わせて」

「お悔みだよ。亡くなった人に敬意を。知らない人だけどさ」

「ふーん」

 僕は手を合わせるのを終えるとスマホのニュースサイトで最近起こった事件を調べてみることにした。

 そこにヒットしたのは、つい最近ある女性がこの場所で自殺したことが分かった。そこには自暴自棄になりここから飛び降りて死んだことが書かれていた。本来ならこの高さなら大ケガで終わるところが、打ち所が悪く亡くなったことも書いてあった。

「下に行ってみよう」

 河原に下りてみるとあの暗さの時より明るかったが、川に近づくにつれ暗く静かな空間が広がっていた。前に行った人魚と出会ったところに行ってみる。近づくにつれ草や石が大きくなっていく。前来たときは勢いで来たからあまり気にしなかったけど、草をかき分け足場の悪いところを進んでいく。珊瑚は後ろから付いてくる。

 その時だった。

 僕が進もうとした時、珊瑚が服を引っ張り口を塞いだ。

「待って。・・・・誰かいる」

 珊瑚は小声で囁いて、指で誰かがいる方に指をさす。

 僕は、その指の指す方の草を少しかき分けて覗きこむ。その方向を見て驚いた。この前いた人魚の座っていたところに前に見た魚人が這いつくばって何かを探しているようだった。

 僕は、珊瑚に目線でどうするの?と合図を送った。珊瑚は少し考える仕草を取ると僕はここにいるように合図して、魚人のいるところへ自分で出て行った。

 魚人は物音で珊瑚に気付く。

「女々の知り合いだろ?お前こんなところで何をしている?」

 魚人はハッと声のした方を見て、襲い掛かろうと戦闘態勢をとる。

「私は人魚だ」

 珊瑚は、足を変身させる。魚人はそれでも戦闘態勢を崩すことはなかった。

「何の用だ」

「お前こそ、ここで何をやっていた」

「別に、お・・お前には関係ないだろ」

 魚人は妙にあたふたしている様子。何かおかしいなと見ていると魚人の背後から

人魚が現れる。その人魚は前に襲われかけた赤髪の人魚だった。

「あんた、何してんのさ。さっさと水の中に帰りな」

「あ、あぁ。すまない」

 魚人は赤髪の人魚にそう言われるとさっと水中へ消えていった。珊瑚とその赤髪の人魚は対峙する形となる。お互いにらみ合っていたが動いたのは赤髪の人魚だった。

「前にもいたし、何やってたの?」

 珊瑚は構える。

「あたしはあんたと争うつもりはないよ」

 赤髪の人魚は両手を上げ、降伏の合図を送る。赤髪の人魚はその後もしゃべり続け身の上話になった。

「前も見だろ?あいつはさ。探してるんだよ。ここで自殺した女の形見をさ」

「何でそんなものを?」

「あいつは女がここの上にある橋から飛び降りた時、丁度ここにいたんだよ。その時、まだ息はあったんだよ。あいつは見た目は怖いんだけど優しくてさ。助けようとしたんだけど、女を抱えようとしたら、あいつの姿見たら女が驚いて川に落ちたのさ。で、そのまま溺れて死んだ。あいつはその時落ちた片方のピアスを探してるんだよ」

「探してどうするの?」

「あそこの橋の下に見えるかい」

 赤髪の人魚は指をさす。珊瑚は言われた方角みた。僕も草むらから指さす方に目を凝らすと女の人が見える。そこには確かに女の人がいるのだけれども足が薄くなっているのが見える。

「幽霊?」

 珊瑚はすぐに反応する。

「飛び降りた女の霊さ。地縛霊になったんだよ」

 赤髪の人魚は寂しそうな顔で言ってきた。

「何で、そこまで教えてくれるんだ?」

「あいつを助けたいんだよ。自分の背で人が亡くなってしまったことへ落ち込んでるのさ。だから相談にも乗ってた」

 僕も珊瑚も赤髪の人魚の言葉を聞いてポンっと手をたたく。

「好きなのか?あいつのことを?」

 赤髪の人魚は、珊瑚の言葉に動揺する。耳元まで赤くなり別に好きじゃないわよと

お決まりのツンデレ使用の口調で言い聞かせる。わかりやすすぎるよ。珊瑚はへぇそうなんだという表情で見つめる。

「あなた、名前は?」

「奏。奏だよ」

 赤髪の人魚は自分の名前を奏と呼ぶとそのまま川の中に去って行った。僕はその一部始終見ていたが、珊瑚はその幽霊の所に近づいていく。僕も珊瑚の裏についていくことにした。

奏が指さす方に行ってみると白い靄のかかった女性が一人立っていた。その表情はとても寂しいものだった。僕は怖くて珊瑚の後ろに隠れる。

「ねえ、お姉さん。どうかしたの?」

 珊瑚は鼻を鳴らし腕組みをしながら話しかける。すごく偉そうだ。その声に女性の幽霊は反応した。こちらをじっと見つめていた。僕は身震いをした。

「なあに?」

 幽霊の声はとても低い。僕はさらに怖くなった。

「あなたが最近自殺して地縛霊になったんだって?」

「ちょっと、珊瑚率直に聞きすぎだよ」

「自覚はしているの?」

「だから、やめなって」

 僕は珊瑚にあおるような口調をやめるように嗜める。

「私は、死んだのね。・・・そう、思い出したわ。あの日、彼が別れを言い出して・・・私は放心状態になってこの川へ飛び込んだんだったわ」

 彼女は遠くを見て語りかけた。

「男が憎い。只、私をふった男が憎い」

 その時だった。彼女の顔は悲しい顔から般若のような顔に変わりこちらを睨みつけてきた。その目線は僕の方に向けられる。僕は睨みつけられて硬直する。動けない、どうしよう。

「おい、翔太何してるの~、あれ、あれ?」

 僕の顔を珊瑚がぞき込む。珊瑚は表情が強張っている僕の顔でビビっていること理解したのかからかってくる。珊瑚は、こんな状況なのに何をやってるんだ僕は思った。珊瑚は、笑いながら僕の腰あたりをポンッと叩く。

「目を見ちゃダメだよ、襲ってくれって言ってるもんじゃん。ほら、しゃんとして」

 珊瑚はそう言ってたがこんな状況で怖くないわけがない。怖いのなんて慣れたくない。そんなこと言われても僕は思った。

 その時だった。幽霊の彼女がこちらに飛び掛かってきた。

「男、憎い。男、憎いぃぃぃぃ」

 そう叫ぶとこちらに飛び掛かってきた。彼女の眼は赤く穏やかではなかった。珊瑚は、幽霊が飛び掛かってくる寸前で足で蹴られ横に吹っ飛ぶ。幽霊が地縛霊で大人しかったのに悪霊になってしまった。

「痛っ。珊瑚、何してるんだよ」

「こういうのは荒療治に限る。ここでやっておかないと他の犠牲者が出るよ」

 珊瑚は鼻を鳴らす。何で息巻いてるの。

「だから、何で相手を怒らすんだよ」

「こういう時は、殴り合い発散させて安定させるの」

 珊瑚は相手を見据えながら言う。そんなにうまくいくのかな、それ少年漫画理論。無茶苦茶だ。

 僕は自分に幽霊が向かってこないように願う。

 珊瑚は向かってくる幽霊を格闘しながら払う。

「君は帰ってていいよ。あたしが相手する」

「えっ、いいの?」

「ここで殴り合ってストレス発散させるのよ」

「そんなので本当に大丈夫なの」

「ここで成仏するための何かしらのヒントをもらう。私は殴られても回復能力高いから、大丈夫。それに橋の下だから普通の人には見えないしね」

「あなたにも襲い掛かるから、避けながら逃げるんだよ」

 珊瑚は幽霊相手に殴り合っている。何か、僕の想像している戦闘と違う。僕はそれを横目に相手の幽霊が飛ばしてくる石などを避けながらその場から撤退した。逃げたところから大分離れたところで、息を整える。僕は川辺の道から2人の戦いを眺める。とりあえず、珊瑚の言っていた通り橋の下で戦っていたので一般人が橋の下に近づかない限り見つかることはなさそうだった。僕は珊瑚の言葉を信じて先に戻ることにした。

 そして、帰った時には、昨日今日でいろいろなことがありすぎて疲れのあまりベットに倒れこむ。そして僕は深い眠りについてしまい、朝まで起きることはなかった。


 ※


 僕は朝5時に目を覚ます。頭がまだ起きていなかったが、徐々に昨日の出来事を思い出す。

「珊瑚は」

僕は暗い部屋を見渡す。部屋の明かりをつけようと手を動かそうとした時、横からうなり声がした。

「何だ、寝てたのに」

 珊瑚は目を擦りながら、反応する。僕はごめんごめんと謝った。でもちょっと待てよ、ここ二階だしどっから入ってきたんだ?と僕は思った。気になったので聞いてみる。

「どっから入ってきたの」

「二階の窓だよ。どっこも空いてなかったし」

「どっこも空いてなかったにどうやって入ったのさ」

 珊瑚は何だそんなことかと窓の方に目を向ける。珊瑚は指を上げると目先の窓のカギがカチャンと音をさせて空いた。

「そんな、馬鹿な」

 僕は、驚くあまり口を開けてしまった。

「もう少し寝かせて。話はあとするから」

 と言うと珊瑚はまた眠りについてしまった。僕は流石にいまの光景を見て目が覚めてしまった。僕はスマートフォンをタップする。昨日のことを調べてみたが珊瑚の戦闘のことで騒がれていることはなかったので安心した。僕もそのことで少し不安だったが安心してもう少し寝ることにした。


 日曜日朝六時


 僕は雀の鳴き声と目覚ましの音で目を覚ます。まだ、隣では珊瑚が寝息を立てて眠っていた。人魚も眠るもんなんだなと感心する。

 僕はとりあえず起き、着替えを済ます。部屋を静かに出て、1階に向かう。

昨日と同じような光景を居間ととキッチンで見ることになる。お父さんとお母さんにおはようと僕は挨拶する。

 僕は席に着くとお母さんに用意してもらった朝食を姉さん以外のみんなで食べることにした。姉さんは大体がみんなが食事を済ませた後で食べている。姉さんに

僕がお母さんの準備が大変だよと言ったが軽くあしらわれた。

 僕は朝食を食べると、食器を台所に持っていくと洗い物を済ませた。じぶんの部屋に戻った。

 自室に戻った僕は、まだ寝ていた珊瑚を起こすことにした。

「もう、起きなよ」

「まだ眠いのよ」

 珊瑚はベットの上で布団にくるまり駄々をこねる。

「まぁ、そのままでいいよ」

 僕は諦めるが聞きたいことは聞いておきたい。

「昨日は、どうだったの?」

「んぁ・・・・。話は聞いた」

 珊瑚はそう言うと、ことの状況を説明してくれた。名前は戸塚理恵さん。ことの発端は会社の同僚に付き合っていたのだがそろそろお互い結婚を意識していたそうだ。そこで彼女の方から告白をした。しかし、そこで聞いた答えが別れて欲しいと聞かされた。なぜなのかと問い詰めても彼は答えを返してくれなかった。そして、帰りにあの橋で川の中に移っていた月を眺めていた。泣いて化粧が落ちたので化粧を直そうとした所に道具を落としてしまったそうだ。それを拾おうとしたところ、運悪くバランスを崩して頭から落下。また運悪くその下が石があったため打ち所が悪く、亡くなったというものだった。本人も最初死んだことに気が付かず。周囲に警察や知り合いが来ても自分のことを気が付かないことで自分は死んだのだということを理解したのだという。それからというもの通り過ぎる男性に恨みをぶつけていたそうなと珊瑚は思いのほか得意げに語ってきた。

「で、その呪いは解けるの?」

「恐らくは、成仏すれば、その呪いは解ける。その成仏の条件が厄介だなぁ」

「どういう事?」

 僕が珊瑚に投げかけた質問にこう返してきた。幽霊の彼女は彼が答えてくれなかったそうなのだ。なぜ別れたのかの本心が気になって成仏できないのだ。だから、本人の口から理由を聞けれれば成仏し呪いは解けるとのことだ。未練があるからこそなのだ。

「簡単じゃん。その人あそこに連れて行って話してもらえばいいじゃん。名前は?」

「〇×商事の富田瑛太だったかな」

 珊瑚はうろ覚えで答える。僕はその名前をスマートフォンで検索する。僕は地図で会社の場所を確かめる。ここからは僕がやるよと珊瑚に言うと珊瑚は疲れがあった為すぐに寝息を立ててに寝てしまった。僕は富田さんの会社に自転車で向かうことにした。



 

 僕は自転車で移動すること50分周りには田畑が広がっていた。海に近いことか潮の匂いが香ってきた。スマートフォンで地図を確認しながら目的地を目指す。

「ここだ」

そこには、〇×商事と書かれた看板があった。郊外なのにたたずまいは大きかった。曜日は日曜日だけど、誰かしら出勤している。さっき、電話で確認できたし、僕は警備で適当な理由をでっちあげて富田瑛太のいるか確認した。運のいいことに休日出勤していることがわかった。僕を中に入れることはできないが富田瑛太さんをここに呼んでもらうことにした。呼び出してもらってから5分ご、中央玄関から男性がこちらに向かって歩いてきた。

「どうも、富田です」

 彼は挨拶をすると、名刺を渡してくれた。僕はどうも初めましてと頭を下げると名刺をもらった。髪型はスポーツ刈りでスーツはきちっとしていた好青年だ。こんないい人に嘘をつかないといけないなんて心が痛む。

「ちょっと警備員さんには聞かれたくないのでちょっと離れたところでもいいですか?」

 富田さんはそれを了承する。僕は少し離れたところで話を切り出す。

「戸塚理恵さんをご存じですよね?」

 富田さんは驚いた顔をし、眉間にしわを寄せる。僕は透かさず嘘をつく。

「僕は彼女の甥っ子です。戸塚さんこの間亡くなったのです」

「あぁ、知っている」

「理由聞いたらあなたと別れて思い悩んでたんですよ。だから、亡くなった理恵ねーさんに報告しようと思いまして」

 僕は親戚でもないのにこんなこと言って心が痛む。それを聞いた富田さんは口を開く。

「ごめん。それは言えない。君が仲のいい親戚であっても、それだけはダメだ」

 富田さんは頑なに拒んだ。

「唐突に着て申し訳ないのですが。どうしてなのでしょうか」

「どうしてもです。お帰り下さい」

 富田さんは少し苛立った言い方で僕を追い返そうとしてきた。

「わ、解りました。せめてねーさんが亡くなった橋の手を合わせに行ってあげてください。この場所です」

 僕はメモを渡そうとする。富田さんはメモをひったくるとポケットに突っ込むと社屋へと入って行った。僕はその姿を見送る。富田さんの背中はすごく寂しそうだった。

 失敗だ。僕は人を怒らせてしまった。


 ※


「バカだなぁ。そんなこと言っちゃったらおころに決まってるじゃん」

 僕が富田さんに怒られて帰ってきた時、珊瑚はすっかり起きていた。僕は事の表しを聞いてもらったのだが、ブラックサンダーを食べながらケラケラと笑っていた。

「何だよ、しょうがないだろ」

「意気込んでいったくせに凹んで帰ってくるんだもの、笑うでしょ。後、君は言い方が直球過ぎるよ」

「だって、聞きたいことははっきりした方がいいと思って」

「まぁ、君の行動が吉と出るか吉と出るか凶と出るか楽しみじゃん」


 数日後

 

 僕は学校の昼休憩中、スマートフォンがなる。博通からのメッセージだった。昨日朝起きたら、体に合った変な顔消えたわ(*^▽^*)と書かれていた。僕はえっあ?と変な声を発すると机から箸を落とし、クラスのみんなから注目を集めた。僕はごめんごめんと頭を掻きながら恥ずかしがりつつ、箸を拾う。

 僕はスマートフォンで返事を送る。痛みはなくなったのか、その他もろもろの質問を書いて。

 博通の返事は直ぐ返ってきた。そこには明日から学校に行く事と痛みも無くなって回復したわとそこには書かれていた。


 放課後


 僕は授業が終わるとすぐに家に帰った。部屋にはブラックサンダーを食べながら漫画を読む珊瑚がおかえりと迎えてくれた。僕は珊瑚に今日の昼に連絡がきた博通のメールを見せた。珊瑚は今日の夜、あの場所に行ってみる?と言うと僕は同意した。お母さんには夜塾で自首学習の為に家出るからと言う。お母さんはあっさりいいわよでも気を付けるのよの窘められた。


 その日の夜PM9:00


 僕は珊瑚と一緒に例の橋に行く事にした。現場に行くと橋の上に献花されていた。僕たちは河原に下り例の場所に行ってみる。戸塚さんの幽霊が出たところには、花が置いてあり戸塚さんの幽霊は消えていた。僕はその周辺を探してみると

やはり居なかった。珊瑚はというと川の方に向かって喋っていた。

「誰か、いないの?」

「何だ。うるさいね」

 水面には、前に僕を襲った赤髪の人魚女々が顔を出していた。そのどすのきいた低い声は今聞いても足がすくむ。女々は近くの地面に座り込んだ。

「ここにいた幽霊知らない?」

 珊瑚は女々に質問をした。

「あぁ。そのことか」

 女々がそう言うと昨日のことだと話をしてくれた。それは僕が聞きたかったことだった。

 女々の言いたいことはこうだった。昨日のことだそうだ。夜の遅い時間に例の石の所に一人の男が立っていたそうだ。


 


「本当にごめん」

 富田はその場で泣き崩れた。私は富田と黙って見下ろしていた。彼には私が見えない。

「そんなに思い悩んでいたなんて。言えなかった理由は僕は・・・・癌なんだ。医者には年齢的には若いからいろんなところに癌が転移して手の施しがようがないとまで言われたんだ。会社でも知っているのは自分の上司と一部の仲の良い同僚だけだ」

 私は驚いた。富田からこんな事を言われるとは思わなかった富田は話を続けた。

「持って、後2年もないんだ。僕の命は。・・・僕も君から結婚して欲しいと言われた時はうれしかった。でも、結婚しても僕たちが過ごせる時間は持って2年だ。結婚してもそんなに長くは一緒には居られないと思うんだ。僕は君を不幸にしてしまうと思うんだ」

 富田は鼻を啜る。

「だから、僕は言い出せなかった、怖かったんだ。君のあの楽しそうにしているところを見てしまうと。君には僕の人生に時間を費やすより他の人と幸せになって欲しかった。本当に楽しかったんだ。だから、ごめん」

 富田は、その場で土下座をするようにかがむ。私は、死んでいるから見えない。目の前で文句の一つも言おうと思っていたが、何も言えなくなってしまった。そんな理由があったなんて。

「こんなの別れた理由にならないかもしれないけど、一生僕を恨んでくれ。僕も来れるうちはお供えに来るよ。後、僕が亡くなったら天国か地獄で君に怒られるから」

 私には怒れない。ただ単に落ちて打ち所が悪く死んでしまったのだから。死ぬつもりはこれっぽっちも無かった。私は、富田には見えないが両手を広げて抱きしめた。

「ばか・・・・私の分まで頑張って生きて・・・あの世に来たら、一杯怒ってあげるよ」

 私は、富田と一緒に泣いていた。もう、現世に思い残すことは無いわ。理由は分かったのだから。私は。


 


 と川の中から聞き耳していた事があったことを女々は教えてくれた。女々は、僕たちに睨みを利かす。

「後これ、あんた達であの女の墓前にでも」

 女々は僕にめがけてあるものを投げてきた。僕はそれを受け取ると手の中を確認する。片方だけのイヤリングだ。

「イヤリング?」

 珊瑚は不思議そうにイヤリングを眺めた呟いた。

「あ、あいつが一生懸命あの女の為に探してたやつだよ。ようやく見つかったからさ。でもあいつ恥ずかしがりやだからあたしが置いておこうと思って」

 僕は思い出した。あの魚人さんが言ってたイヤリングだ。

「見つけないとあいつがかまって・・・・く・・」

 女々はそう言いよどむと月明りで急に顔が赤くなったように見えた。その姿を見た、珊瑚が何かに気付きかまをかける。

「何か、顔が赤く見えるんだけど・・」

「見んな、馬鹿。わ、渡したからな」

 そう言い残すと女々は川に飛び込んだ。その後、ヒョコっと顔だけ出す。

「後、ここにはもう近づくんじゃ無いよ」

 と言い残すと静かに女々は川に戻って行った。

 僕たちは前まで戸塚の地縛霊がいた所に行く。僕はさっき受け取った片方のイヤリングを置くと手を合わせた。珊瑚はその後ろで頭で手を組み、こう言った。

「君が富田とかいうやつに変な吹っ掛け方したから、成仏したんだよ。なるように

になって良かったじゃん」

 珊瑚はさらに続ける。

「後先考えないやり方は危なっかしいけど、私は嫌いじゃないよ。まぁ、今回みたいにうまくいくとは限らないけどね。君の言った通りこの呪いを含む事件は完了」

「もっと、危険かなって思ったけど」

「バカ、こんなの序の口だよ。下手したら大けがか死んでる。人の呪いってあまり現実で死なないって思ってるだろうけど、君がその状況に合ってないだけで確率は低いけどあるのよ。私たち妖怪に合うこと現に君だってあるじゃん」

「まあ、確かに」

「だから、用心してむやみやたらに突っ込まない。私に相談すること。私の情報網は伊達じゃないんだからね」

 珊瑚は腕を組んで威張っていた。

「まぁ。そうするよ。報連相は大事だもんね」

「ほうれん草、何?野菜が大事なの?」

 僕はまぁそんなことと言うとその場を後にして、自宅に帰ることにした。


    後日談


 翌日、僕は学校へ行くと博通は部活の朝練で学校へ来てトレーニングをしていた。僕は博通に挨拶挨拶をすると昼にこの事件の報告を女性の幽霊のことを言わずに何かの呪いだったとオブラートに包みながら適当に報告をした。僕も博通は何か納得いかない表情だったが、呪いも解けたからまぁいいかと昼の弁当を食べに向かった。とりあえずこの変な事件は終わった。今回調べるだけと言ったが解決する形になってしまった。

 珊瑚はと言うと僕の家に住み込むことになった。家族はと言うと珊瑚曰く全員に催眠をかけ、僕の家族の一員になっていた。僕と姉さんの妹の設定でやったそうだ。何か複雑だ。父さん母さんからは可愛がられている。珊瑚は人間の生活も楽しそうだから、もう少し世話になると言っていた。

 まだこれからもちょっとおかしな事が起きるかもしれない。僕はやっていけるかわからなけど、どうしようかな。

 僕は、窓際から見える桜の木の緑葉を眺めながら、昼休憩をするのだった。

 




 













 



 





 













 

 

 

 

 


















 


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