第2章:魔物との遭遇
第12話エデンにて
さらに半月ほどしてようやく人界と亜人界の境界に到着した。この半月でジンがわかったのはウィルとマリアが飛び抜けて強いということだった。ウィルは大剣での戦いを得意とし、マリアは細剣での戦いを得意としていた。二人は道中で現れた数多くの魔獣を、術を使うことなく圧倒していったのだ。しかもジンや馬をかばいながらである。
「二人はラグナの使徒になる前は一体何をやってたの?軍人?冒険者?」
「俺たちは冒険者だ。しかもAランクのな。ま、お前が生まれる前に引退しちまったがな。昔は有名だったんだぜ。俺もマリアも。マリアなんか3属性保持者な上に、こんな見てくれだから『紅蓮の美姫』なんて呼ばれてよ。いまじゃ乳は垂れかけ、ケツはでかくなりのおばさんだがよ」
「そういうあんたこそ『ミドリゴリラ』って呼ばれてたじゃないかい。ゴリラみたいなツラに、ゴリラみたいな体躯でさ」
「言われてねえよ!俺は『闘鬼』だよ!」
「うわっ、自分で通り名を名乗るとか恥ずかしくないのかい?」
「てめえがジンの前で嘘つくからだろ!このババアが!!」
「あんたが私を垂れただのなんだのいうからだろ!このミドリムシが!!」
二人の喧嘩がヒートアップしそうになったため、ジンは慌てて止めに入った。
そんなこんなでようやく到着した境界にはジンがなんとなくイメージしていた壁のようなものは一切何もなかった。ただ平原が先まで延々と続いていくだけであった。
「ウィル、結界なんてどこにあるの?」
「ジン、手ぇ前に出してまっすぐ進んでみな」
ウィルがニヤニヤしながら言ってきたので、それに従ってジンは前に進んだ。するとその手が壁のように固いものにぶつかった。
「うわ、なにこれ。なんか気持ち悪い」
「ははは、これが大結界だ。なんでも光を操って、結界が見えないようにしているらしいぜ。そんでフィリアの配下には反応して迎撃するようになってるらしいんだが、オルフェの力が弱体化してるせいで、所々に綻びがあるわ、反撃のための出力は出ないわで、ここ100年ぐらいガンガン攻められててな。マリアにも聞いただろうけど、今は防戦一方なんだよ」
「ふーん。じゃあどうやってこの結界を越えるの?」
「ちょいっと待ってろ。マリア頼む」
「はいはい、ジン少し離れてな」
そうしてマリアが馬車から降りて、結界の元まで歩いて行き、何事かに集中し始めた。すぐに彼女の体から淡い光が広がり包み込む。それから彼女は結界に手を触れ文言を唱える。
『我らが父オルフェよ。ラグナとの約定によりこの結界を開きたまえ』
するとジンたちの目の前に馬がギリギリ通れる程度の穴が広がった。
「すげぇ!」
ジンが素直に感想を漏らす。
「何言ってんだい。あんたも使徒になったらこれぐらい出来るようになるよ。というより一人でこれできなかったら、エデンから一人で出られないだろ」
クスクス笑いながらマリアが言う。
「そんじゃ行きますか。ほらマリアも乗りな」
ついに一ヶ月ほどの旅程を終えてついに彼らは亜人界に踏み入れた。
一歩踏み込んだそこは鬱蒼とした森の中だった。
「え?なんで?」
「驚いたか?すげーよなー神様。まるで別の場所に移動したみたいだよな」
目を丸くして後ろ以外の3方向を確認し、自分が本当に森の中にいることをジンは理解した。
「どうしていきなり森の中にいるの?」
「いきなりじゃないのさ。本当はずっと目の前に森があったんだ。でもオルフェ様が結界を張って、人界からこちらが見えないようにしたのさ。それに境界付近まで来る奴らはフィリアの手の者である可能性も高くなるから、すぐに警戒することができるんだよ。もちろん軍なんかで来られたら大変なんだけど。そのために外に連絡員がいて人間の動きを監視しているんだよ」
「はぁ、つまりオルフェがすごいっていうこと?」
「はは、違ぇねえ。んじゃ早速出発するか。馬から降りて歩いて行くぞ」
そうして3人は馬から降りて、引きつれながら、歩き出した。森の中は馬が走れなそうな大きな岩や木の根がゴロゴロした道だったからだ。
「こっからウィルたちの家までどのくらいの距離なの?」
「んー、そうだねぇ。だいたいこっから1週間くらいかしらね」
「ずっと森の中歩くの?」
「いやこの森は2、3日で抜ける。そんで森を出た所のすぐ近くに城塞都市があるから、そこで休みがてらに2泊ぐらいしてから行くんで、実際には4日ぐらいだな」
ウィルの言葉を聞いてジンは興味が出てきた。
「都市!?どんな都市なの?」
ジンのイメージでは魔界は荒寥としており、文明といったものが発展してるとは思っていなかったのだ。
「どんなか。そうだな。規模はそんなにでかくないけど頑丈な城壁と屈強な獣人が住んでいるな。蜥蜴人、猫人、犬人などなど、バラエティに富んでいる。何人か使徒も在住してるぜ。あとはうまい飯屋といい鍛冶屋があるってとこかな。住んでいる奴らはみんな気のいいやつらだよ。まあ亜人の中には完全に動物顏のやつもいるから、ビビるかもしれないけどそれを顔には出すなよ?失礼だからな。」
それを聞いてジンはだんだん楽しみになってきた。しかしそれも次の言葉で消え去った。
「あと亜人の中には人間を殺したいぐらい恨んでいる奴もいるから、俺らからあまり離れるなよ。」
しばらく行くとウィルが急に立ち止まった。
「どうしたの?」
「静かに。マリア準備しろ。」
「ああ。」
そう言ってすぐに二人は武器を構える。マリアは腰に下げたレイピアを抜き、背に掛けた荷物を下に下ろし、ウィルも大剣を構える。
彼らが構えるとすぐに、両脇から黒い影が数体襲い掛かってきた。
「わっ!」
ジンが驚いて身をかがめる。ガガッと何かがぶつかる音と唸り声が聞こえる。恐る恐る顔を上げるとそこには体長3メートルほどの巨大な狼のような化け物が4匹いた。黒い目の中に真っ赤な瞳が怪しく輝き、こちらを眺めている。どうやらそのうちの一匹がウィルに襲いかかり、剣で弾き返されたようで、地に這いつくばっている。
「マリア。フォレストファングだ。ジンをよろしく!ジン、神術を見せてやるよ!」
ウィルは彼らの左側にいた2匹に躍りかかる。
「うぉら!」
ウィルの剣に電気が迸り、一気に加速して1匹の顎を切りとばす。
ザっという音ともに獣の顎の下が吹き飛び、声を上げることなく絶命した。そちらに気を取られていたジンに右側から化け物が襲いかかってくる。しかしその突進は炎の壁により阻まれた。マリアによって起こされたそれは、そのまま狼を包み込み、断末魔とともにものの数秒で消し炭を残して燃やし尽くした。それを見たジンはすぐにウィルの方を向くが、すでに最後の一匹が胴を吹き飛ばされて絶命していた。
ウィルとマリアは何事もなかったように武器を仕舞っていた。
「今のが神術なの?」
初めて彼らが術を使うのを見たジンが気になって尋ねる。
「俺のはな。雷を身にまとう術だ。」
「私のは法術さね。まあ普通に炎で壁作っただけだよ。」
今までの旅では、フィリアにばれないために強い術を行使することができなかったのだ。そのためジンにとってこれが初めてみた彼らの攻撃術であった。
「え?でも法術って使えなくなるんじゃないの?」
「法術は使えるよ。ただ混じりっけのない法術でなくなるだけでね。だから簡単に言うと私らは法術に加えて、神術にある他の5属性、木、雷、氷、金、そんで無属性、まあほとんど亜人やラグナの使徒は無属性のセンスがなくて扱えないんだけどね、の内の何属性かを扱えるんだよ。そんで魔術はこれらを掛け合わせて発動させるんだけど、まあこのあたりの説明は家に帰ったら詳しくしてあげるよ。こいつのおかげで私たちはフィリアの使徒たちと互角に戦えるのさ。」
そうしてしばらく辺りを警戒し、ついでに少し休憩を取った後、再び出発した。そこから都市までは魔獣に会うことはなかった。
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