宇宙船で殺人事件起きても、俺は推理しない。

ちびまるフォイ

潔癖に憧れるための罪

「どうするよ……」

「どうするたって……」

「ここには私達しかいないじゃない」

「エイリアンじゃないのか?」

「そんわけあるかよ、明らかに人為的だろ」

「通信は?」

「宇宙デブリのせいで使えない」


船員たちはお互いを確かめた。


「それじゃ、この中に殺人者がいるの!?」


宇宙船での殺人事件は唐突に起きてしまった。

絶海の孤島でもなく、密室の旅館でもなく。


よりにもよって宇宙船の中で。


「みんな落ち着け。こういうときこそ冷静になるんだ。

 宇宙船という閉鎖空間で一番危険なのはなにか知っているだろう」


「そ、そうだった。信頼だ。

 宇宙船の中では共同作業が基本。不信感はよくない」


「でも、この中に殺人者がいるのは明らかでしょ!?」


「そうだよ……この中には宇宙飛行士しかいないんだよ」


船員はこの大問題を解決しないことには、

いつもの冷静な思考ができそうもなさそうだと船長は把握した。


「よし、わかった。宇宙飛行士になるために探偵の勉強はしてないが

 推理小説は好きだからなんとか分かるかもしれない」


「船長……!」

「あんた、やっぱり頼りになるぜ!」


船長は船員のひとりが殺された現場を調べた。


「どう? 船長? なにかわかった?」


「あぁ、犯人がわかったよ。

 宇宙船で殺人をするとなれば道具は限られたものしか使えない。

 持ち込みができないから、トリックも単純なものだった」


「それで、誰が犯人なんだ!?」


「それは……」


船員はごくりと生唾を飲み込んだ。

その音は宇宙にも漏れ聞こえるような気さえした。




「……犯人は、言えない」



「はぁ!?」


船長の歯切れの悪い言葉に船員は驚いた。


「どうして!? 犯人はわかっているんでしょ!?

 なのにどうして教えられないのよ!?」


「それは! 我々が宇宙飛行士だからだよ!」


「それとなんの関係があるんだよ!」


「もし、ここで犯人を名指しすればどうなる。

 その人はすぐに捕まってしまうだろう。

 しかし、宇宙船が地球につくまでに船外作業もある」


「あっ……」


察しのいい船員は気がついた。


「ここでは全員が専門家なんだ。

 誰かが欠ければ宇宙船で航行するのも危うくなるんだ」


「殺人者と同じ場所で生活するほうが危険よ!!

 寝ている間に口封じされるかもしれないでしょ!」


「だからこそ、犯人を名指ししないんだよ。

 気分は悪いがお互いを警戒していればそう手は出せないだろう」


「せ、船長……」


船長の考えることはまっとうだった。

すでに船員を1人失い、限られた人員が不足しているのに

犯人を吊し上げてしまうことは更に1人人手を失うことになる。


それはクルーにとって、宇宙船破損よりも危険なことだった。


「……そういうわけだ。

 みんな、気分は悪いだろうがここはあえて黙っておく。

 地球についたら犯人を教えるから、そいつには然るべき裁判を……」


「……できない」

「え?」


「納得出来ないわよ! やっぱりこんなのおかしいわ!」


「話しただろう。これ以上の人手を失うことは危険だと」


「そんなこといって、本当はあんたが犯人なんじゃないの!?」


船員はその言葉にぎょっとした。


「だっておかしいじゃない! 犯人がわからないのに教えないって!

 それは自分が犯人だから隠しているんじゃないの!?」


「そんなわけないだろう!

 それに、私が犯人だとしたら、犯人がわかるなんて教えない!

 推理できなかったとごまかすほうが良いだろう!?」


「犯人がわかったって言って、みんなに信頼してもらう作戦なんでしょ!?」

「ちがう!!」


「誰が犯人かわかってるのに教えない」というモヤモヤもあり、

船員たちはじっと船長の方へ視線を注いだ。


「本当なのか、船長?」

「船長が犯人なんじゃないか?」


「ちがう! みんなどうしたんだ!

 そんなに私が信用出来ないのか!?

 だったら、私が推理をすべて話そう!!」


船長は現場を見て気づいた推理とそれを行うことができる実行犯を教えた。


「これいいだろう!? 私は犯人ではない!」


「……本当かなぁ?」

「なんだって?」


「それだって、本当は自分が犯人だと気づかれないために

 とっさにでっちあげたものなんじゃないか?」


「そうだ! それに自分が疑われた瞬間に話すなんて

 それこそ犯人らしいじゃないか!!」


「みんな待ってくれ! 推理は正しいだろう!?

 みんな、どうして私が犯人だと信じて疑わないんだ!」


「怪しいからだろ!!」


船員たちは船長をぐるぐる巻きにして動けなくした。

もう話すことも抵抗することもできない。


「こいつどうする?」

「こんなのと一緒に宇宙船にいるわけにいかないだろ」

「捨てるしか、ないよね」


全員が納得して船長を宇宙の外へと放り込んだ。

宇宙船は安堵の空気に包まれた。


「ああ、よかった。これでもう殺人者はいないわね」

「本当に怖かった。でももう大丈夫」


「おい! 通信がつながったぞ!」


「よかった。これでもう安心ね」


宇宙デブリで途絶えていた地球との通信が復旧した。

船員たちはやっと閉鎖空間から解放されたような気分になる。


地球から最初の通信が入った。



「船長をみんなで殺してしまうなんて……。

 あんたら全員殺人者だ。地球についたら全員裁いてやるからな!」

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