波紋

春嵐

波紋

 水の中にいた。

 呼吸できる。動くこともできる。上下は、わからない。

「夢」

 すぐにわかった。

 夢が夢だと分からない夢も、ときどきある。これは、夢だとわかる夢。

「何か、水に関連するもの、見たっけ」

 夢は、最近見たり思ったりしたものが元になる。水の中にいるのなら、水に関連するものが、なにか、あるはず。

「思い出せないな」

 スカート。水に揺れる。

 日の光。

 色。

 青い。

 心地よかった。

 目の前。

 誰かいる。

 手。

 差し出される。

「なんだろう」

 手しか見えないのはどうかんがえてもおかしいんだけど、夢の補正であんまり変に感じない。

 手が、こちらを待っているように見える。

 握った。

「うわっ」

 水の流れ。

 渦巻いて、上下が反転していく。

「これ寝返り打ってるじゃん」

 夢から覚めるだろうか。

 現実の記憶は、なかった。記憶が残ったままの夢と、そうじゃない夢がある。今回は、現実の記憶がないから、起きてどうなるか分からない。

 目の前。

 手。

 腕。

 胸。

 全身。

 綺麗な女性が、いた。こちらの手を握っている。

「え?」

 何か、言っている。

 聴こえない。

 聴こえないけど、なにか、ひっしに、訴えかけている。

 どうしても伝えたいことがあるらしくて、なにか、がんばっている。

「ごめんなさい、なにを言ってるのか」

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