第42話 セリアンの事情とか

 セリアンによると、彼はずっとシャーロットの祝福が聖女めいたものではないことを暴こうと活動していたらしい。

 ただ暴くだけでは、利用しようという者が出てきてしまう。

 なので秘密裡に教会上層部に証拠を示し、危険な祝福なので隔離させようとしていたのだ。


 一方で彼女の祝福を利用したい人間もいる。そういう人物を避ける必要がある。

 そもそもシャーロットの祝福が人に害を与えることを証明をするには、祝福の影響を受けた人間に、余計な記憶が増えていると気づかせなくてはならない。


「直接僕が話しても、反発されることは予想できた。なにせシャーロット・オーリックは彼らにとって、辛い記憶を緩和してくれた良い人なんだから」


 良い人と思っている相手を批判されると、それが真実でも人は頑なになるものだ。

 そこでセリアンはシャーロットと面会した人物の、家族に接触した。急に悩みができた様子がないか。もしくは悩みが解消されたと言っていないかを確認してもらった。

 もちろん本人には、自分が訪れたことを言わないように念を押したうえで。


 セリアンがそうして接触したのは、ディオアール侯爵家に友好的な家の人々だ。だからこそ、引っかかることがあった家族は、セリアンに相談した。

 相談されたらもうこっちのものだ。

 セリアンは、家族が覚えているものと本人の記憶に違いはないかを確かめてもらい、もし家族の側に記憶にないこと、ありえないことで本人が悩んでいるのなら、それを解消してあげると悩みはなくなると教えた。


 本人が、あるはずのない記憶に気づいたら。そこで家族にどうして自分の記憶がおかしいことに気づいたんだと聞くだろう。「どうしておかしいと思ったんだ?」と。

 もしくは、家族の方から言うかもしれない。


「実はディオアール家のセリアン様が、心配していたので気になったんだ」なんて感じで。


 そうしたら本人はセリアンに相談しに来る。

 原因は本人にもわかっているので、相談しに来る時点で、セリアンの仲間になるだろうことは確実だった。

 そんな感じで、セリアンは仲間を増やしていったらしい。


 ある程度の人数になったので、枢機卿に相談しつつ、次の会議でシャーロットの聖女列聖の取り消しや、彼女を幽閉するとのこと。


「多少決め手には欠けるものの、猊下は理解してくれている。あとは幽閉先だが」

「それなら、修道院がいいのでは」

「修道院は僕も考えていた。さらに間違いなく男性との接触を絶てればいいんだが」


 セリアンもシャーロットの祝福が、女性に効かないことは知っていたようだ。


「彼女が祝福を持っていて、女性には効かないってどうやって知ったの?」

「……ほとんど推測だけれどね。あと、彼女の周辺を調べて確信を持った。シャーロット・オーリックがどうして礼儀作法のなっていない状態のまま放置されているかも、それでわかったんだ。

 彼女の父は領地で病床についていて動けない。その夫人はシャーロットにとって継母らしい。その継母が采配を握っているようだが、継母の方はシャーロットの評判が落ちればいいと思って、教師もつけず何も教えないまま、野放しにしているようだね」

「野放しって。それじゃ伯爵家の評判も落ちるんじゃないかしら?」


 でもセリアンは「そうでもないらしい」と肩をすくめた。


「継母は自分の実娘を連れ歩いてパーティーに出席したりもしているそうだが、シャーロットに困らされていると触れ回っているんだ」

「自分たちはシャーロットの被害者だって言っているの?」


 私の言葉に、セリアンがうなずく。


「それでオーリック伯爵家では彼女の扱いに困っている、という建前らしい。前伯爵夫人の関係で、家に押し込めておくわけにもいかないのだ、とね。隣国の親戚に預けたいと話してもいるようだよ。実際そうして伯爵家から追い出すつもりで、彼女は婚約者もいないままなのだと思う」


 そういえば、シャーロットも婚約者がいてもおかしくない年齢だ。私は婚約者を探して男性と積極的に仲良くしているのかと思っていた。

 だけどそういう事情があるのなら、誰と親しくなっても継母が婚約を認めてはくれないからと、自暴自棄になっているのかしら?


「ちょっと気の毒……?」

「しかし自業自得でもある。他の人の立ち居振る舞いを見て、おかしいとは思うはずだ。そうしたら、誰かに尋ねることぐらいはできるだろう? なんにせよ、シャーロットが祝福の力を女性にも使えるのなら、まっさきに継母を自分の支配下に置いただろうからね。それはできないんだろうと確信したんだ」


 なるほど。

 なんにせよ、あれこれ調べていたら、そもそも私に会う時間など無かっただろう。シャーロットに心酔しているフリもしなくてはならなかっただろうし。それがわかっただけでも、少しほっとした。


 そしてここまで聞いたことで、セリアンに感じていたわだかまりはなくなる。

 やっぱり話しておいてほしかったと思うけど、私がすぐ顔に出るのは間違いないものね。セリアンとしても、あまり私に冷たいそぶりなんてしたくないと思ってくれていたんだろうと思う。だから極力私に会わないようにしていたんじゃないかな。


「これで理由はわかってもらえたかい?」


 なのでセリアンに尋ねられた私は、しっかりとうなずいた。


「セリアンが私を嫌って避けているとか、そういうわけじゃなかったのはわかったわ。それにしても、セリアンは一度シャーロット嬢に祝福のせいでトラウマを植え付けられたわけでしょう? どういうものだったの?」


 たぶんその直後に会ったから、私に冷たい目を向けたんだと思う。友達相手にそんな目を向けてしまうような記憶って一体なんなのか、興味があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る