第39話 問題の解決法を考えます

 私はセリアンの変化が、シャーロットの祝福のせいだと知った。

 でもその影響から脱したようなのに、セリアンがいまだトラウマのせいで彼女の側にいるフリをしているということは、祝福のせいだとわかってしまったら、シャーロットに敵視されるからだろう。


 シャーロットのことを信じている人は、教会の上層部に沢山いる。

 その人達がシャーロットの言うことを聞いて頑なになり、セリアンが説得する言葉も聞かなくなったら、彼も聖職者に戻る一件をどうにも動かせなくなる。


 もちろんシャーロットの祝福が、悩みを見通すのではなく、トラウマを植え付けるものだと言ってもなかなか信じてはくれない。誤りを正そうとしても、セリアンが聖職者に戻されてしまったうえ、シャーロットが聖女として公表された後になってしまう。

 そうなっては元も子もない。

 シャーロットは聖女のまま、誰かに嫌な記憶を植え付け続けることになるだろう。


「むしろ、教会がそれを知って利用する可能性だってあるわよね?」


 教会の信者を増やすために、あえてその能力を利用するかもしれない。

 祝福の効果だと知られない限りは、その方法で国と国を争わせることだって……。


「セリアンのことだけじゃなく、止めないと」

「ですねぇ。平和じゃないと、私も人の秘密を収集してのんびり楽しむどころではありませんし」


 ヤン司祭が、足を組んでうーんと伸びをする。馬車の中だから、ちょっと窮屈そうだ。


「かといって祝福の力を解くというのは、なかなか難しい。誰かが呪いをかけた結果というわけでもないですし」

「……わかります」


 ごく自然に付け加わる記憶。それをもとに戻す方法はないだろう。自覚できても、その記憶は夢の記憶が頭に残り続けるように消えるわけではない。整理されるだけで。

 私やヤン司祭の祝福なんかも、相手が防御する術はない。

 私自身も勝手に聞こえてしまうので、避けることもできないのだけど。


「ですから、シャーロット本人が祝福で人の記憶を操っていることを白状し、危険人物としてどこかに幽閉されるか、祝福を使っても願いがかなわない、と彼女が思い知らなければ止まらないでしょう」

「幽閉って」


 そこまで悲惨な状況は想定していなかったので、ちょっとうろたえてしまう。


「何を言っているんですか。祝福を消す方法は存在しないんですよ? 安心してあなたが暮らすためには、幽閉しかないでしょう」

「そうですけれど……」


 私はうなずくしかない。でも幽閉って大ごとな気がすると言うか……。でも今までにも沢山の人に余計なトラウマを植え付けていたのだから、そうなっても仕方ないのかしら。


「それに、彼女の祝福には欠点がありますからね」

「そうですね。考えてみればおかしいなと思っていたんです。どうして男性ばかり、と」


 シャーロットが心惑わせるのは男性ばかりなのだ。その理由がようやくわかった。


「ただ彼女は、自分の祝福を誤解しているみたいで」


 私は首をかしげた。

 祝福を誤解ってどうやったらできるんだろう。


「だって本人が言っていたんですよ? 『私は主人公だから、攻略できる男性の悩みをお見通しにできるけれど、女は操れないから困るわ。でも、いじめられて私が可哀そうって思ってもらうシチュエーションのためには、仕方ないのかしら』と」


 ……理解不能だった。

 女性には祝福が使えない、と思っているらしいことははっきりとわかるけれど。自分が主人公ってどういうことだろう。

 人生の主人公はあなたです! というセリフはどこかの芝居で観たことがあるけれど。


 でもこれでわかったわ。

 手っ取り早く私にトラウマを植え付けて、家から出ないとか、セリアンと結婚しないようにしてしまえばいいのに、しなかった理由が。単に女性に祝福が使えないのね?


「とにかくシャーロットに、なるべく多くの人の前で、祝福の内容を自白してもらわなくてはならないんですよね」

『まぁ、その方法は思いつきますが。それに関して、あなたも自分の祝福について思い違いをしているようですし、そこを正しておきたいのですが』

「思い違い?」


 この、他人の愛のポエムばかり聞こえてくるトンデモな祝福を?


「あと、私がどうにかしてさしあげますから、一度セリアン殿とお話し合いをした方がいいと思いますがね」


 この司祭がおぜん立てまでしてくれるというのは、ちょっと不気味だ。いつもは私に、祝福について口外しない代わりに、秘密をよこせと言うくらい人でなしなのに。

 だからものすごく不審そうな顔になっていたみたい。ヤン司祭が苦笑いした。


「私もちょっと、セリアン殿には秘密を握られてしまいましてね」

「は?」

「こき使われる前に、あなたとセリアン殿で話し合ってもらった方が、いろいろ早く片付いて、私も利用されることはなくなると思うんです」

「こき使う?」


 セリアンが、ヤン司祭を?

 わけがわからない私の様子を無視して、ヤン司祭は言った。


「なのでセリアン殿の鼻を明かすついでに、お二人で情報のすりあわせなどなさると、問題が早く片付くでしょう」

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