はちゃめちゃ便利屋〜事件も恋も解決します〜

宮原春詠

第1話久々の依頼①

冬の朝、太陽がこれでもかと光っているのにこの事務所の空気は寒くなっていくばかりだ。僕は黒木拓真。21歳。この事務所で便利屋を営んでる。やりたい仕事もなく、自暴自棄のような生活を送っていた僕に祖父が経営していた便利屋にアルバイトとして雇われその後祖父が亡くなった後、僕が経営を引き継ぐ形でやっているが祖父が亡くなってからは客が増えるどころか減っていき、今では便利屋の事務所なのかただの部屋なのかよく分からなくなっている。両親には便利屋なんか辞め、ちゃんとした仕事に就けと言われているが祖父との思い出が名残惜しく辞められずにいる。


「なぁ、菓子無いの?」

客が来ない便利屋を営んでる物好きはここにもいる。彼の名前は赤石仁。茶髪で口が悪い、いわゆるヤンキーという部類に入るのではないかと思う。そんな彼とは幼馴染だ。僕と同じような環境で育っていったはずなのにどうして僕とこんなにも違いが生まれたのか、僕には解けない最大のミステリーだ。

「あるわけない。もしお菓子があったとしてもお客様用だよ。」

「客なんか来やしねぇのに。」

分かってるじゃないか。だからお菓子がないんだ。

「お菓子でも買ったら客が来るかな?」

半分冗談半分本気のつもりで言ってみる。

「そんなんでバンバン客が来たら廃業寸前の営業職は苦労しねぇよな。」

全くその通りだ。

「まぁ、買って客が来なくても菓子は無駄にしねぇよ。俺が食べるからな。」

彼なら一年分のお菓子を買ったとしても余裕ですぐ食べきってしまうだろうな。それにしても全く客が来ない。せっかく最近新しい試みを始めたというのに。先日、仁にネットでサイトを作りこの便利屋を宣伝してみるのはどうかと尋ねてみた。

「良いんじゃねぇの?最近はなんでもネットだしな。」

「だよね?それで客も来てくれるかなと思ってるんだけど…。」

僕なりに客を増やそうと考えた案だ。だけど一つ問題が。

「そのアイデア自体はいいと思うけどよぉ、拓真、お前機械音痴だろ?」

そうなのだ。いい案は浮かんだのにそれを実行することが出来ない。


以前母親に

「拓真、私が仕事帰って来る前にパソコンのデータ復旧させといて。説明書見れば平気だと思う。分かんなかったら置いといて。」

「うん。分かった。」

復旧させるのなんかは簡単だと思い、ろくに説明書なども見ず、自分の直感で操作し続けていたらいつの間にか初期化していた。復旧させるどころか全部削除していたのだ。遅いと自分でも思ったが一からちゃんと説明書を見て、データを何とか元に戻そうとしたが無理だった。母親にはこれでもかというくらい怒られた。それ以来、機械には全く触っていないし触りたくもない。機械音痴である僕はいろんな技術が発展し続けているこの現代は少し生きにくい。

「だから、仁にやってもらいたいなと思って。」

「んなことだろうと思ったぜ。早くパソコン貸せ。やってやる。」

仁は機械にとても強い。何か機械のことで困ったら仁の元に相談しにいくことも多々あり、お世話になっている。仁も

「面倒くせぇな。」

なんて言いながらもやってくれる。最初の方は僕にも出来るようになってもらうためか、

「ここはこうやってやったらこうなるんだよ。」などと一から説明をしながら教えてくれていたが、一向に理解できない、理解しようともしない僕に嫌気がさしたのか段々説明をしなくなってしまい、僕はただ見ているだけになってしまった。最近では僕に見せることすらもしなくなり、、仁に頼むといつのまにか完成していてまるで機械が魔法にかかったかのような状態になっている。便利屋のサイトを作るのも一時間も経たないうちに

「こんなんでいいんじゃねぇか?」

と画面を見せてきた。可愛げもなければ遊び心もない本当にシンプルなサイトではあったが機械音痴の僕が文句を言えるわけもない。

「良いと思う。ありがとう。」

「あいよ。」



こうして仁のおかげで数週間前からチラシなどの宣伝だけでなくネットでの宣伝、依頼募集を行なっているのだが全くもって効果無し。

「どうすれば客が来るのかな。」

「流れに身を任せりゃ、来るんじゃねぇの?てか客よりもこの部屋どうにかしねぇと進まねぇんじゃ?」

狭くはないが決して広いとも言えない事務所はいつのまにかほぼ物置と同じような状況になってしまっている。仁の言う通り、まずは客がどうのこうの言う前に少しでも綺麗に片付けないと。片付けをしようと物に手を伸ばす。

コンコンッとドアの叩く音がした気がする。

「誰か来たぜ。客じゃね?」

空耳じゃなかったようだ。

「ちょっと見てくる!」

「迷惑な客じゃなきゃ良いけどな」

確かに最近来た客は相談や悩み事なんかじゃなく、酔っ払いや終電がなくて帰れないなどと言い、事務所に泊まったりなどただただ迷惑な人ばかりだった。今回ばかりはまともな客であってほしい。

「はい、こちら便利屋です。」

妙なドキドキを抑え、ドアを開ける。ぱっと見、迷惑そうな客ではなさそうだ。

「すみません。依頼をしたいんですが。」

良かった。依頼だ!

「どうぞ、中に。」

依頼人を部屋に案内する。

「すみません。お茶しか出せなくて。」

やっぱりお菓子も買ってくるべきだった。

「やっぱ、菓子が必要なんだって」

「いえ、大丈夫です。お茶ありがとう。」

今回依頼してきたのは阿部亜黄子さん 50歳。服装など所々お高い匂いがする。いかにもこんなボロい事務所とは縁がなさそうな感じだ。せっかく依頼をしに来てくれたのだから話を聞こうと思うのだけれどこういう時はもっと世間話的なことを話して場を盛り上げたほうがいいのだろうか?久しぶりの依頼だからどうしたらいいか分からなくなっている。僕が何を話そうか悩んでいると

「で、依頼って何?」

いきなり仁が本題に入る。

「もう少し世間話とかしないの?」

「世間話なんかしてる時間、勿体ねぇだろ。急ぎの用かもしれねぇし。で?」

確かに仁の言うことも一理ある。

「なんでも言ってください。」

「あの、私のお気に入りの靴を探してもらいたいんです。」

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