不滅のゲートキーパー ~たとえ死すとも、君を守りたい
英知ケイ
第1話 終わりのない戦い
「本部より通達。ゲートの魔力反応増大。上級魔族クラス以上の可能性あり。第一防衛ライン、第二防衛ラインの各担当は、速やかに配置についてください。繰り返します……」
連絡のための水晶球を通じて、敵来襲のアナウンスが流れる。
ここのキャンプにいるもの全員に緊張が走る一瞬。
各自、剣、盾、杖など各々の装備を身に着け、急いで集合場所に向かう。
所々に土埃が舞った。
「ユリウス様、皆の準備、整いましてにございます」
帷幕の中、少女が奥にいる青年に声をかける。
妖精の祝福を受けし白銀のアーマーに身に包む、ユリウスと呼ばれた彼こそが、ここ第一防衛ラインの筆頭
年の頃は、二十代後半、世間では、まだ若造と呼ばれてもおかしくない年齢ではあるが、死傷率の高い第一防衛ラインの勇者の中で、この十年以上過ごして来ている彼は、他の誰よりもベテランであり、何よりもその勇者としての力から、要といえる存在である。
「ありがとう、ティート。すぐに向かうよ」
彼は、副官の少女にニコリとしながら答えた。
彼女は頷くと、帷幕を出てゆく。
「じゃあ、いこうか、アウレリア」
真紅のアミュレットを握りしめ、いつものように彼女に祈り、懐にしまう。
これは、ここ十年の、彼の戦い前の儀式だった。
パンデモニウム・ゲート、それは魔界に通じる門である。
いつ現れたのかは定かではない、だれが据え付けたのかも謎のままになっている。
存在が公になったのは、およそ百年以上前の、魔王軍の侵攻。
世界全土を覆いつくすかのように、果てなく押し寄せる魔物の群に不思議に思った勇者、魔導士達が、その戦いの中で探索に探索を重ねて、やっとの末で見つけたのが、この門であった。
そして、世界各国の勇者、魔導士が集められ、魔王軍を撃退するとともに、この地に結界を敷く。
当然、極大魔法、究極魔法による門の消滅・破壊はその前に試みられはした。
しかし、門には傷一つつかず、周囲を焦土と化したにとどまった。
元素を操るのを得意とする魔導士、
そのため、魔界からこちらに来ることができないように、門の周囲に結界を張り門を閉じたのだが、完全には封印すること能わず、その後も結界は破られ、魔軍の侵攻は相次いだ。
ここに至り、諸王により会議が行われ、世界的に、ゲートを守護する組織が結成された。
通称、ゲートキーパー。
そこに所属する勇者、魔導士達は
まず行われたのは、結界の強化。
魔導士達により、ゲートを中心に、四重の結界が張られた。
そのうえで、各結界を守護する第一、第二、第三、第四の四つの防衛ラインが敷かれ、世界各国から選りすぐられた精鋭が配置されたのだ。
各防衛ラインについては、以下のように役目がわかれている。
第一防衛ラインは、最初の防衛ラインであり、ゲートからの敵をここで防ぐことが基本となる。突破されることがあってはならない。
そのため、戦闘に長けた勇者・魔導士、それも、なるべく経験の多いものが集められている。
連鎖する終わりなき戦いのためか、いつしかこの第一は『
これまで、魔神クラスが攻めてきた際に一回全滅、魔王クラスが攻めてきたときに数回半壊し、突破を許しているが、それ以外は魔王クラスでも返り討ちにしている。世界の戦力の半分がこの第一にある、というのは、よく言われることだ。
第二防衛ラインは、第一が突破された際に、敵の進行の足どめをすることを目的とする。第一を超えた敵が、第二で止まることはない。
所属する守護者達は、なるべく時間をかけて戦い、死ねといわれている。
この上なく冷たい命令ではあるが、世界を守る一心で皆は戦う。
第一に比べると、全体の戦闘力は劣るが、勇者・魔導士の数はこちらが勝る。
個々の戦力発揮よりも、戦術的に軍として戦うことを課されている。
陣容としては、若い勇者、年老いた勇者、傭兵が多く配備されている。
進攻されることは、ほとんどないため、ゆくゆくは第一防衛ラインをまかせるべく、普段は若い勇者たちの育成が行われている。
第二が通称『
大先輩の勇者達からは心構えを、そして傭兵からは実戦を彼らは学んだ。
魔導士達も同様である。
前回第一が突破されたとき、防衛ラインの目的にも関わらず、若い勇者達は逃がされた。公になってはいないが、現在ゲートにつとめるものは皆知っている。
死すべき定めの中で、彼らは未来を守ったのだと称えられている。
そのとき逃れた若き勇者達が、今の第一を支えているのだ。
第三は、第二を超えてきた敵を、罠を持って迎え撃つ。
専門の魔導士、賢者が第一、第二で得られた情報から敵の弱点を割り出し、結界を張り、ゴーレムや魔導砲で迎え撃つ。
たとえ魔界のモノであっても、弱点は必ずある。
強属性があるものは、同時にその逆属性が苦手となるなど、この世界には相克関係があるからである。
まれに属性が無いもの、全属性に耐性をもつものもいる。
その場合の最終的な手段として、禁忌である消滅魔法の使用がここでだけ許可されている。但し、そのまま放つと世界が壊滅する可能性があるため、ゲートに向けて撃つことになっているが。
これまでに使用されたのは、十年前の一度だけである。
使用してしまうとゲート方向の第一第二ライン部分を含み消滅することになり、削られた場所は魔法の瘴気で、呪われた場所となってしまうため、滅多なことでは放てないのだ。
様々な皮肉を込めて第三は『
第二を超えた魔王も、第三で殲滅されている。
ここを超えたのは、十年前の、魔神が唯一である。
そして、第四は最後の砦。
必ず敵を殲滅することが求められる。
最後の戦いの印象からか、伝説に伝わる神々の最終戦争を模して、第四は『ラグナロク』と呼ばれる。
これまでたどり着かれたことは、魔神が攻めてきた十年前一度だけ。
その時は、かろうじて撃退している。
最高機密として、攻撃方法、所属するものの詳細は明らかにされていないが、十年前、最後に放たれた光、世界を守った光は、神の一撃と伝えられている。
各防衛ラインには、当代最強を謳われる勇者が、筆頭守護者として配備されている。この最強の四人のことを、世間では天に通じる四人、『四天』と呼んでいる。
ユリウスは、四天の一人にして、第一防衛ラインの筆頭守護者なのである。
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