第77話 14
どれほどの時間が経ったろうか。
ふと気付くといつの間にか、俺は見覚えのある、どこかのホテルかオフィスのフロアの通路のような場所にぼんやりと立っていた。
床は上品な赤茶色の分厚いカーペットが敷き詰められている。
天井からのLEDライトの白い照明が通路を明るく照らしている。
どこからか、かすかな音で音楽が流れているのが聞こえる。
ジャズバンドが演奏している曲は、シンディ・ローパーの『グーニーズはグッドイナフ』だ。
通路は延々とまっすぐと伸びており、遥か遠く突き当りにはエレベータが見える。
左右の壁には、等間隔にドアがある。
今回は俺はまっすぐに突き当りまで歩いて行った。
カーペットを踏む俺の鈍い足音が響く。
そして、俺は通路の突き当りのエレベータまでたどり着いた。
エレベータのボタンは「△」と「▽」があったが、俺はエレベータの「△」ボタンを押した。
しかし、ボタンは点灯しなかった。
「▽」を押してみるが、同じだ。
エレベータは死んでいる。
「はぁ……」
俺はため息をついて座り込む。
俺の脳裏にザウロスに焼き殺された時の記憶がよみがえってきた。
地下迷路の奥深くまで進んだ先の地下神殿で、ザウロスと対峙したものの全く歯が立たず、俺はザウロスの杖から放たれた炎に焼かれて死んだのだった。
前回、ネズミと戦ってあえなく食い殺された時には、この通路の突き当りのエレベータは生きていた。
そして俺はエレベータに乗り込み、十四階に行ったのだ。
しかし今回は……。
俺は突き進んできた通路を振り返った。
前回は、等間隔に配置されているドアを、一つずつ試したが、どのドアも施錠されて開かなかった。
もしや今回はドアなのか?
一番近くのドアを調べてみる。
ドアには真鍮製のプレートがついており、そこには“54”と刻字されている。
開けようと試みたが、鍵がかかっていてビクともしない。
次に、“54”のドアの向かいにあるドアを調べる。
“31”と刻字されているそのドアも、やはり開かなかった。
俺は、順番に、元来た道を戻りながら、通路に等間隔に並んでいるドアを調べていった。
ドアについている真鍮製のプレートの番号は、不規則でランダムな数字だった。
“25”の向かいのドアは“18”で、その隣のドアは“5”だった。
俺は順番にドアを試していく。
通路は延々とずっと向こうまで続いていて、先が見通せないくらいに長い。
俺はあるドアの前に立った。
そのドアだけ、他のドアとは少し趣が違った。
他のドアは真鍮製のナンバープレートがついていたが、このドアについているプレートは木製だ。
番号は“14”となっていた。
きっとこのドアだ。
前回も、エレベータが向かった先は十四階だった。
俺はドアノブを握りしめ、回した。
ドアに鍵はかかっておらず、かちゃりと音がしてドアノブが回り、ドアが開いた。
ドアの向こうは、真っ暗闇だった。
予想したとおりだ。
暗闇が濃すぎて、部屋の内部は全く見通せない。
俺は意を決して、中に入った。
しかし、足を踏み出した先に床はなかった。
慌ててドアノブにしがみつくが、俺の両手の握力は、落ちていく俺を支えきれなかった。
俺はあえなく、暗闇の中に落下した。
「うわああああー!」
俺は落下し続けた。
どれだけの高さから落ちているというのだ。
真っ暗闇の中で、ただただ、自分が落ちている感覚だけがある。
漆黒が全身を包んでいる。
いったい何なんだこれは……?
暗闇の密度が濃すぎて、どこまでが自分で、どこまでが暗闇の空間なのか、わからなくなってきた。
自分の体とその周りとの境界がぼやけていく。
指先の感覚がなくなっていることに気づいた。
手足が動かない。
真っ暗闇の中を落下しながら、何か重たい空気が徐々に俺の体を包み込んでいくのがわかった。
いつのまにか、俺は気を失っていた。
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