第29話 誰?
マケラと一緒にワインを飲みすぎてしまった。
ほろ酔い気分で客室に戻ってきて、一人になった所でスマホを取り出して時刻を確認すると、すでに二十三時を回っていた。
“新着メッセージ 1件”
ポップアップメッセージが出ている。
マケラと飲んでいた時間に、メッセージが入っていたようだ。
ハリヤマのアドバイスに従いスマホをマナーモードに切り替えておいて良かった。
またハリヤマからの業務連絡か。
俺はSMSを開き、新着メッセージを確認した。
しかしメッセージを送ってきたのは、ハリヤマではなかった。
“ ユキ
<友だちとして追加されていないユーザーです。>
<メッセージの内容にご注意ください>
< 4月2日(火)>
◆『お疲れ様です! ユキです!
よかったら追加よろしくです!』午後10:04
“
ユキ?
メッセージは約一時間前に届いている。
思わずスマホを置き、ベッドの上に正座して腕組みをしてしばらく考える。
……誰だ??
わからない。
この世界でハリヤマ以外の人間からメッセージが届くのは、どう考えても不可解だ。
しかし、ブロックする理由もない。俺は友達追加登録をしてから、返信した。
◇『誰?』
メッセージ送信して、しばらく様子を見ていたが、既読がつかない。
相手はもう寝てしまったのだろうか。
誰だろう誰だろうと考えつつ、酒の酔いも回ってきたこともあり、俺はいつの間にか眠りについていた。
目が覚めたのは、翌朝の七時を回った頃だった。
昨日寝る前に送信したメッセージは未読のままだった。
まぁいい。これからマケラと朝食を共にし、午前中のうちに薬草屋のところに行く予定となっているのだ。
現世とメッセージのやり取りをしている暇はない。
後で一人になった時に確認するとしよう。
客室を出て、食堂に行ってみたが、召使い曰くマケラはまだ起きて来ないとのことだった。
マケラもよく飲んでいたので、寝坊しているのだろう。
屋敷の主人が起きてくるまでの間、俺は朝風呂と洒落込むとしよう。
中庭を通り、温泉に行き、一風呂浴びて戻ってくると、ちょうど目を覚ましたマケラが食堂に降りてきたところだった。
そして、次女ノーラも一緒だった。
俺はマケラとノーラに挨拶した。
「おはよう。遅くまで寝てしまった。すまんな」
とマケラ。
「おはようございます! 昨日はありがとう」
とノーラ。
今朝のノーラは昨日会った時とは見違えるほど元気そうだった。笑顔もみられる。
我々は一緒に朝食を摂った。
ノーラは普段は自室で食事を摂っているのだそうだ。
しかし今朝は気分が良く、食堂に降りてきたとのこと。
発作時の対処法を教わったことで、自信がついてきたらしい。
そんなノーラを見て、マケラも嬉しそうである。
遅い朝食が終わり、俺とマケラはお互いに身支度をし、馬車に乗り込んだ。
馬車は、薬草屋のある村の中心部へと向かって走り出した。
昨日歩いた村の東の通りも賑やかなものだったが、西側はそれ以上だった。
村の中心部に行くにつれ、通りは大通りとなり、人通りも増え、馬車や牛車が頻繁にすれ違う。
通り沿いには商店が立ち並び、ちょっとした都会の一角とも思える華やかさがあった。
「トンビ村は、思ったより大きな町ですね」
俺は馬車上からの風景を眺めながらマケラに言った。
「そのとおり。トンビ村はこの数十年でとても大きく成長したのだ」
マケラは言った。
「我が父、ネケラは偉大な領主だった。
田畑と羊しかなかったようなこの村に大きな繁栄をもたらした。
今では、国の南西部ではダマスの街に次ぐ規模がある」
マケラが誇らしく言う。
つまり、アイランドの南西部で二番目に大きいコミュニティだということか。
トンビ村は、“村”と名前がついているものの、元の世界の定義でいう“町”の規模に相当しそうだ。
「しかし、今この村は大きな問題を抱えている。
おぬしもわかるだろう?」
少し考えて俺は言った。
「ヤブカラ谷の向こうのダンジョンですか?」
「そうだ。ダイケイブだ。
いにしえの時代から存在する迷路のような坑山なのだが、近年そこに魔物が棲みつくようになり、村民達が脅えている。
それだけならまだしも、ダイケイブの奥深くには莫大な財宝が眠っているという根も葉もない噂が国中に広まりつつある。
今後、ダイケイブへの中継点となる我が村には、多くの冒険者やならず者が集まるようになるだろう」
マケラはため息をついた。
「すでに村はかつてない賑わいをみせているが、以前に比べて治安が悪化したことも事実だ。
特に村の中心部はな」
魔物が潜むダンジョンの奥には莫大な財宝か。
典型的な中世ファンタジーの世界設定だな。
しかし、俺には関係ない事だ。
俺はそんな危険な場所には近づく気はない。
今後、トンビ村を去ることがあったとしても、ダイケイブには近づかないようにしよう、と俺は心に決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます