第5話「宣言」


 ユリシア王国海上


 ユリシア王国の港町にある砦へ本拠地に据えて、ディアス艦隊が湾内の至る所に駐留していた。

 

 夜になり、カラミス王女の敗退の報はディアス王子にも届いていた。

 

「なに? あの虐殺王女が捕まっただと?」


「そのようです」


 そしてバルニアの赤毛の青年、ディアス王子は信じられない目をした。

 生き残りは捕虜となり、瞬く間に壊滅し、メルシアの救援も間に合わなかったそうだ。

 戦闘時間は三十分にも満たなかったらしい。


 メルシアの報告であり、奴は腹が読めない部分があるので真実かどうかは分からないがこれで王国海軍の四分の一の戦力が消滅した。


「ロクに軍事も知らないハイエナのような女だ。どうせ敵の策略にまんまと引っかかったのだろうよ――と言いたいが・・・・・・ニホン国の力は分からない部分がある」


「何を弱気な――」


「我々の竜騎士団が手も足も出なかった連中もニホン国と名乗っていた・・・・・・まさかとは思うが・・・・・・」


 と、不安が募っていた。



 ユリシア王国の第二王女、まだ十代半ばの銀髪の淑女「アイナ」は日本に辿り着いていた。


 ユリシア海での戦いでは健闘虚しく、結局拿捕されたが影武者が代わりに捕まった。

 そして仲間達の助けを得て、従者が操るペガサスに跨がり、どうにか日本国に辿り着く。

 あれよあれよと言う間にニホン国のトップと会談する事になった。


 そして宛がわれたホテルに泊まり、ガラスの外には強大な建築技術が窺える日本の建物が月夜の下に立ち並んでいた。

 廃墟になっている建物もあったが遂最近まで戦争していたらしく、復興途中なのだそうだ。

 だがそれでもとんでもない国だと言う事は分かる。


 それがどうしてユリシア王国の隣国に無かったのか?

 接触してこなかったのか?

 訳が分からなかった。


 だが国ごと転移して来たと言う、神話染みたお話を信じればすんなりと納得がいく。


 彼女は目を瞑りながら日本国のトップ、直枝・H・和矢総理大臣との会話を思い出す。


「我々は戦争を望んではいません。対等なパートナーを必要としています。そして同時に助けを求めています」


「これだけ強大な国力を誇りながら助けですか?」


「はい。今この国は存亡の危機に陥っています。貴方の国と同じく。そして私はこの未知なる世界で生き残るためにバルニア王国に接触しました」


「あの国とですか? ですがあの国は・・・・・・」


「ええ。控えめに言っても最悪な国でした。そして戦争も始まってしまいました」


「で? 結果は?」


 彼は何故か沈痛そうな表情をした。


「結果は大勝利でした。しかし、こんな事は望んではいなかった・・・・・・」


「そうですか・・・・・・」

 

 何故だか分からない。

 分からないが平和を愛していた父親と重なって見えてしまった。


「戦いの中でバルニアのカラミス王女を捕虜としましたが・・・・・・」


「バルニアの虐殺王女をですか?」


「虐殺王女――成る程、報告に上がっている通りの人物像ですね」


「はい――」


 実際カラミス王女はそう言われるぐらいの事をしている。

 勝ち戦しかせず、弱い物は徹底的にいたぶる。

 処刑や拷問が趣味ではないのかと言われてるぐらいの女性だ。

 その恐ろしさはユリシア王国に落ち延びた民や兵士を通してアイナにも伝わっていた。。


「捕虜になった今でも彼女は我々を皆殺しにする事を諦めてはいない――このまま防衛に徹すればまたこの国に魔の手を伸ばすでしょう。そのためにもアイナ王女、貴方の力をお借りしたい」


「私も――自分の国を救うには日本の力がどうしても欲しいと思っています」


「分かりました――それでは提案があるのですが・・・・・・」



 そして自分の国を救うための戦いが始まる。



 翌日、記者会見で直枝・H・和矢総理大臣はこう述べた。

 

 隣にはドレスを来たアイナ王女もいた。


『この未知なる世界に来て、我々は新しい友人を求めて彷徨いました。


 しかし隣国の一つであるバルニアと戦争状態になると言う最悪な結果となりました。


 そして我が国で保護したユリシア王国の王女から助けられる事になりましたが、その国は今バルニア王国と戦争をしています。


 ここで誓って言いますが彼女を保護したから戦争が起きたのではありません。


 私の私見ですが、どんなに有能な外交官でも今回の戦争は避けられなかったと断言します。


 バルニア王国の艦隊は確かに撃破しました。


 しかし侵略の魔の手が終わったわけではありません。


 例えどんな結果になろうとも、我々はこの世界で生きていくために、バルニア王国が戦争を望む限り戦わなければなりません。


 私は戦争せずに話し合いで解決するのが最良だと思っています。


 ですが話し合いで解決できるのならば、地球に軍隊は存在せず、第三次世界大戦も起きなかったでしょう。


 この世界でも同じです。


 そして今、隣国のユリシア王国は亡国になろうとしており、そして助けを求めて来ている。彼女の国を救うには我々の武力が必要です。


 私はアイナ王女と話し合った末に決断しました。


 ユリシア王国を救う為に、バルニア王国と共に戦う事を。


 下心が無いわけではありません。

 

 救う代わりにこの国を救うための資源や食料などを得る事も口約束ではありますが確約しました。


 政治家は汚いと思った人は大勢いるでしょう。


 しかし政治家なんてものはそんなものなのです。


 日本の総理大臣として、日本の舵取りを任される身として、私は日本国民も、そしてこの未知なる世界で生きていくためにもユリシア王国と言う最初のパートナーを救う必要がある義務があるのです。


 それを成し遂げる為なら喜んで汚い政治家になりましょう。    


 最後に――


 私は日本に生きる日本国民の皆さんに宿題を出します。


 私が決断した内容が正しいのかどうか。


 それを何かの形で出して欲しい。   


 どうして宿題と言う言葉を使うかと言えばこの国は民主主義国家だからです。


 民主主義国家の人間として生きる以上、日本国民の皆さんの一人一人に責任が生じます。

 

 そして安易に答えを出さないで欲しい。

 

 テレビがどうだから。


 大人がどうだから。


 周囲がどうだから。


 とにかく、じっくり考えて答えを出して欲しい。


 それが例え私を批判する内容であろうとも――


 以上、私の会見を終わります


 お付き合いありがとうございます』



 そして深々と礼をし、シャッターが切られた。


 続いて長い銀髪のユリシア王国の王女、アイナ王女が立った。


『私はユリシア王国の王女アイナ王女です。


 最初に私は謝罪しなければなりません。


 私達の国が不甲斐ないばかりにバルニア王国の跳梁を許し、ただでさえ国難に見舞われているにも関わらず新たな火種を呼び込んでしまった事に。


 私は総理大臣と語り合い、そして先程の説明でこの国の人間は私達の国と同じく、平和を愛する人々なのだと思いました。


 先程でも総理大臣が語られましたが話し合いで解決できるのなら、それで超した事がありません。


 私達ユリシア王国、いや一人の人間として同じ考えです。


 ですがこの世界はとても残酷です。


 私が言う事もただの綺麗事でしか無いのでしょう。

 

 平和と謳いながら戦う力を持つ。


 この国では矛盾と言うのでしょう。


 バルニアに攻められ、多くの国民が、兵士達が犠牲となり、いっそ平和主義など捨て去ってバル二アの様にひたすら強大な軍事力を持つべきだと考えた事もあります。


 そうしなければ平和は得られない。


 そう思っていました。


 ですが、この国に来て気付かされました。


 平和とは何を言うのか。  

 

 その点では日本国がとても羨ましいです。


 強大な国力と軍事力を持ちながらバルニアの艦隊を一捻りするだけの強大な力を持ちながらも、平和的に解決する方法を諦めず、平和を求める姿勢――


 それはユリシア王国が夢見た国家の理想的な姿なのだと思います。

 

 私は戦います。


 平和を求めるために、自分に出来る戦いをします。

 

 その為に私は――ユリシア王国第二王女アイナ・ユリシアの名の下に日本とユリシア王国とで同盟を結びます』


 そして再び総理大臣に代わる。


『私もこの同盟を受け入れます。


 この判断が正しいかどうかは分かりません。


 ですが、戦うべき時は今なのです。

 

 今戦わなければ、日本を支え続けて来た人々が未来に残した物が何もかも失い、そして我々は精神的に死ぬ事になるからです。 


 バルニア国民の皆さん。


 もし、これを見ているのなら断言しましょう。


 私は平和を愛する物として、日本の政治家として貴方達と戦う事を総理大臣の名の元に宣言します』


 シャッターの光が瞬く。


 テレビの前の視聴者も大半が呆然となった。


 そして考え始めた。


 今の日本国民も第三次世界大戦を通して考え方は変わっている。

 

 その考え方は様々だ。


 未だに軍事力が悪だ。


 話し合いが解決すべきだと言う意見はある。


 だが――総理大臣が出した宿題に真剣に取り組む者達は確かにいた。




 後にこれは日ユリ同盟宣言として歴史の教科書に演説と共に名を残す事になる。

  

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