【3-1話】
「何でここにいるんだ!!」
休み時間、校内のテラスで僕の荒い声が響いた。対象の相手は、白銀の長い髪を携えた帰国子女……に見える天使だ。
「何故……とは?」
「『とは?』……じゃねぇよ!! 一体何しにわざわざ転校して来たのかって聞いているんだ!」
「嫌ですね、
とぼけた態度でまともに取り合おうとしないクソ天使に、僕は憤りを隠しきれない。
この女、マジで殴りたい!
「それに、下僕がご主人様のお側にお仕えするのは当然のことです」
「何を調子のいいこと言っているんだ。僕はお前の馬鹿げた考えに協力なんて絶対しない」
「意思は固いみたいですね。ま、そう簡単に覆るとも思っていません。そのうちあなたの気が変わるのを待ちますよ。私はあくまで観察者。何もしないし何もできない、しがない不良品の天使ですから」
余裕の態度を見せて「観察者」と自称する天使。
僕を計画に引きずり込もうとするためにわざわざ転入してきたってことか。観察とか言っているけど、そうとしか考えられない。何も企んでいないはずがない。
「どんな手段で編入したんだ? ここは超有名進学校だ。偏差値だって、国で一位二位を争うレベルの学校だぞ?」
付け焼刃の学力じゃ、この学校には編入できないはずだ。
「そんなの、ちゃんと勉強したに決まっているではないですか?」
「は? 勉強だと? バカ言え」
「侮ってもらっては困ります。この学校に転入するために地道にコツコツ、寝る間も惜しんで勉強したのです♪ 見たいテレビがあっても即電源オフ! 友達との買い物も勉強のために断り……。あぁ、辛い日々でした」
嘘くせええええええええええええええ!!
話し方が演技じみすぎているんだよ! 大体、「友達との買い物」とか言うガラなのかお前は!
「これで学校にいる間、より真音くんの近くで観察ができます。それに、真音くんも気が変わった時や、何か聞きたいことがある時はすぐに私に頼ることができますよ」
「そんなの必要ない。話すどころか、お前に対して言葉を一言でも交わす気はない」
「冷たいですねー、真音くんは。こんなに可愛い女子があなたに尽くそうと申し上げているというのに」
「自分で可愛い女子とか言ってるんじゃねぇよ。痛い女か、お前は」
「こんなに可愛い美少女天使が、あなたのために何でもしてあげようと言っているのに」
「わざわざ『天使』をつけて言い直すんじゃあない。堕天使だろ」
心も性格も、真っ黒だよ。白いのは表面だけだ。
「ですけど真音くん、本当に遠慮しなくてもいいんですよ」
プリファはずいっと顔と身体を僕の近くに寄せる。
「私はあなたの下僕ですから、命じられたことは聞き入れます。あなたへのご奉仕だって、喜んで致しますよ?」
「お、おい……」
そう言って手を僕の胸に添え、顔を見ながら密着してくる。
人類の敵である女のはずなのに、不覚にもその魅惑的な身体つきと甘い匂いにドギマギしてしまう。
「好きなだけ触っていいですよ。あなたにだけ特別です、ご主人様」
「っっ!!」
「犯して……」
破壊力抜群の上目遣いに僕は顔が赤くなるのを抑えきれない。嫌いな女のはずなのに!
これが男の醜い欲求か!
「この、痴女がーーーーーーーーーーーーーー!!」
「あんっ!」
ガチガチになりながらもプリファの両肩を掴み、突き放す。
僕は極めて冷静に、動揺を全くしないでプリファに言う。
「色仕掛けで落とそうとしたって無駄だ。僕の意思は鋼のように固いんだ」
危っぶねー。誘惑されるところだった。
カタブツの僕じゃなかったらやられていたな。うん、絶対に。
女の色仕掛け、マジで危険だ!
「残念。今は気分じゃなかったようですね。またの機会に致しましょうか」
「何度誘惑しようとしたって無駄だ」
またやる気かよ、この小悪魔! いい加減にしてくれよ。心臓に悪い。
「いいか、プリファ。お前が何度僕を誘惑し、計画の話を持ち出そうと、僕は絶対に力を使わない。馬鹿げたお前の計画は、僕が潰す。だからお前がここにいる意味だってない」
さっさと天界にでも地獄にでも行ってしまえ。そういう意味を込めて、目の前の堕天使に指を指す。
するとプリファは、
「真音くん」
「なんだ」
「今の私はプリファ・ルナシャードではなく、
知らないよどうでもいいよ話の腰を折ってんじゃねぇよマジで!
「どうです? いい名前でしょう? リンクを貼ったあなたの持つ『真』という字を取り入れてみました。言葉の力はより私たちのリンクを強くするでしょう♪」
「お前との心の距離なんか絶対に近づかない。僕に近づいたり、話しかけたりもするんじゃないぞ」
プリファの言葉をあしらって、僕はその場から立ち去る。
何がリンクだ。勝手に貼りやがって。迷惑でしかない。
大体、「
……いや、「黒羽」というのはあながちにも……。
黒い羽に白い姿。これじゃあまさに、
堕天した天使、そのままじゃないか。
案外、プリファにふさわしい名前なのかもしれない。
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