【1-1話】

「なぁ、見たか? 朝のニュース」

「また『怪奇事件』が起きたっていうやつだろ? 今回のはやべーよな」

「命を取り留めた人が全員、脳に障害が残るほどの重態だってさ。百人は居ただろうに。怖いわ~」

「元はと言えば、警官の規制を無視して現場に入った馬鹿な大学生が悪いんだよな。野次馬はいいとばっちりっていうかさ」

「けど、全員たて突いて警官を押し潰したんだから、野次馬全員ゴミだろ。正直、同情も何も沸かねぇわ」


 クラスメイトの一人が机に座りながら軽い口調で話す。騒がしい教室の中だが、彼の声は一際目立つ。

 また「怪奇事件」の話か。最近はいつもこれだ。


「な? 委員長もそう思うだろ?」


 グループで話していたクラスメイトが突然、斜め後ろにいた僕に声をかける。別に席自体はそこまで近くない。彼と僕の席は横と縦で合計三つ分離れている。ちょうど休み時間で、一番近くにいたグループ外の人物が僕だったというだけだ。


「自業自得だって、思わね?」


 こうして特に仲が良いわけではない僕に話しかける気さくさや得意のスマイルは見事なものだ。ちょっとチャラい男が好きな女子にはモテそうな男だ。


「その主張自体は分からなくはない」

「だよな!」

「それより渡辺。それは校則違反だ」


 僕は彼の耳にキラリと光るピアスを指さし、指摘した。


「そう固いこと言うなよ。なっ? クラスメイトのよしみってことで!」

「ダメだ。校則で決まっている。僕の目の黒いうちは絶対に許さない。今すぐ外せ」


 渡辺は俺の主張を聞いて「はぁ~」とため息を吐いた後、「仕方ねぇな」やら「ちょっとくらいいいじゃねぇか」やらつぶやきながら、しぶしぶピアスを外した。

 何でこっちが「仕方ない」なんて言われないといけない。規則を破っているのはそっちだろう。


 渡辺とそのグループの三人は他のクラスメイトに呼ばれ、今座っている窓際の席とは反対の廊下側に移動していく。


灰川はいかわの奴、相変わらずだな。ちょっとくらいいいじゃねぇか」

「仕方ねぇよ。あの委員長、超アタマ固いし」

「今時、規則の一つや二つ、破ってない方が少ないってーの」


 聞こえている。文句ばかり言いやがって。

 お前ら、さっき「怪奇事件」の話をしていたよな? 変わらないっての。その馬鹿な野次馬とさ。


 理不尽な憤りを内に抱きながら、僕は今日も日常を過ごす。


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