第4話 演目は悪役令嬢 その2


 マリーの協力を得た私は存分に悪役令嬢っぽいものを演じる。と言ってもヨハンナが目に入るたびに薄ら笑いを浮かべ悪態を付くだけなのだが……。


 そしてヨハンナが目の前に現れたので、かかさず一声掛ける為に近付き、今日は服にイタズラをしたと聞いたので、分かりやすくそこをあえて褒めることにした。


「#素敵な__・・・__#お洋服ですわねヨハンナ。あら、その目は何か仰りたいことがあるのかしら?」


「…………いえ、ございませんソフィ様。お褒め頂きありがとうございます」


 軽く会釈をし踵を翻して去っていくヨハンナは、サイズの違う服と靴で甚だ不恰好である。


 そんなこんなで繰り返しヨハンナに一声をかけ続けるのだが、目に見えることは限られているので私が本当に悪役令嬢っぽく演じられているのか不安だ。

 しかしマリーの報告を受けると逆に心配になるくらい順調なそうである。


「他の侍女に探らせていますが、ヨハンナは相当に荒れているみたいです。ジャイアヌス様に伝わり、手が回されるのも時間の問題かと」


「そう…………ちなみに何をやっているのか詳しく聞いても良いかしら?」


「はい。生煮えの芋をスープに入れたり、他の侍女にお金を握らせ孤立させもしましたね。そうそうマリーの下着を全てゴミに混ぜた上でゴミ捨てをさせた時といったら……」


「ストップ、ストップ!! もういいから……うん、その調子でお願いね」


 私の希望を叶える為とはいえ、ヨハンナには悪いことをしているかな…………まぁ、平然と人の旦那を寝取るような人だし、表では猫を被っているけど裏では性格がかなり悪いみたいなので自業自得なのだけど。


 そしてマリーはこれまで散々にヨハンナに対してイラついていたのか、イキイキとヨハンナを虐めているようだ。

 そんなことをしていると普通は他の侍女に非難されそうなものだが、ジャイアヌスの前だけ可愛い女の子を演じるヨハンナにイラついていたのか、他の侍女からも多く賛同も得ているらしい。


「それでは引き続き手を回してきます」


「ええ、宜しくね」


 ……うん、ヨハンナが死なない程度にはしてよね。


 こうして目論みは着々と進んでいく。



■■■



──ソフィに遠回しに虐められていることを聞いた後のヨハンナは、自室で不満を爆発させる。


「何なのよ、あの女! 絶対に許さない!!」


 ヨハンナは自室で物にあたりながら、喚き散らす。


「ヨハンナ、それくらいにしときなよ。そろそろ時間だし」


「あらイネス、貴女いたのね……」


 イネスはヨハンナと仲の良い侍女の一人であり、小判鮫のようにいつも一緒に行動をしている。


「あの方はヨハンナにジャイアヌス様の心をとられて憐れな人ですし、放っておけば良いのでは?」


「そう、ジャイアヌス様は私を愛して下さっていますものね……だけど私は許さない。私がこのことをジャイアヌス様に告げ口したらどうなるかしら?」


「……ジャイアヌス様はお怒りになられると思います」


「フフフ、今に見てなさい。あの女に思い知らせてやる」


 ヨハンナは着替えてジャイアヌスと会う準備をしようとするのだが、まずは汚れてしまった体を綺麗にする。

 そして普段より時間を掛けて準備をし、ジャイアヌスとの待ち合わせ場所に向かう。


 王宮から少し離れたその宿は人払いがされており、誰にも見られずにいつもの部屋に入る。


「ああヨハンナ、今日は随分と遅かったではないか」


 限られた時間ということもあり、ジャイアヌスはヨハンナが部屋に入るなり抱きしめ、ヨハンナもジャイアヌスの背中に手を回す。

 しばらく二人が体を重ね合ったあと、ジャイアヌスがヨハンナを気遣い、ヨハンナは上気した顔のまま告げ口を始める。


「最近、体調が優れないようだが何かあったのか?」


「ジャイアヌス様…………ソフィ様をどうにかして下さいませんでしょうか」


「どういうことだ?」


 ジャイアヌスに問われ、ヨハンナは辛いことを思いだしたように涙する……振りをしてソフィから受けた嫌がらせを告げ口する。


「実は……」


「なんだそれは! 全くもって許しがたい話だ!!」


「うう、そうなのです。ジャイアヌス様のお力でどうにかしてくださいませんか? このままでは、この二人の時間にもソフィ様の顔が浮かんで辛いのです……」


「……分かった。ソフィの行いは全くもって王家に相応しくない。それに私は元より父上が決めたこの婚約に乗り気ではなかったのだ。こうなれば私自ら引導を渡してやろう」


「ええよろしくお願いします、ジャイアヌス様。そうすればもっと二人でいられる筈ですわ」


 思い通りに事が運び笑みを隠しきれないヨハンナは、その顔が悟られないように再びジャイアヌスの頭の後ろに手を回し重なりあう。そして夜は更けていったのであった。

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