悪役令嬢を演じて婚約破棄して貰い、私は幸せになりました。

第３話 演目は悪役令嬢 その１

　体調が回復した私は、さっそく目的を果たすことにし、侍女のマリーを呼び出す。

「マリーお願いがあるのだけれども、ヨハンナの予備の服を持って来てくださるかしら？」

「分かりました。ですが何をなさるおつもりなのでしょうか？」

「そうね、貴女にだけは先に伝えておいた方が良いわね……」

　マリーは私の側付きであり、実家であるフェルンストレーム家から付いてきている唯一の侍女だ。

　年も近く幼なじみのようにどんな話でも出来る間柄であるので、流石に転生者であることは隠すが、ジャイアヌスと婚約破棄をしたい旨を伝える。

「そう……ですか」

「あれ？ あんまり驚かないのですね」

「はい。大きな声では言えませんが私もジャイアヌス様のことが嫌いですので、むしろ賛成です」

　てっきり反対をされると思っていたのだが、きっとマリーもジャイアヌスに嫌なことをされていたのかもしれない。

　でもやはりマリーが私の味方でいてくれるのは心強いので、ホッとして安心してお願いをする。

「ありがとう、マリー。賛成してくれて嬉しいわ。それで先ほどのことなのだけれども」

「ソフィ様から隠れて寵愛を受けるヨハンナを虐げて、それを聞かされたジャイアヌス様から婚約破棄を申し出て頂けるように仕向けるのですね」

「話が早くて助かるわ…………でもマリーもヨハンナとジャイアヌス様の事を知っていたのですね」

「はい。ジャイアヌス様が手を出しているのはヨハンナだけでは無いですが、その方々の中でも分かりやすいですから」

「そう、なんだ……」

　私はヨハンナの事しか知らなかったけど、マリーが知る限りもっとたくさん手を出しているみたい。

　……やっぱりジャイアヌスは女の敵だね。

「それでヨハンナの服をどうなさるのですか？」

「えっと……墨で汚すとか？」

　そういえば花音として日本で生きてきた時は喧嘩とは縁遠い場所で大人しく成長してきたので、いざイジメを行おうにも具体的になにをやれば良いのか思い付かない。

　体操服やシューズを隠す的なノリで服を持ってきて貰うことにしたのだが、それだけでは弱いと思い目の前の暖炉の墨で汚すことを思い付いたのだが……。

「ソフィ様、そんなことで婚約破棄されるまでに至ると思っているのですか？」

「うぅ、だって悪いことなんて考えたこと無いんですもの」

「……分かりました。それでは私が手を回しますので、ソフィ様はあたかもその全てに手を回した風に演じて下さい」

「分かったわ。ちなみにマリーならヨハンナの服をどうするのかしら？」

「そうですね……私ならまずハサミで切り刻みますかね。あっ、墨で汚すなら内側だけ汚して気付いたら真っ黒というのも面白いかもしれません」

　嬉々として嫌がらせの内容が浮かんでくるなんて、マリーはなんて恐ろしい子……という冗談はさておき、私より遥かに適任そうなので本当にマリーに任せた方が良さそうだね。

　後は私がＯＬになってからお局な先輩にいびられてきたように、態度で追い詰めていけば良いだろう。

「分かった、そこまで！ イジメの内容は全てマリーに任せるけど、ほどほどにしてちょうだいね」

「はい、それではさっそく手を回してきます」

「ええ、お願い。後はしっかりと私の指示でヨハンナを虐めているということを広めていってね。責任は全て私にあるのだから」

「かしこまりました、ソフィ様」

　こうしてマリーが色々と動いて、私が裏で糸を引いている悪役令嬢を演じる手筈が整った。