そして僕はさよならを告げる

白木はる

第1話

山下しゅう、16歳。華の男子高校生。

僕は今、青春の代名詞である屋上で自殺を試みている。


今日は四時間授業だった。

いつもいる寝そべるヤンキーも、一人で弁当を食べてるぼっちも、告白直前の男女もいない。


そう、絶好のチャンスなのだ。天気も僕に味方してくれたのか素晴らしい快晴だ。

自殺はこういう日に限る。

今日こそはぜっ


「何してるの?」


声のしたほうをどんよりと振り返ると、クラスメイトがこちらをじっと見ている。

黒髪を一つに結んだ女子生徒。

名前は、ええと…誰だったかな。思い出そうと僕は必死に記憶を探る。


「何してるの?」

黙っている僕にしびれを切らしてか、もう一度彼女は聞いてきた。


「…天気のいい屋上、フェンスを乗り越えようとしてる男子高校生、丁寧に揃えられた靴。これだけ条件があれば僕が何をしたいかわかると思うけど」

まあ、“あっごめんね邪魔しないよ”、とはいかないだろうな。

クラスメイトは少し悩んでからハッとして言った。


「ラジオ体操…!」

「ちげえよ」

即答してから思った。

もしかしなくても俗にいう馬鹿だなこの人。

「友達のきいちゃんはラジオ体操好きなのに…」

知るか。

「正解は?」

「はあ…自殺だよ自殺。」


フェンスを乗り越えるのをやめ彼女に向き合って言うと、彼女は少し眼を見開いてから俯いた。

彼女のそれは普通の人の反応だ。

僕だってクラスメイトが自殺を試みているシーンには会ったら凹む

だが面倒くさい説教を聞くのはごめんだ、同情も。

そう思って前を見ると彼女がいない。



「このアリめっちゃあかい」

声のした方を見ると、屋上に這いつくばってアリを追いかけている彼女。


…前言撤回だ、彼女は普通でも人でもない。

未確認生物から逃げるようにして恐る恐る立ち去ろうとすると、ぐいっと袖をつかまれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る