新しい道 1
私の娘を結衣と名付けた。カオルに頼んで私の住民票を東京からこちらに移して貰った。これで正式に結衣は私の長女になった。だがサエは妻として入れることは出来ない。
「悪いな」
「うんこれで充分すぎるほど幸せよ」
ユイ、ユイと何度も呼んでいる。
今日は親分の息子の組長が持ってきた案件を小頭に案内してもらう。事前に病院に行って話をしたら、問題なければ貸してやってくれと言われている。
小頭にベンツに乗せてもらって、阿倍野通りを走る。資料を見ながら小頭に説明を求める。
「これはITMファイナンスの貸付先の中にありますね?」
「ああ、ここはこの不動産会社に依頼を受けて地上げをしていたところなんだ。それが資金が切れて競売になるという話だ。やっと真ん中のビルを口説いたところで」
車を降りてビルの中を案内してもらう。築25年と古いが9割がスナックで埋まっている。
「単体として運用が出来そうですね?2億3千なら利回りも悪くない。取り敢えず1年貸しとして利息はまかなえますね。周りのITMファイナンスはゆっくりと見ましょう。管理は当社がするという条件で稟議を上げます」
「やっとまともな儲け話が来たんや頼むわ」
事務所まで送るという小頭に頭を下げて歩き出した。なんとこの裏通りにサエの店があるのだ。久しぶりに店を覗くと、サエがユイをあやしながら裁縫台に向かっている。フミコは産婦人科に入院をして休んでいる。
「近くに来たので」
「コーヒーを取るわ」
ずいぶん預かりの衣装が増えている。
テレビに黒サングラスの男の顔が映っている。タイの運河で浮いていたという。背中に銃弾を3発受けている。やはりカオルの言っていた通りになった。この事件はどこに向かってゆくのだろう。検察は重要な証人を2人失ったことになる。
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