戸惑い 12

 今日は姉さんに頼まれて番頭が働いているという萩之茶屋のスナックを覗いた。サングラスにマスク姿で姉さんの言うようにやくざっぽく見える。中に入るとカウンターの中に茶髪の女が煙草を吸っている。顔を合わせても声もかけない。

 壁に新品のテレビが2台付いていて競艇を流している。私の後ろから入ってきた人夫がそのまま奥の部屋に入っていく。

「なんや、イサム。競艇するん」

 腕を絡めてきたのは流し目の女アヤだ。

「私の彼、入るよ」

 そう言うとカウンターの女は軽く頭を下げた。中には15人ほどがビールを手にテレビに集まっている。アヤは小声で、

「ノミ屋よ。あの箱の中に入っている男が舟券を売っている」

 無精ひげを生やした番頭だ。その後ろにごっつい男が立っている。部屋は薄暗いので気付くことはないだろう。

「アヤ、あんまり穴貸してるとばかばかになるで」

 人相の悪い男がアヤの尻を突く。

「あれは前言っていた刑事。甘くしてやって情報を取って行くの。あの組のショーにもよくただ見客で来るわ」

と言いながら反対側のドアを開けて路地に出る。

「今日はしない」

「妹とやりまくっているでしょう?私も今日はだめ。夜に近くのホテルでショーをやるの。見に来る?それより飲む?」

 そのまま暖簾を潜ると小さなバーになっている。

「前話したイサムの写真、あれは東京の銀行員だってよ。重要な証人だって言ってたわ」

 警察はどこまで情報を持っているのだろうか。

「私は彼氏は売らないからね安心して」












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