新しい一歩 2

「サエに貸付するんですか?」

「ああ。貸付はイサムが部長になる前から決裁降ろしてるわ」

「書類見せてください」

 珍しく粘って貸付の書類を貰う。

「住民票や印鑑証明がついてませんが?」

 すでに親分は公園に人夫出しに出ている。姉さんが笑いながら、

「親分の貸付には昔からそんなのが付いていないのがたくさんあるわ。サエだったら取り立ては私がするよ」

 まったくだめだと思いながら書類に目を通す。

 心配だったので集金を急いでしてあの店の登記を上げに法務局に行く。それからたこ焼き屋の表札を確認に行く。間違いなくたこ焼き屋が所有している土地建物だ。先代から相続している。

 帰りにボンのリヤーカーに出会い女将さんの店による。あの彼女が皿を洗っている。

「サエが店を借りるの知っているか?」

「昔から口癖のように言ってた。阿倍野で店見つけたから調べてと頼んできた」

「服を作ってるのってホントか?」

「もう3年も前から劇団の衣裳の修繕をしているよ。休みになったら凄い衣裳で集まりに出かけてるよ。一度着せてもらって出かけたが、恥ずかしってありゃしない」

 なぜか話を聞いているうちになんだか心細くなってきた。今自分が愛しているサエが彼女の薄い影のように見えた。その夜はアルコールを一滴も飲まずサエが戻ってきたのを押し倒して抱いた。








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