糸口 5
朝目覚めると、卓袱台の上に週刊誌が積み上げられていた。ボンが届けてくれたようだ。その上に小さな便箋が乗っていた。
『ごめんなさい。口もきかないで。本当はイサムが大好き!』
便箋の余白に涙の滲みがあった。
新聞で見た限り、ITM事件は大手の商社の子会社のファイナンス会社の膨大な貸付のようだ。伊藤はそこの役員で社長より権限があるらしい。元々親会社の商社の支払いを手形での支払から支払通知書にしたのを、下請けは手形割引できずこのファイナンス会社で高金利の融資をしたところから一躍伸びたらしい。そこから地上げ資金、M&Aなどの際どい銀行の隙間資金を扱うようになったようだ。
「当社でもITMのような支払い通知書貸付はできないのですか?」
借入希望先が帰った後、親分に聞いてみる。
「通知書はただの紙や。担保にならん。焦げ付きになったら取りようがないわ」
「これも伊藤の考えですか?」
「彼奴にはそんな頭はないわ。後ろにはもっと賢い奴がいる。ところでこの地図の謄本を全部あげてきてくれ」
ミナミの道頓堀の近くだ。
「それとその中にあるバーに寄ってきてくれ。店の状態と地上げの話を聞き出してくれ。領収書は取るんだぞ」
「貸付ですか?」
「ああ、馬鹿息子が持ってきた。それだけに要注意や。久しぶりに気合の入る話や。貸付先がミナミの組関係の会社や気付けなあかん」
事務所を出ると法務局を回って60筆の登記を1時間半かかってあげる。それから8時頃の暇な時間にバーに入る。今日はあまり飲まず夜にサエと話したいと思っている。
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