第13話 黒鞄 5
陽が沈んでようやく労務者の迎えも終わり事務所で8千円を貰う。現場事務所に様々な仕事をしてきた男たちが日払いの金を手に外に散っていく。相棒の先輩に会計の作業服の男が声をかける。
「姉さんたまには付き合ってくださいよ」
「男の腐った奴とは飲まん!おい新米付き合えよ」
思い切り襟を引っ張られる。
サエのカラオケバーの通りから路地に入る。
「珍しいねえ。男連れとは?」
コップに冷酒が注がれる。
「女だったんだな」
「気に入らない?」
「いや、背は?」
「165センチある」
「ショートカットなので分からなかった。でも真正面から見ると美人だな」
「どつくよ」
「大学出てるのよ」
横から声が入る。
「親父から聞いたけど、記憶がないのよね?」
「そうらしい」
「今腹違いの妹さんと暮らしてるって?」
「ああ」
「男に生まれたかったの。でもここにいる男たちじゃなくて仕事のできる男よ。ほんとはね、商社に入ろうと思っていたんだけど」
と言いながら、もう3杯を空けている。
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