第2話 始まり 2
長い眠りから覚めた。
四人部屋の窓際のベットに寝かされている。汚れた窓ガラスの向こうに片隅だけ通天閣が見える。窓際に小さな瓶にコスモスが1本風に揺れている。その先にくたびれた白衣の背中が見える。
「その花は彼女が活けたよ」
やぶ医者。そういう少女の声が耳元に残っている。
「もうここに来て丸3日になる。初めての目覚めだ。彼女は毎日ここに来て1時間ほど座って帰る。さっき帰ったところだ。夕暮れになると仕事に行くようだね」
「彼女は何をしているのですか?」
「それはじっくり君が聞くべきだな」
隣ベットに黒髪の女が珍しそうに私を見つめている。
「それとこの病院には正式に患者を泊める施設がない。明らかに仮に預かっているだけだ。男も女もないさ。ここは行き倒れがいるか。喧嘩で担ぎ込まれたものか。梅毒のものか。それと君は寝たきりだったから、おしめをつけている。それを替えてくれたのも彼女だ。恥ずかしいか?それなら正常だな」
隣の女がくすっと笑いをこらえた。
「名前は?」
「・・・」
「やはりな。一時的か永久にか記憶を失ったな。頭部の打ちどころが悪かった。7針縫った。左腕は手首と指が2本折れている。そう着ていた背広は彼女が持って帰った。今来ているパジャマも彼女が買ってきて着せ替えた」
しっかり少女の顔は覚えている。だがぶつかる前の記憶が失われている。
「先生上げるぞ」
野太い男の声がして1階からして階段の軋む音がする。大きな頭が現れて若い男を軽々持ち上げて上がってくる。
「入口に置いてくれ。手当は済んだが腹を刺されている。チンピラやくざだが常連さ。これで満室だな」
そう言われてもう一つのベットを見る。
布団をかぶったままだが微かに動いている。
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