旅行代理店さんのオススメスポット

きっとご満足いただけます

「纏まった休みが取れそうなので、近場ではなくちょっと遠くの旅行先を探しているんですけど、いいとこありませんか？」

「これはこれはお客様、とっておきの場所がありますよ！　何と異世界です！」

「……胡散臭いですね」

「何を仰いますか。今や赤子からおじ様まで虜にする異世界ですよ。昨今のブームです！　今異世界が熱い！！」

「お兄さんの熱意は伝わりました。日本国内でお願いします」

「お客様には伝わりませんでしたか、残念です……。今なら俺TUEEEE特典と、チートスキルをおつけしますが……」

「ぐいぐい推してくるね？　行かないよ？　そもそも旅行代理店でチートとかつくの？　すごいね？」

「お客様は俺SUGEEEEの方がよろしかったですか？」

「さっきも思ったけど、お兄さん発音滑らかだね！　すげーもつえーもいらないので、日本国内でお願いします！」

「おや、TUEEEE特典もSUGEEEE特典もご入用でない。ふむ。畏まりました」

「待って？　異世界行く前提で話進めるのやめて？　俺、この国から出たくないから」

「ご安心ください。現地では日本語も通じますし、飲み水も安全！　場所にもよりますが、治安の保証された異世界もございます！」

「異世界ガチャやめよ？　そんな日替わり気まぐれメニューみたいに異世界選ばないで？」

「チートスキルの内容ですが、お客様はどのようなチートをお望みでしょうか？」

「話進めないで？　異世界行かないから。寧ろ異世界って、そんな気楽に行けるところなの？」

「隣の県より、近くの異世界。ほら、あちらのポスターにも」

「やめろよキャッチフレーズ」

「そうですね……。人気のチートと申しますと、はずれスキルに見せかけたつよスキルが人気ですね」

「熱海行きたいなー。つよスキルとかよわスキルとか関係のない、国内の観光名所がいいなー」

「あー……。ですけれど、統計を見るに、手っ取り早く『最強』を選ばれる方が多いですね」

「聞いて？　お客さんの話きいて？　赤子からおじさんまで手っ取り早く最強になれちゃうの？　異世界すごいね？」

「そうなのです！　異世界は凄いんです！！」

「聞いて欲しかったとこ熱海ーーーーーー！！！！」

「他にもユニークスキルがございます。『母ちゃん』などいかがでしょうか？」

「うわつよい……。いや、俺どれだけ頑張っても、母ちゃんにはなれないからね？」

「今なら『神殺し』の称号もおつけしましょう！」

「旅行代理店なに殺させてるの？　神様に会ったこともないのに、そんな称号ひょいひょいあげちゃうの？」

「称号とは誰かが認めたことにより、効果を得ます。『よ！　大統領！』のような気楽なものだとお考えください」

「『よ！　神殺し！』なんて呼ばれた日のこと考えよ？」

「お客様も大分乗り気になっていただけたことですし、ここまでのご契約内容をご確認いたしますね！」

「テンション上がってるの、お兄さんだけだからね？　契約してないから。俺熱海がいいって言ってるじゃん」

「ご安心ください！　当店のアフターサービスはつきませんが、皆様からご満足のお声を頂戴しております！」

「アフターサービスううううう！！！　それ一番大事！　待って、日本に帰って来れないってこと！？　どうやってお客様の声集計してるの！？」

「故郷を捨てて旅立つのが野生の慣わしです。お客様のお声は、こう……（聞こえますか？　あなたの心に直接語りかけています）」

「ひえっ、もうこわい！　やってられない！！　お邪魔しました！！」

「おっと、逃がしませんよ」

立ち上がった彼の足許が、暗く底を抜いた。

「やれやれ、危ないところでした。……あ。お金いただくの忘れていましたね。また店長にどやされてしまう……。まあ、ノルマ達成したからセーフですよね」