第7話 雪だるま
ここは渋谷の街中。
「雪やコンコン! 霰やコンコン! 降っても降ってもまだ降りやまず!」
うかれていた。いつも元気な谷子は渋谷には滅多に降らない白い雪を見て感動していた。興奮は収まらずに歌を歌いながら渋谷の街中を駆けずり回っていた。
「あれ? この雪、止まない!?」
雪は気がつけば谷子の膝まで積もっていた。
「う、動けない!?」
谷子は雪に足を埋められて動くことが出来なかった。
その時、谷子のスマホの着信音が鳴る。
「誰よ!? こんな忙しい時に!?」
谷子はスマホの画面を見る。
「私の白い贈り物は喜んでもらえたかしら?」
「ああ!? 魔法少女ちゃんだ!? まさか!? この雪を降らせているのは魔法少女ちゃん!?」
なんと渋谷に雪を降らせたのは魔法少女だった。
「さあ! ゲームを始めるわよ! 今回のお題は、みんなで雪だるまを作りましょう! ノルマは1人1個。どう? 優しいお題でしょう。私からのクリスマスプレゼントよ! 期間はクリスマスが終わるまで。もちろん雪だるまを作らない悪い子は私の僕にしてあげよう! キャッハッハ!」
言うだけ言って、魔法少女との通信は途絶えた。
「そんな迷惑なクリスマスプレゼントいらない。」
谷子の体は胴まで体に埋まっていた。
「よっこいしょ。はあ、はあ、雪って、大変なんだな。雪国の人々はどうやって生きているんだろう?」
雪に埋まった体を手を雪について必死に足を雪の表面にはい出し、楽しかったはずの雪が、こんなにも大変な存在だと実感した。
「できた。」
谷子は手際よく雪だるまを手で握り作った。彼女は手先が器用ではないので残念な雪だるまが出来た。しかし彼女は本物の雪だるまを知らないので、自信作だった。
「きっと学校に行っても大雪警報で休みだから、家に帰ろう。」
止まない雪が雪の上に降り積もるので、谷子は雪の上を歩いて帰ることにした。地面を歩くと全身が雪に埋ってしまうからだ。積雪は2メートルを超えている。
「わ~い! 白いスクランブル交差点だ!」
渋谷のスクランブル交差点も雪に埋り、人もいなければ、車も走っていなかった。信号も丁度、雪で隠れていく。
「ハチ公が見えない。安らかに眠れ。」
電車の駅の側にあるハチ公の像も雪で埋まってしまった。周囲の建物は何も変わらないが、雪が降り積もるだけで、違う街に見えた。
「ただいま!」
谷子はマンションの自分の家に帰って来た。
「あんた!? どこから入って来てるのよ!?」
「窓。」
止まない雪は降り積もり、7メートル以上積もった。谷子は雪の上を歩いて、マンションのベランダの窓から帰って来たのだった。
「雪って、こんなに積もっていたのね。」
母、谷代も感心する雪の量であった。
「お母さん、もうコンビニは雪で埋まっているから買い出しにはいけないよ。」
「大丈夫よ。我が家には安売りで買い込んだカップラーメンが大量にあるから。」
これも貧乏な渋井家の食費の節約である。クリスマスでもカップラーメンで過ごす人はたくさんいる。
「それよりもおばあちゃんの所に避難させてもらおうよ。この雪はクリスマスが終わるまで降り積もるんだって。」
「そうね。大家さんにデリバリーで、ケーキとチキンを頼んでもらいましょう。」
「やったー! ケーキとチキンを食べれるんだね!」
「そういえば谷子はケーキとチキンを食べたことが無かったわね。」
「お母さん! 雪に埋まって玄関の扉が開かなくなる前に、さっさと行こう!」
「はいはい。分かりました。」
こうして谷子は大雪のおかげで、人生で初めてクリスマスケーキとチキンを食べることが出来たのだった。
ここは渋谷の街中。
「郵便物は俺が守る!」
父、谷男は雪に埋もれて配達ができなかった。
オチである。
つづく。
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