第3話 じゃんけん
ここは渋谷のマンションの屋根裏部屋。
「で、そのアダイブ・システムを私がジャックする。エル・エル・エルメス!」
渋井栞は人類を幸福にするためのアダイブ・システムを魔法で乗っ取った。
「魔法があれば何でもできるってね。」
魔法少女の前に機械やネットのセキュリティーは何の役にも立たない。
「人類が勝つのか、それとも私が勝つのか。私が勝ったら人類は私のものよ。」
「エルメス様、最低。」
「エルメス様、酷い。」
ケーリーとバーキンは苦言を呈する。
「なによ!? 勝つか負けるか!? 人生とは、ゲームよ!?」
この世は弱肉強食である。
「いいじゃない。負けた人類は私の降臨祭の準備スタッフになるだけなんだから。キャッハッハッ。」
「そのためだけに、この壮大な計画を寝ないで考えたんですね。」
「人気が出てメディアミックスされて降臨祭が実現したら、エルメスから高級バックが送られてきますよ。」
これが魔法少女が人類にゲームを挑む理由である。
「さあ! ゲームを始めるわよ!」
ほとんどの物事は、こうした個人のつまらない行動から始まる。
ここは渋谷のマンションの一室。
屋根裏部屋には魔法少女が引っ越してきた同じマンションである。
貧乏だが家族でがんばって暮らす渋井家がいた。ワンルームマンションで家族3人で暮らすには、なかなか小さい。6畳の部屋と台所とユニットバス、ベランダがあるだけである。
「おはよう、谷子。」
父、渋井谷男。
「おはよう、谷子ちゃん。」
母、渋井谷代。
「おはよう。お父さん。お母さん。」
娘、渋井谷子。
「いや~、それにしてもマイナンバーは便利だな。うちみたいなお金が無い家庭でも、国が支給してくれるからタダでスマホがもらえる。」
「あんたはスマホゲームしてるだけでしょう。」
「お母さんもね。」
「ワッハッハー!」
渋井家は、明るく楽しい家族で会った。
マイナンバーは国が管理している。日本国民一人一人、大人も子供もお姉さん、おじいちゃんとおばあちゃんにもマイナンバーは配布された。マイナンバーはカードでなく、全員にスマホで配布された。誰でもいつでも自分のマイナンバーを見ることが出来る。
「ゲーム! 楽しい!」
渋井谷子9才。小学3年生である。結論からいって、小学生の時の谷子は無敵に無双するくらい、明るく元気な女の子だった。もちろん趣味は読書である。容姿端麗で才色兼備に文武両道、カワイイ谷子はクラスで人気者だった。
「あれ? 画面が変だぞ?」
谷子がマイナンバーアプリのゲームで遊んでいると、急に画面が黒くなって、文字が浮かび上がってくる。
「さあ、ゲームの始まりです。」
谷子と栞の人類の存亡をかけた戦いが始まる。
「私の名前は魔法少女エルメス。この世界に降臨する者である。」
正々堂々とエルメスは自分の名前を名乗る。
「じゃんけんをして、10勝しましょう。出来ない人は、私の命令に従うように魔法をかけます。期限は24時間。さあ、私からのゲームを楽しみなさい。」
最初のゲームのお題は、じゃんけんだった。
つづく。
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